第13話 「穢れなき乙女」が見つかりました
「……勇者様、勇者様! 起きてください! 大丈夫ですか?」
と、誰かに声を掛けられる。
あ、危ない!
私、お風呂の中で寝てしまったようだ。あやうく溺れてしまうところだった。
心配そうに声をかけてくれたのは、スケスケの白い服を着た少女だった。
「勇者様、お着換えのお召し物をお持ちしました」
と少女の両手には、少女が着ているのと同じスケスケの白い服が。
お風呂を出ると、全裸の私をけなげな少女が、少し恥ずかしそうにバスタオルで拭いてくれる。
私のほうは、剣闘士になってからは控室で裸のままで過ごす機会も増えたので、女性だったらもう恥ずかしくないんだけど(苦笑)。
一生懸命、私のことを拭いてくれる少女をまじまじと見つめると、ボブの黒髪ですごい美少女だったんだけど。
あ、あれっ!
「メガネ……」
と、少女がメガネをかけているのに気づいて思わず口にすると、
「あ、そうです。これはメガネです。
ご存じなんですね。これって、もともとは異世界にあったものなんですよね?
異世界の人が持ち込んだ技術だって聞きました。
こちらの世界では、魔法で自分の視力を変える方法がありますが、こっちの方が便利ですね」
なんて一生懸命説明してくれる。この子、かわいいなー!
「あなたも、聖職者を目指しているの」
「はい、こちらで暮らしながら、毎日、神学を学んでいます」
へー、そうなんだ。
それで、首元のペンダントを持ち上げて、私の胸元をそっと拭きながら、
「このペンダント、素敵ですね(照)」
なんて言ってくるから、ついつい好奇心で、「ちょっとペンダントを握ってみて」と言ってみると。
「こうですか?」と言って、少女が鉱石を握ると、ピカっと光った!
「光りました! おもしろいですね。どういう仕組みなんですか?」
と驚きながら、聞いてくる。
へー、ペンダントの赤い鉱石って、異世界転移者の私だけでなく、聖職者の光の力も引き出せるのかな?
「なんか、秘めた力を引き出してくれるみたい。
遠くの人とやり取りもできたりするんだよ。
聖女になったら、あなたもペンダントをもらえるかもね。
私はヨーコ。あなたの名前はなんていうの?」
「私はシーラと言います。
勇者ヨーコ様、ご活躍はうかがっています。
王様をお守りして、いっしょに魔王の森を抜けてきたんですよね! すごいです!」
なんて会話をしながら、私もスケスケの服を着て、聖神会の聖職者見習いの子たちが集まっている部屋に、少女に案内されて向かったのだった。
そこにはキラキラしたまぶしい少女たちがたくさんいて、聖神会の神学長でルコーラ様から、
「みなさん。こちらの勇者様が、大事なお話があるそうです。
聖女様からは、くれぐれも失礼のないように、と言われてします。
みなさん、協力してあげてくださいね」
と紹介される。
「「「はーい」」」
と元気な声で答える少女たち。大人っぽい子もいるけど、まだまだ幼い子が多そうだ。
えっと、どうしようかな。
そういえば、魔王様から聞いてた話があったな。真の聖女は、ドラゴンのことを、前世の記憶から覚えているんだっけ?
「みなさーん! ドラゴンって知っていますかー?」
「はーい!」
「じゃあ、とーっても大きなドラゴンに、大昔にどこかで出会ったことがある気がする人は、この中にいますかー!」
と聞いてみると、困惑する少女たち。
すると、一人の少女が元気よく手を上げて、
「はーい! 私、見たことがあります!」
と声を上げる。
とてもかわいくて勝気そうな、クラスのリーダーって感じの子だ。
だけど、ホントにー? あやしいなー。この子、目立ちたいだけじゃないのー?
「彼女だけー? ほかにドラゴンを見たことある子はいないのー?」
と聞いてみると、みんな、手を挙げた子に気を使ってるのか、もじもじしてるだけで、手を上げない。
子どもたちを見回していると、奥の方にいた、さっきのメガネっ子と目が合った。
その子も、もじもじしているので、じーっと見つめ続けると、おずおずと、
「あの、私も見たことがあるかもしれません……」
と言ってくる。
ざわつく周りの子たち。勝気そうな子がメガネの子をにらみつける。
それで、まず勝気そうな子に、
「あなた、名前は?」
「カラーラです!」
「どんな感じでドラゴンを見たことあるの?」
と聞くと、カラーラが、
「小さいころに、森の中で出会いました!」
とふわっとしたことを言う。
一方で、シーラのほうは、
「よく覚えていないんですけど……。
暗闇の中で、とても大きな真っ黒なドラゴンがいて、私はそのドラゴンに向かってお祈りをささげたような気がします……。
そうしたら、ドラゴンの中から何か光るものが出てきて……」
なんて答える。
そういえば、さっきシーラにペンダントを触らせたら光ったけど、ひょっとして……と思って、
「二人とも、このペンダントを握ってみて」
と言ってペンダントを差し出して、まずカラーラに握らせてみたけど、特に何の反応もなかった。
で、シーラにも「あなたも握ってみて」と言って握らせる。
すると、さっきみたいにまた光り出した!
おどろくみんな!
興味を持った子たちが、次々とペンダントを握りに来たけど、残念ながら他に光らせることができる子はいなかった。
念のためにと思って、ルーコラ神学長様にペンダントを握ってもらうと、ピカっと光った!
さすが神学長様!
それで、安心してシーラってめがねっ子に、
「あなた、シーラちゃんだっけ?
私といっしょに、ちょっと行ってほしい場所があるの。お願い! とても大切な用事で、あなたの協力が必要なの!」
と伝えた。
そして、すぐに旅の準備をしてもらうことにして、聖神会の先生たちの部屋で待つことになった。
そこでルコーラ神学長様から、
「流石は勇者様、お目が高い。わたくし、感服いたしました」
と言われたので、その理由を聞くと、
「シーラは聖神会にいる聖職者見習いの中で、もっともすぐれた子です。
でも、性格がおとなしく、身分の高くない家の出身ということもあって、自分から進んで前に出てこない子で……よくあの子を見つけてくださいました」
と、とても感謝してくれた。
なるほどねー。私がいまドラゴンとつながっているからか、シーラちゃんに惹かれる何かがあったのかな?
それで、準備を待つ間、ついでにいろいろと、異世界のことを聞いてみる。
この世界の神は、「炎の神」と言われていて、聖神会も「炎」が信仰の対象となっているらしい。
そして、光の力とは、炎の神から分け与えていただく力で、祈りと修行、そして何より生まれ持った資質によって、使える力やできる魔法が変わってくるらしい。
聖神会の聖典によると、この世は炎の神が最初に光を生み出し、次に闇が生まれて、光の一族と闇の一族が生まれた。
その間に位置する存在として、人間たちいると伝えられているそうだ。
なーんて話を、暇つぶしもかねて聞いていたんだけど、なかなかシーラちゃんが来ないので「遅いなー」と思ってむかえに行くと、なにやら部屋の中が騒がしい。
部屋に入ると、選ばれなかったカラーラとシーラちゃんがもめているみたいだ。
もめているというより、シーラちゃんが一方的にやられてる?
「なによ! シーラみたいな身分が低くてひ弱な子が選ばれるなんて、おかしいじゃん!
さっきの光といい、なにかズルをしたんでしょ!」
とカラーラ怒ってて、一方的にシーラちゃんの腕をつかんで引っ張りまくってる。
「やめなさーい!」
と間に入って、カラーラをいさめる。
「あなた、選考に納得がいかないんだったら、私に言いなさい。
この子を選んだのは、私なんだから」
と言うと、しゅんとなって、
「だって、シーラが選ばれるなんておかしいんだもん」
「あのねー、この子は実力で選ばれたの。
もし、この子が次の聖女様になったら、あなたはどうするの?」
と聞くと、ハッとした顔をして、
「そうしたら、炎の神の使いになんてならない!
どこかの貴族のお嫁さんになるわ!」
なんて怒った表情で言うから。
「あのねー、聖神会に入るのって大変名誉なことなんでしょう?
そんな勝手なことをご両親に言えるぐらい、あなたは自由にできるの?」
と聞くと。泣き出しそうな顔をしたので、ちょっと言い過ぎたかなと反省すると、カラーラをぎゅっと抱きしめてあげて、
「自由に生きたかったら、それに見合う実力をつけないとね。
親の身分や仲間の数だけじゃなくてさー」
と諭す。
そして、とまどった顔をしているシーラちゃんに、「さあ、行こう」と言って、その場を離れた。
魔王の森に連れていける聖女候補が見つかったので、リンターロとお城に戻って報告すると、ちょうど軍事作戦の内容も決まったようだ。
いま、グンペーイ王国とブゴニア国の両軍がぶつかり合っている国境に、有力な貴族が大軍を率いて攻勢をかけて、数の力で押し返そうとする。
そこに数で劣るブゴニア国中の兵士を集めさせて、その裏でドレイクが軍勢を率いて、魔王の森からブゴニア国の裏側に出て、ブゴニア国の城に攻め入って、反乱を企てた王族の生き残りを一網打尽にするという作戦だ。
作戦が決まったところで、もうゲートが閉まるまであまり時間がないので、私たちはドレイクを先頭に、深夜、暗闇に紛れてひっそりと出発した。




