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真実と告白の狭間で

“勝利”の先にある現実だった。


学園長の崩壊、システムの揺らぎ。


だが、それですべてが終わったわけではない。


むしろ――ここからが本当の始まり。


明かされていくのは、この学園のさらに奥にある“構造”。


エーテリアル、企業「5i」、そしてその裏で動く者たち。


それぞれの思惑が交錯する中、

物語は一つではなく、二つの道へと分かれていく。


選択ではない。


必然としての分岐。


それぞれが、それぞれの“救い”へと進む。

(りん)


アレンくんたちの足音が廊下の向こうへ遠ざかっていく。まだアカデミーのあちこちで響いているバトルの音に混ざって消えていった。あたしはヨルムくんの前に立ったまま、二人の間に降りてきた重い沈黙を感じていた。


アレンくんの心配……あれは本物だった――目に、肩の緊張に、全部表れてた。最後に投げかけてくれた「お前なら大丈夫だ」って信頼が、今のあたしを支えてる唯一のものなのかもしれない。じゃなきゃ、きっと追いかけてた。


「さてと」


ヨルムくんがいつもの軽い調子で沈黙を破った。まるで何も気にしてないみたいに。


「ここにいるのは僕たち二人だけ。ちょっとドラマチックだと思わないかい?」


そんな挑発には乗らない。代わりに腕を組んで、真っ直ぐ見つめた。


「どうして? どうしてあたしを残したの?」


ヨルムくんが肩をすくめる。唇には遊ぶような笑み。


「理由が必要かな? もしかしたらただおしゃべりがしたかっただけかもしれないよ。君と僕、本当に話す機会なんて一度もなかったからね。いつも君は忙しそうだ……まあ、君らしくね」


「それは答えになってないわよ」


声は、心の中より強く出た。


「アレンくんたちは学園長のところに行かなきゃいけないの。一秒だって無駄にできない。なのにあなたは止めた。あたしを止めた。だから教えて、どうして」


ヨルムくんの笑みが少し薄れた。でも完全には消えない。


「君は特別だからさ、りんさん。それがいつだって答えなんだろう? 特別で、ユニークで、違う。そう言われてきたんじゃないかい?」


イラッとした。


「最近、みんながそう言うのよね。『特別』『ユニーク』『違う』って。でもそんなの、ただの言葉じゃない。理由を説明してくれなきゃ意味がないわ」


「ああ、でもそこがポイントなんだよ」


ヨルムくんが一歩前に出る。思わず一歩後ろに下がって、距離を保った。


「もしみんなが君にそう言うなら……きっと本当なんだろうね。本当に君はそういう存在なのかもしれない。そしてその証拠は、君自身が行動で、決断で、それを確認しているってことさ」


眉をひそめた。


「どういう意味よ?」


「例えばね、武蔵会長。君は生徒会長を倒したけど、それは強かったからじゃない。彼が忘れていた何かを理解していたからだ――本当の力はコントロールからじゃなく、つながりから生まれるってことをね。それが特別なんだよ、りんさん。このアカデミーで、この世界で、それを本当に理解してる人なんてほとんどいない」


武蔵会長の名前が出て、少し身震いした。


「武蔵会長が何の関係があるの? あなたは副会長でしょ。彼と一緒にいて、助けるべきなんじゃないの? ……今やってることじゃなくて」


ヨルムくんが柔らかく笑った。本気で面白がってるみたい。


「武蔵会長はね……変化の瀬戸際にいる。君にも見えるだろう? 君との対決が彼を揺さぶったんだ。根底からね。でも最後の一押しが必要なんだ。どんなリーダーになりたいのか、本当に決めさせる最後の対決が」


「それを誰かがするって思ってるの?」


自分でも驚くほど、純粋に興味が湧いた。


「ほぼ確信しているよ」


ヨルムくんの声から、初めて遊びのトーンが消えた。


「このアカデミーは限界まで追い詰められた人たちでいっぱいだからね。誰かが武蔵会長と対決する。そしてそれが起きたとき……まあ、どちら側を選ぶか見ものだよね」


ヨルムくんの顔をじっと見つめた。この人の謎を解こうとして。いつもそこにいた。端っこで、観察してるけど滅多に参加しない。役者たちの世界の観客。


「じゃあ教えて、あなたは本当は誰なの?」


ついに言った。


「生徒会の副会長じゃなくて。謎めいた観察者でもなく。ヨルムって誰?」


ヨルムくんの表情が変わった。いつも浮かべてる笑みが完全に消えて、今まで見たことないような真剣な顔に変わった。初めて、ヨルムくんが完全にそこにいる、完全にリアルに感じられた。


「それは複雑な質問だね」


認めた。声が違う――低く、疲れてる。


「でも君にはその答えを返すべきなんだろうな。こうして意志に反して引き留めてるんだから」


言葉を慎重に選んでるみたいに間を置いた。


「僕は……特別エージェントなんだ。アカデミーの創設者から直接派遣された」


まばたきした。情報を処理してる。


「創設者? このアカデミーを作った人?」


ヨルムくんが頷いた。


「そう。まあ『エージェント』って聞こえはちょっとドラマチックすぎるけどね。実際はもっとシンプルなんだ。父が創設者の友人でね。幼馴染だ。創設者が……控えめに、アカデミー内で疑われずに動ける誰かを必要としたとき、父が僕を提供した」


「提供したって?」


信じられない。


「まるで……パッケージみたいに?」


ヨルムくんが弱々しく笑った。


「そんな感じかな。もちろん断る選択肢はあったよ。でも本当は……やりたかったんだ。何か刺激的なことを生きたかった。本物の何かを。それまでの人生はかなり……予測可能だったからね」


窓の方へ歩いて、外を見た。


「創設者は……彼なりの風変わりな方法で、優しい人なんだよ」


ヨルムくんが続けた。


「管理者モードでシステムへのアクセスをくれた。アカデミーに関連する多くのことを変更、修正できる。スキル、ポイント、ルールさえもね。王国の鍵を持ってるようなものだけど、絶対に必要な時以外は使うなって明確な指示付きでね」


全部を処理しようとして、眉をひそめた。


「待って。もしそんなに近いなら――あなたのお父さんと創設者が友達なら――どうして名前じゃなくて『創設者』って呼ぶの?」


ヨルムくんが振り返った。真剣な表情。


「一定の距離を保つ方がいいからさ。それに、彼の到着は間近なんだ。部下たちが起こした問題を解決するために、もうすぐ現れるだろう」


「部下たち?」


心臓が速くなった。


「……5iのこと?」


ヨルムくんがゆっくり頷いた。


「そう。5i。5iコーポレーション」


近づいた。不信感が一時的に、答えを求める気持ちに負けた。


「じゃああなたは5iで働いてるのヨルムくん」


「いや、僕は従業員でも何でもない。部下たちって言ったのは、彼の部下だった他の人たちのことだよ。過去形でね。創設者は元々5iを研究部門として作った。目的は人間のスキルを研究し、エーテリアルを理解し、人間の可能性の限界を発見することだった。でも……組織って独自の命を持つようになるものなんだよね」


壁にもたれて腕を組んだ。


「数年前、創設者は5iの実効支配を失った。科学者たち、研究者たちが他の何よりも研究を優先し始めた。倫理が……柔軟になった。手段が目的を正当化し始めた。そして創設者は、いつも管理者というより理想主義者だったから、築き上げたすべてを破壊せずにそれを止める方法がわからなかった」


胃にしこりができた。


「アカデミーは? 生徒たちは?」


「アカデミーは管理された環境として作られたんだ」


ヨルムくんが説明した。初めて声に恥ずかしさのようなものが混じった。


「スキルを持つ若者が成長できる場所。でも同時に、彼らの感情的な反応が――思春期特有の強烈で純粋な反応が――研究できる場所でもあった。なぜならエーテリアルは……エーテリアルは単に作られた怪物じゃないから……」


「じゃあ何なの?」


声がほとんど囁きになった。


「人間の感情に引き寄せられるんだ。特に強烈な感情に。恐怖、怒り、喜び、愛。自分が誰なのか発見してる思春期の子たちでいっぱいのアカデミーは、スキルを発展させて、すべてを初めて経験して……エーテリアルにとっては灯台みたいなものなんだよ。感情のビュッフェさ」


一瞬目を閉じた。少しめまいがする。すべてが恐ろしく歪んだ形で意味を持ち始めた。だからスキルシステムが感情に、性格に、一人一人の心理に基づいてるのね。これが理由。


「でももっとあるんだ」


ヨルムくんが続けた。


「特定のエーテリアルがいる――原初、彼らはそう呼んでる。最初のもの。脳みそ、と言ってもいいかな。もしそのエーテリアルが倒されたら、他のすべても消える。5iの科学者たちが何年も前に発見した根本的なつながりなんだ」


「じゃあどうしてやらないの?どうして見つけて破壊しないの?」


「それを引き出すのがほぼ不可能だからさ。エーテリアルの世界の……まあ、何であれ、その最深層に隠れてる。特定の刺激、特別な信号が必要なんだ。そして何年も、5iはその信号を見つけようとしてきた」


間を置いて、真っ直ぐあたしを見た。


「ひめかさんが現れるまではね」


ぞくっとした。


「ひめか……さん? ひめかさんがこれと何の関係があるの?」


「すべてだよ」


ヨルムくんが優しく言った。


「ひめかさんは最初のエーテリアルを作った科学者の子孫なんだ。曾祖父か、もっと遠い親戚か――記録は不完全だけどね。でも血は彼女の血管に流れてる。彼女のデータとアカデミーのシステムの融合は事故じゃなかったんだよ、りんさん。テストだった。そして5iの一部が疑っていたことを確認したんだ――原初エーテリアルは彼女の存在に反応する。創造者の残響を彼女の中に感じるんだ」


反対側の壁にもたれた。膝が震える。


「そんなの……そんなの狂ってるわ」


「そうかな?」


ヨルムくんが眉を上げた。


「考えてごらん。なぜわざわざひめかさんを誘拐する? 一番強くもない、一番戦略的でもない。でもユニークなんだ。そしてリリスさんはそれを理解した。彼女のエゴ、『純粋な科学』への執着が他のすべてを見えなくさせたけど、ひめかさんの価値は理解したんだ」


「信じられない……」


「そして僕には君に嘘をつく理由がない……ねえ、元々僕の目的は別だったんだけど、ひめかさんの出現は誰も予測しなかった変数だった。まあ、原初エーテリアルがひめかさんに気づいたのは、彼女がアカデミーの最終学年になってからだけどね」


「どうしてリリスさんがこれを全部知ってるの? リリスさんって本当は誰なの?」


「リリスさんは5iそのものなんだよ、多くの意味でね。少なくとも、5iが変質した姿の体現だ。冷たく、計算高く、『進歩』の名の下にどんな一線でも越える覚悟がある。創設者は彼女を止めようとした、組織を元の原則に戻そうとした……でもその時にはもう遅すぎた」


全部を処理した。頭がぐるぐる回る。ついにヨルムくんを見た。


「あなたは? あなたはこの中でどこに入るの?」


「僕は創設者が内部から物事を修正しようとした試みさ」


ヨルムくんが乾いたユーモアで言った。


「彼の『ダメージコントロール・エージェント』。監視して、報告して、完全に制御不能にならない限り介入しないことになってた……もちろん、そうなったわけだけどね」


「どうして全部あたしに話すの?」


声が震えた。


「どうしてあたしに?」


ヨルムくんが見つめてきた。一瞬、今まで見たことないものがオッドアイに見えた――弱さ。


「二つ理由があるんだ」


声が柔らかくなった。


「一つ目は……君が特別だから。スキルや立場って意味じゃない。世界の見方、人との関わり方が特別なんだ」


「二つ目の理由は?」


もう答えの一部は予感してたけど。


ヨルムくんが深呼吸した。崖から飛び降りる準備をしてるみたいに。


「二つ目はもっと個人的なことなんだ」


廊下が小さく、親密になったみたい。自分の心臓の音が耳に聞こえる。


「去年の体育祭からなんだけどね」


ヨルムくんが始めた。視線を外さない。


「君が競技してるのを見た。勝つためじゃなく、スポーツが好きだから、自分を超える感覚が好きだから。君は……透明なんだよ、りんさん。そういう人はほとんどいない。ゲームをしない、仮面を使わない。ただ君でいる。そのシンプルさ、その本物らしさが……信じられないほど魅力的なんだ」


頬が熱くなった。


「ヨルムくん、あたし……」


「最後まで聞いて」


優しく遮られた。


「その瞬間から……観察し始めたんだ。君の安全を確保するために。管理者ツールを使って状況を監視して、潜在的な脅威を逸らした。エーテリアルがもっと頻繁に現れ始めたとき、君のルートがクリアか確認して、必要なときに友達が近くにいるか確認した」


小さな出来事の数々を思い出した――ちょうどあたしがエリアを出た後にエーテリアルが現れたこと、バトルがいつも妙に都合よく有利に傾いたこと。いつも運か、自分のスキルの成長のおかげだと思ってた。


「ずっと……影から守ってくれてたの?」


感謝と居心地の悪さが混ざった気持ち。


「そんな感じかな」


ヨルムくんが認めた。頬に軽い赤み。


「騎士道的じゃなかったね。むしろ執着的で少し不気味だった、認めるよ。でも止められなかった。観察すればするほど、気づいたんだ……君が好きなんだって。科学的とか分析的にじゃない。ロマンチックな意味で」


続いた沈黙が重かった。空気の中に期待を感じる。ヨルムくんの告白の重みが二人の間に吊るされてる。


ついにヨルムくんがまた話した。声が落ち着いてる。


「だからそれが二つ目の理由さ。全部話したのは……君を信頼してるから。君のことが大切だから。そして、本当に危険になる前に……まあ、真実を知っててほしかったんだ」


深呼吸した。正しい言葉を探して。


「ヨルムくん、あたし……正直でいてくれて感謝してる。本当に。守ってくれたことも感謝してる。ちょっと……変わった方法だったけど」


間を置いた。ヨルムくんの目に一瞬希望が輝くのを見てから続けた。


「でも、その気持ちには応えられない」


ヨルムくんがゆっくり頷いた。もうその答えを予想してたみたいに。


「誰か他に好きな人がいるからだよね?」


まばたきした。驚いて。


「どうして……?」


「君は透明だって、覚えてるだろう」


ヨルムくんが悲しい笑みで言った。


「それに気づいてるのは僕だけじゃない。去年で、誰かが告白してきたよね? 前の生徒会長、銀太郎先輩。そして同じ理由で断った」


真っ赤になった。銀太郎先輩の気まずいけど誠実な告白を思い出して。


「どうしてそれを知ってるの?」


「管理者モード」


ヨルムくんが指を上に向けた。


「ほとんどすべてにアクセスできる。そう、知ったんだ。実際、見つけるのはそんなに難しくなかった。あの人を見る君の目……その人が危険にいるとき決意が強まる君の様子……」


視線を落とした。露出された気分。


「隠そうとしてるわけじゃないの。ただ……複雑なのよ」


「感情はいつもそうさ」


ヨルムくんがため息をついた。


「それでいいんだ。本当に同じように感じてくれるなんて期待してなかった。ただ……言う必要があったんだ。遅すぎる前に」


また沈黙の瞬間。でもこれは違った――軽くなった。重荷が持ち上げられたみたい。


ついにヨルムくんが背筋を伸ばした。夢から目覚めるみたいに身震いして。


「さてと。これは……カタルシスだったね。じゃあ、本題に入ろう」


まだ全部を処理しながら見つめた。


「本題?」


「そう」


ヨルムくんの表情が決意に満ちた。


「行かなきゃ。救出しなきゃいけない人がいる」


すぐに頷いた。


「ひめかさんね。アレンくんはもう向かってるはずだけど――」


「ひめかさんの話じゃないんだ」


ヨルムくんが遮った。


まばたき。


「じゃあ誰?」


ヨルムくんが真っ直ぐ目を見た。


「リリスさんだよ」


「リリスさん!?」


信じられない。


「同じリリスさんのことを話してるの?ひめかさんを誘拐した? 5iで働いてる? どうしてあたしたちが彼女を救出しなきゃいけないのよ!?」


「思ってるのとは違うんだ」


ヨルムくんがもう廊下を進んでる。思わず後を追った。


「リリスさんは……そう、冷たくて、計算高くて、科学に執着してる。でも被害者でもあるんだ。創設者が彼女をリクルートしたのは十四歳のときだった。早熟な天才、友達もいない、研究室の外に人生もない。彼は目的を与えた。でも同時に普通の世界から隔離した」


「それで彼女がしたことが許されるわけじゃないわ」


思ってたより確信のない声で言った。


「いや、許されない。そして僕は許そうとしてるわけじゃない。でも彼女をただの悪役より複雑な存在にするんだ。リリスさんは自分がしてることが大きな善のためだと信じてる。研究が長期的には命を救うと信じてる。そして最も重要なのは……僕たちが必要とする情報を持ってるってことさ」


今まで気づいたことのない教室の扉に着いた。ヨルムくんがパネルにスマホを置くと、柔らかい青い光で照らされた。


「どんな情報?」


扉が音もなく開くのを見た。


「原初エーテリアルの正確な位置」


ヨルムくんが答えて扉に入った。


「5iのひめかさんに関する完全な計画。そして……もう一つ。創設者が僕に個人的に言った、時が来たら必要になるものがあるんだ」


扉を抜いて後を追った。LED照明で照らされた狭いサービス通路に出た。空気が冷たく、埃と静電気の匂い。


「どうしてリリスさんを救出する必要があるの?」


くねくねした通路を進みながらヨルムくんに聞いた。


「彼女は自分で何とかできるんじゃないの?」


ヨルムくんが一瞬止まった。振り返って見てくる。


「5iはもう彼女を資産と見てないからさ。リスクと見てる。彼女は……予測不可能になった。『ひめかケース』に個人的に投資しすぎた。そして5iでは、役に立たなくなったり、居心地の悪い質問をし始めたりすると……」


「簡単には行かせてくれない」


あたしが続けた。温度とは関係ない寒気を感じて。


「その通り」


ヨルムくんが歩き続けた。


「リリスさんは危険にいる。そして彼女が恐ろしいことをしたとしても……彼らが彼女にしようとしてることに値しない。誰もそんなことには値しない」


しばらく黙って歩いた。全部を処理して。ついに言った。


「彼女の情報が必要なのは認めるわ。でもこの後……ひめかさんを救出して5iを止めた後……リリスさんは自分の行動の結果に向き合わなきゃいけない」


ヨルムくんが振り返らずに頷いた。


「それは公平だね。創設者も同意すると確信してる。彼はいつも救済を信じてきた。セカンドチャンスをね。それが物事がここまで制御不能になった理由の一部でもあるんだけど」


通路が下り始めた。緩やかなスロープに。地下へ、アカデミーの下層階へ向かってるのがわかった。


「これはどこに続いてるの?」


どこに向かってるのかあまり注意を払わずに聞いた。


「古いメンテナンストンネルさ」


ヨルムくんが説明した。


「アカデミーの元のシステムの一部。5iが拡張して、主要作戦基地にした。アレンさんたちはおそらく研究棟の正面入口から入ってる。僕たちは……別の入口を使うんだ」


「どうしてこれを全部知ってるの?」


もう答えは予想してたけど。


「管理者モード」


ヨルムくんがいつもの小さな笑みをひねった。


「すべてのマップを持ってる。秘密のはずの部分のもね」


下り続けた。通路が狭く、圧迫的になる。土の重みを感じる。この先に約束された危険。


ついにヨルムくんが別の扉の前で止まった。今度は潜水艦みたいな開放ホイール付きの頑丈な金属製。


「この扉を過ぎたら」


両手をホイールに置きながら言った。


「後戻りはできない。5iの領域に入る。準備はいい?」


アレンくんのこと、ひめかさんのこと、上でリスクを冒してる生徒たち全員のことを考えた。アレンくんが置いていくとき託してくれた信頼のことを。


「準備できてるわ」


しっかりした声で言った。


「リリスさんを救出しに行きましょ。それからこれを終わらせる」


ヨルムくんが頷いた。本物の尊敬の表情。


「そう言うと思ったよ」


ホイールを回した。金属的な軋み音を立てて動いた。扉が内側に開いて、向こうに暗闇が見えた。


深呼吸した。準備して。


でもちょうど入ろうとしたとき、ヨルムくんが腕に手を置いて止めた。


「りんさん」


真剣な声。


「中で何が起きても……君に会えて良かったって知っててほしい。本当に」


見上げた。オッドアイに誠実さが見えた。


「あたしもよ、ヨルムくん。そして……ありがとう。正直でいてくれて」


ヨルムくんが頷いた。本物の笑み――いつもの謎めいた笑みじゃなく、もっとリアルで、もっと弱さのあるもの――が唇に現れた。


「どういたしまして。じゃあ……問題のある科学者を救いに行こうか」


一緒に暗闇に入った。扉が後ろで閉まって、それまでの人生の章の終わりを告げるみたいに鈍い音が響いた。


この先に何が来ても、一緒に立ち向かう。


そしてあたしは、アレンくんやひめかさんのことを心配しながらも、不思議な落ち着きを感じた。


まさにいるべき場所にいて、まさにやるべきことをやってる。

次回――


舞台は変わり、ひめかへ。


閉ざされた空間の中で、彼女は思い出す。


連れ去られたあの日のこと。

そして、自分が何者なのかという真実。


語られる血筋――過去に繋がる存在。


彼女はただの被害者ではない。


“始まり”と繋がる存在。


さらに明かされる、エーテリアルの核心。


それは意思を持つ存在ではなく、

呼び寄せられるもの。


感情に引き寄せられる“反応”。


そして、内部で起きている亀裂。


リリスと、もう一人の研究者。


その対立が意味するものとは――。


やがて鳴り響く警報。


侵入者の存在。


救いは近いのか、それとも――。

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