繋がりがシステムを超える時
アレンはついに“本当の力”へと辿り着いた。
それは、誰かを操る力ではない。
繋がり、信頼、そして想い。
目には見えないそれらが、確かな力として形を持ち始める。
そして彼は対峙する。
この学園を支配してきた存在――学園長。
だがその戦いは、力でねじ伏せるものではなかった。
理解し、突きつけ、崩していく。
長く続いてきた歪みが、
今、終わりを迎えようとしている。
だが――それは終わりではない。
すべては、次の選択へと繋がっていく。
樫の扉が軋んだ音を立てて開いた。廊下の静寂に響く、まるで前兆のような音。学園長に会えると思っていたのに、目の前にいたのは細縁の眼鏡をかけた中年女性だった。氷のように冷たい表情。副学園長のクリスティーナ・ウェイク――空っぽの机の前に立っていた。僕の到着に驚いた様子はない。
「あなた方が反逆者ですのね」
彼女の声は剃刀のように冷たく、正確だった。
「参られることは存じておりました」
苛立ちが込み上げてくる。また障害か。また時間の無駄だ。
「学園長はどこです?」
前置きなしに要求した。一秒一秒が大切なんだ。
副学園長は眼鏡を直した。
「こちらにはいらっしゃいません。東棟の私室にいらっしゃいます。いずれ生徒の一団がこのような行動を起こすことを予測なさっておられました」
なぜそれを教える? そう思ったが、考える暇もなく彼女は続けた。
「しかし、私はここにおります。そして私の命令は明確です――この騒動を止めること。これは依頼でも質問でもございません。命令です」
空気が張り詰めるのを感じた。仲間たちが僕の後ろに集まる。戦いの準備ができている。審判委員会と白麗のメンバーが背後に半円を形成していた。
「副学園長……」
頭の中で刻まれる見えない時計を意識しながら、冷静さを保とうとした。
「僕たちは騒ぎを起こしに来たんじゃない。正義のために来たんです。真実のために。仲間の一人が、このアカデミー内で好き勝手やってる人間に誘拐されたんです」
副学園長は動じなかった。
「この学園の安定が私の最優先事項です。たとえ意図がどれほど高潔であろうと、生徒の一団が数十年の伝統と秩序を破壊することを許すわけにはまいりません」
「秩序?」
声が硬くなるのを感じた。
「権力を持つ人間からそれを聞くのはもう飽きた。生徒を家畜のように分類し、実験動物として扱い、僕たちの仲間がベッドから連れ去られても見て見ぬふりをするシステムを秩序と呼ぶんですか?」
初めて、副学園長の表情に何かが変化した。驚きでも後悔でもない。純粋な苛立ちだった。
「君は理想主義者ですのね、若い方。君より前に多くの者がそうでした。理想とは、現実の組織が許容できない贅沢品なのです。現実は汚く、複雑で、妥協に満ちております」
「妥協の代償を払うのは、いつも弱い者だ」
反論した。
「違う。今日はもう妥協しない。今日は答えを要求する。学園長がここにいないなら、どこにいようと僕たちは突き進む」
副学園長はため息をついた。本当に疲れたような音だった。
「では、選択肢を与えていただけませんわ」
彼女の手が驚くべき速さで動いた。鉛筆が右手に現れ、反応する間もなく変形し始めた――伸び、長くなり、細く正確な剣に変わっていく。
「スキル:『秩序の道具』」
冷たく宣言した。
「規則を書くための鉛筆。それを執行するための剣」
同時に、左手で空中に円を描いた。琥珀色の半透明の障壁が、オフィスの周囲に出現し、出口を封鎖した。
「これが終わるまで、誰も出られません」
本能的に反応した。糸――大半の人には見えないが、意志の確かな延長――が指から飛び出した。絡み合って即席の盾を形成し、剣鉛筆の最初の一撃を鋭い金属音とともに受け止めた。
ここで時間を浪費できない。学園長に辿り着かなきゃ。ひめかを見つけなきゃ。
でも副学園長は熟練していた。すべての動きが経済的で、正確で、無駄がない。傷つけるためではなく、封じ込めるため、遅らせるために戦っている。そして理解した――彼女は、何か別のことが起こるまで、僕たちをここに留めておけばいいだけなんだ。
「なぜ学園長の居場所を教えた?」
脚を狙った一撃をかわしながら独り言のように呟いた。
「罠か? それとも……試しているのか?」
考える時間はなかった。副学園長が連続攻撃を繰り出し、後退を余儀なくされる。糸は思考の延長として動き、受け止め、逸らし、反撃する。でも直接戦闘は得意じゃない――僕の強みは常に戦略にあった。つながりにあった。
その時、三人の人影が僕と副学園長の間に割って入った。
アヤ――すでに鎖をほどき、銀色の光を放っている。
エリザ――戦闘用グローブが柔らかなエネルギー音を発している。
かんな――氷の刀が手の中で形成され、刃の周りの空気が冷気で曇っている。
「アレン!」
アヤが振り返らずに言った。
「行きなさい」
「ダメだ」
即座に答えた。
「君たちを置いていけない――」
「置いていく問題じゃありません!」
エリザが遮った。声は不思議なほど穏やかだが断固としている。
「信頼の問題です。私たちがこれを処理できると信じてください。あなたから学んだことを信じてください」
かんなが頷き、刀を副学園長に向けた。
「前に進む一歩……残していく一人一人……それは損失じゃない。アレン。信頼の連鎖。そして私たちはあなたが進めるように、残る選択をするリンク」
喉に何かが詰まる感覚。前に進むたびに、何かを置いていく。すべての勝利には代償がある。これ以上、どれだけ彼女たちに払わせられる?
副学園長は臨床的な興味で光景を観察していた。
「感動的ですわね。しかし感傷は事実を変えません。あなた方のうち誰一人として、私の相手にはなりませんわ」
アヤが笑った。獰猛で美しい笑み。
「そうかな?一人ならね。でも一緒なら……」
鎖が緊張した。
「一緒なら、あんたより大きなものを倒してきたんだぜ、ババア!」
バトルが始まった。
アヤが最初に突進し、鎖が銀色の蛇のように回転する。副学園長は剣鉛筆でそれを逸らしたが、エリザがすでにそこにいて、計算された正確さで拳を繰り出す。副学園長は後退し、連携に驚いたが、かんなが左側に現れ、氷の刀が冷たい弧を描いて彼女を捉えそうになった。
動けなかった。行かなきゃ。でももし何かあったら……
肩に手が落ちた。レンが僕の横にいた。いつもの落ち着いた決意の表情。
「一人じゃねえよ」
単純に言った。
そして声を上げた。
「今だ!」
僕の後ろで――仲間たち、クラスメイトたち全員が、バトルに加わる位置についた。エドワーと彼の戦闘の傘、マリと輝く化学フラスコ、朋也と肩に担いだ大砲、テオとテアが両側に補完的な位置を取り、みことリボルバーを構えた。全員――この旅を僕と始めたFクラスの仲間全員が、副学園長の周りに円を形成した。
佐々木に率いられた委員会が、審判としての特別なスキルを使って副学園長が立てた障壁を取り除いた。道が開けた。
「アレン」
レンが目を真っ直ぐ見つめて言った。
「先に行け。後で会おう。こっちは任せろ。犠牲じゃねえ――選択だ。オレたちの選択だぜ!」
佐々木が近づいた。
「その通りです。行きましょう、アレン。学園長と対峙するには、まだ人数が多すぎます。君、委員会、白麗。これが最善のチャンスです」
一人一人の顔を見た。獰猛な笑みで戦うアヤ。ミリ単位の精度ですべての動きを計算するエリザ。静かで致命的なかんな。レン、エドワー、マリ、朋也、テオ、テア、みこ――全員が義務ではなく、確信のために戦っている。
彼女たちは軍隊の兵士じゃない。何かを信じる友人たちだ。僕を、そう、でもそれより大切なのは、僕が代表するもの――従うか潰されるかを選ばなくていい世界の可能性を信じている。
彼女たち――アヤ、エリザ、かんなを見ながら思った。それぞれが強さの異なる側面を見せてくれた。アヤはその激しい忠誠心、エリザはその不屈の精神、かんなはその静かなつながり。そしてりん……決して諦めない心を持つりん。
胸に奇妙な温かさが広がり始めた。恐怖じゃない。怒りじゃない。もっと深い、もっと根本的な何か。
ついに頷いた。
「みんな、気をつけて!」
振り返らず、委員会と白麗のメンバーに向き直った。
「行こう!」
* * *
アカデミーの東棟は無人だった。あまりにも無人すぎる。廊下は空っぽで静かで、足音の響きだけが伴侶だった。
「これはおかしい」
委員会のメンバーの一人が呟いた。
「罠だ。絶対に」
分かってる。すべての感覚が、この容易さが不自然だと告げていた。でも選択肢はない。前に進むしかない。
学園長の私室は、長く明るい廊下の突き当たりにあった。扉は暗い木製で、プレートも標識もない。手を伸ばし、一瞬ためらった。
もしいなかったら? これ全部がひめかの本当の居場所から遠ざけるための陽動だったら?
でも違う。学園長は答えを持っている。そしてそれが必要なんだ。
扉を開けた。
部屋は広いが質素だった。古い本でいっぱいの本棚、重厚な木製の机、そして中央に、杖に寄りかかって立っている学園長。ただ待っている。まるで正確にいつ到着するか知っていたかのように、扉に視線を固定している。
「審判委員会と白麗と呼ばれる生徒の集団が来たか」
学園長が言った。その年齢と地位にしては驚くほど穏やかな声だ。
「予想より早く到着したな……」
中に入り、他のメンバーが続いた。委員会と白麗が防御陣形で展開したが、学園長は攻撃の動きを一切見せなかった。
「学園長」
一歩前に出た。
「終わりです。アカデミーは真実を知っています。生徒たち、教師たち……全員が5i、エーテリアル、ひめかのことを知っている。もう伝統や秩序の裏に隠れられない」
学園長が観察してきた。その老いた目は信じられないほど鋭い。
「私が隠れていると思うのか、青年?」
「そうじゃないんですか?」
声が上がり、数ヶ月の闘争のすべてのイライラが込められた。
「コーポレーションが生徒を実験することを許し、スポーツチームかのように分類し、リリスのような人間がアカデミーの真ん中で仲間を誘拐しても見て見ぬふりをする!」
初めて、学園長の顔に感情らしきものが横切った。怒りじゃない。悲しみ?
「君の言う多くは正しい」
学園長が認めた。
「しかし根本的なところで間違っている」
反論しようとしたが、その時学園長が動いた。大きな動きじゃない。ただ杖の先端で床を叩いただけ。
そして爆発のように感じた。
杖からエネルギーの波が放たれた。目に見えないが明白――空気の圧力変化として感じ、続いて風でない風――純粋な意志の力の突風が襲った。
反応する時間はなかった。ただ恐怖とともに見た――委員会と白麗のメンバーが一斉に倒れるのを。まるで糸を切られた人形のように。一人、二人、十人――全員が地面に崩れ落ち、意識を失ったが明らかに無傷だった。
僕だけが立っていた。
周りを見回し、信じられなかった。それから学園長を見た。そして――予想しなかったものを見た。学園長の顔に本物の驚き。
「興味深い……」
学園長が杖を下ろしながら呟いた。
「非常に興味深い」
「何を……何をしたんです?」
声が震えていた。
「私のスキル――『組織への服従』」
学園長が説明し、ゆっくりと近づいてきた。
「生徒の反抗心を抑制する。二つの単純なルールの下で機能する。第一に、意志の力が私を超える者には効かない。第二に……」
立ち止まり、まるで珍しい標本のように僕を観察した。
「第二に、厳密には完全な生徒でない者には効かない」
瞬きした。
「どういう意味ですか?」
学園長は手を振った。
「完全なルールを明かすことは弱点を明かすことだ。そして老いているが、愚かではない」
さらに近づき、僕の顔を凝視した。
「しかし君は……君の意志は強大だ、青年よ。あるいは君の中に私のスキルが触れられない何かがあるのか」
ゾクリとした。完全な生徒じゃない? どういう意味だ? ひめかとのつながり? 同盟の設計者としての役割?
でも哲学する時間はなかった。
怒りが内側で沸騰するのを感じた。
「それだけですか? 言葉遊びと汚いスキル? ひめかがどこかで怯えて、一人でいる間に?」
「知らないとでも思うのか?」
学園長が尋ね、突然声から感情が失われた。
「毎晩。私の決断が正しいか自問して目覚めないとでも。 君の友人……いや、明確に言おう。不知火ひめかさんの誘拐は正当化できない。完全に認める」
その告白はあまりに驚きで、一歩後退した。
「じゃあなぜ……?」
「時に……」
学園長が言い、今や本当に疲れ果てた男の声になっていた。
「私たちは選ばなかった役割に就き、その代償を理解する前にした約束を果たすことになる。私は……果たすべき合意がある。演じるべき役割が。どれほど苦痛であろうと」
見つめた。そして初めて、怪物を見なかった。老いて疲れた男を見た。自分が作った檻に閉じ込められた男を。
でも同情では足りない。ひめかもそうだ。
「じゃあ合意を破ってください」
声がより穏やかになった。
「役割を変えてください。それが人間であることの意味です。選べるんです」
学園長が一瞬目を閉じた。開けた時、硬さを取り戻していた。
「言葉は簡単だ、青年。行動は難しい。そして今……私は役割を果たさねばならない」
杖が床を叩いた。力ではなく、精密に。そしてそれが変化し始めた。木が捻れ、再形成され、手に持っているのはもう杖ではなく、黒い墨で満たされた筆――シンプルだが優雅さの中に致命性を秘めている。
「私の第二のスキル――『行政文書』と呼んでいる。その高尚な言葉に値することを証明してみせろ」
続いたバトルは、これまで経験したことのないものだった。
学園長は副学園長の速さでも、これまで対峙した相手の荒々しい力でも動かなかった。経済性を持って動いた。すべての歩み、すべての一撃、すべての受けが、必要なだけ――それ以上でも以下でもない。
筆が糸の間の隙間を見つけ、それを逸らし、切り、後退を強いる。墨が飛び散ったが何も起こらなかった。
複雑な網を織り、絡め取ろうとし、複数の角度から攻撃した。でも学園長はすべてを予測していた。まるで千回もこの踊りを見たかのように。
システムそのものと戦っているようだ――頭の中で考えながら、喉元を危険なほど近くを通り過ぎた一撃をかわした。一人の男じゃない。アカデミー全体の、すべてのルールの、すべての抑圧の化身だ。
でもその時、バトルの最中に、内側で何かが動いた。恐怖じゃない。怒りじゃない。もっと深い何か。胸で始まり、外側に広がった温かさ。ケンが自分のスキルの一部を「ハック」して以来、潜んでいた感覚。
感じられる。もっとある。糸だけじゃない。すべてから来る何か。りんが信じてくれること。アヤが守ってくれること。エリザが信じてくれること。かんながつながってくれること。全員から。
ヒカリが言ったことを思い出した。
「スキルは魂の鏡。変わるにつれて変化する」
そして変わった。もう孤独な観察者じゃない。もう戦略家だけじゃない。ネットワークの中心になった。複数の線がつながる点に。そしてそのつながりが……真の強さだ。
後退するのをやめた。
学園長がすぐに気づき、目を細めた。
「諦めるか?」
「いいえ」
答え、声に新しい音色――共鳴的で奇妙な――があった。
「今、理解しました」
手を伸ばした。でも今回、指から出たのは糸だけじゃなかった。つながりだった。学園長に向かうのではなく、後ろへ、壁を通って伸びる黄金の光の線――戦っている友人たちへ、組織している小次郎としずくへ、信じることを選んだすべての人へ。
「スキルは糸じゃなかった」
呟き、言葉が啓示のように出てきた。
「スキルは常につながりだった。糸はただ……最も単純な現れ方だっただけ」
黄金の線がより明るく輝いた。そして信じられないことを感じた――彼らの強さを。物理的なだけでなく、決意、勇気、信念を。
学園長が一歩後退した。本物の驚き。
「これは何だ……?」
「これは」
黄金の線が目の前に収束し、複雑で美しい形に織り込まれていきながら言った。
「学園長のシステムが決して理解できないもの。抑制も、制御も、カテゴリーや評価で測ることもできないから」
黄金の形が固まった。武器じゃない。盾じゃない。網だった。その交差点に、触れてきたすべての人、変えてきたすべての命、築いてきたすべてのつながりの反響を含む光の網。
「これが人間性です」
静かに言った。
「そのすべての乱雑で、予測不可能で、美しい複雑さの中の」
網を投げた。学園長に向かってではなく、その周りに。捕らえるためじゃなく……包むために。
そして学園長は、初めて、かわそうとしなかった。網に包まれるのを許した。
黄金の光が触れた時、彼の中の何かが……屈した。
筆が手から落ち、鈍い音とともに床を叩いた。彼自身が膝をつき、そして完全に座り込んだ。頭を垂れた。
「降参だ……」
その言葉の単純さは、どんな叫びよりも力強かった。
「私は……これにはもう年を取りすぎています」
黄金の網を消したが、胸の温かさは残った。学園長に近づいた。今や疲れ切った老人に見えるだけだった。
学園長が窓際の一人掛けソファに座り、しばらく目を閉じた。
「君は5i、エーテリアル、リリスさんについて言及した」
目を開けながら学園長が言った。
「見た目以上に知っている。どれほどか気になる」
落ち着きを取り戻しながら答えた。
「十分にこのアカデミーが実験だと知っています。エーテリアルが自然の怪物じゃなく、創造物だと。ひめかが5iが欲する特別な存在だと。そして学園長がすべてを許可したことも」
学園長がゆっくりと頷いた。
「そうだ。許可した」
告白は直接的だったが、今回は後悔が込められていた。
「しかし君が思う理由ではない。権力のためじゃない。野心のためでもない」
目が遠くを見つめた。
「若い頃は、君のように、世界は純粋な意志の力で変えられると信じていた。善と正義が常に勝つと」
立ち上がり、杖に寄りかかった。
「そして真実を学んだ――世界は複雑だ。選択が正しいことと間違ったことの間であることは稀だ。恐ろしいことと破滅的なことの間だ。そして時に……破滅的なことを避けるために、恐ろしいことを受け入れなければならない」
怒りが内側で煮えたぎるのを感じた。
「じゃあひめかを誘拐することが『恐ろしいこと』なんですか? 許容できる代償? 一体何のために?」
「バランスを保つためだ」
学園長が言い、初めて声に本物の疲労が聞こえた。
「もっと悪いことが起こるのを防ぐために。5iはただのコーポレーションじゃない。症状だ。そしてこのアカデミーの学園長として、私の仕事は症状と戦うことじゃない。治療法が見つかるまで、有機体を生かし続けることだ」
「ひめかは症状じゃない!」
叫んだ。
「彼女は人間です! 夢も、恐怖も、希望もある! それをあなたは引き渡した!」
学園長が見つめ、その目に完全に武装解除させるものを見た――後悔。
「そうだ」
学園長が囁いた。
「そうした。そしてこの重荷を残りの日々背負っていく。しかしもう一度選ばなければならないとしても……同じ選択をする」
続く沈黙は重く、言葉にするにはあまりに恐ろしい真実の重さを持っていた。
ついに口を開いた。今や落ち着いているが、鋼の決意に満ちた声で。
「どこです。ひめかはどこに」
学園長が視線を保った。
「5iはアカデミー内に隠れた拠点を持っている。研究棟の下のトンネルに。しかし……そこに行けば、歓迎されない。そこのルールは違う。学校のルールじゃない。5iのルールだ。そして彼らは教育ごっこはしない」
頷き、情報を処理した。
「構わない。行く」
「分かっている」
学園長が言った。
「だから教えた。君の手段は承認しないが……君の決意には感心する」
学園長がため息をついた。
「不知火ひめかさんは無事だ。差し迫った危険はない。リリスさんは……サディストじゃない。学徒科学者だ。重要なのはデータであって、苦しみじゃない」
「それで彼女がマシになるわけじゃない!」
一瞬冷静さが砕けた。
「分かっている」
学園長が素早く言った。
「同意する。冷笑的で、計算高く、『進歩』の名の下に残酷でさえあるかもしれない。しかし狂気じゃない。悪のために悪を求めてはいない」
「じゃあなぜ?」
「なぜなら私が知る人々にとって……合意を持つ人々にとって……状況は違うからだ。私たちが持たない視点を持っている。私たちが共有しない理解を。だらこのようなやり方をした」
学園長に近づいた。これはもう単なる会話になっていた。
「学園長が知っていて、僕が知らないことは?」
学園長が笑った。悲しい仕草。
「それが皮肉なんだ、青年。ほとんど何もない。君の言い方から推測するに、君が知っていることのほとんどを、私も知っている。5iについて。エーテリアルについて。創設者について。唯一の違いは……視点だ。私は知り合いがこれが必要だと信じる理由を知っている。君はそれが間違っている理由を知っている。両方とも正しい。そして両方とも間違っている」
ゾクリとした。
「意味が分からない」
「人生が意味を持つことは稀だ」
学園長が言った。
「これを言う立場じゃないが……5iに一人で立ち向かうなら、意志以上のものが必要だ」
その時、外から音が聞こえてきた。最初は低く、それから大きくなっていく。声。たくさんの声。叫び、唱和している。
笑った。小さな仕草だが、意味に満ちている。
「学園長」
手を伸ばして言った。
「窓を見てください」
困惑しながら、学園長が窓に近づいて開けた。
見たものが息を呑ませた。
下の、管理棟前の庭に、生徒たちがいた。数人じゃない。数十人でもない。数百人。小次郎としずくを先頭に列を組んでいる。
その瞬間、後ろから走る足音が聞こえた。振り返ると、そこに全員いた――Fクラス全員。でも何より、そこにアヤ、エリザ、かんながいた。
「見えますか、学園長?」
窓際の学園長に近づきながら言った。
「一人じゃない。一度もそうじゃなかった」
学園長が光景を観察していた。表情は読み取れない。それからゆっくりと振り向いた。
「彼らは……君に従っている。義務でも恐怖でもなく。君を信じているから従っている」
「彼らはアイデアに従っている」
静かに訂正した。
「自分たちがより良くなれるというアイデア。このアカデミーがより良くなれるというアイデア。僕はただ……彼らがすでにその力を持っていることを示しただけ」
一瞬、学園長は何も言わなかった。ただ下の生徒たちを観察した。それから決然とした動きで、杖で床を三回叩いた。
今回はエネルギーの爆発はなかった。ただ鈍い音。まるで錠が開かれるような。
「何をしたんです?」
「抑制障壁を解除した。エーテリアルの出現以来、維持してきた安全措置だ」
アカデミー全体に張られた障壁のことを思い出した。それのことか。
学園長が向き直り、初めて顔に笑みらしきものを見た。
「戦うなら、持てるすべてで戦え」
それから、オフィスに隣接するバルコニーに近づき、声を上げた。拡声ではないが、なぜか庭全体に聞こえた。
「アカデミーの生徒諸君!」
下のざわめきが一瞬で止んだ。何百もの顔が窓に向けられた。
「私は諸君を裏切った」
学園長が宣言し、声は震えなかったが、何年もの後悔の重さを背負っていた。
「このアカデミーの腐敗を許してきた。正義より安定を、思いやりより秩序を優先した」
一呼吸置いた。
「今日、一人の青年とその仲間たちが、私が間違っていたことを示してくれた。真の秩序は制御からではなく、信頼から生まれることを。真の強さは抑圧からではなく、共有された希望から生まれることを」
僕を直接見つめ、それから再び群衆へ。
「したがって、このアカデミーの学園長としての辞任を、即時発効で発表する。撤退したい者は撤退せよ。より良い未来のためのこの……この闘いに参加したい者は、そうせよ。しかし目を開けて行え。来るものは容易ではない」
続いた沈黙は絶対的だった。それから、群衆から叫びが上がった。それからもう一つ。さらにもう一つ。空気が何百もの声が一つの決意の叫びで結ばれる音で震えた。
学園長がバルコニーから離れ、オフィスに戻った。突然より老いて見えたが、同時により軽く見えた。まるで肩から巨大な重荷が取り除かれたかのように。
「悪いがこんなことを今聞く。君の名は?」
静かに言った。
「アレン・ウェバー」
学園長が今や違って見えた。まるで別人のように。
「ありがとう」
「お礼は言わないでください」
学園長が言い、重々しく椅子に座った。
「ただ……連れ戻してくれ。二人とも」
二人? ひめかと……
突然の寒気が走った。
「りん。りんはどこですか?」
友人たちが委員会と白麗のメンバーを助けながら入ってきたところで、扉に向かって走った。
「アヤ、りんはどこか分かる?」
「いや」
「エリザ、りんについて何か?」
「見ていません」
「かんな!」
「……ごめん。でも誰もまだ見てない」
アヤ、エリザ、かんなと一緒に、りんを最後に見た廊下へ走った。でも着いたとき、誰もいなかった。バトルの痕跡さえない。
世界が傾いたような感覚。違う。もう一度は無理。もう一人失えない……
かんなが腕に手を置いた。
「ヨルムは傷つけない。分かる」
「どうして確信できる?」
意図したより荒い声で尋ねた。
かんなが見つめた。その目に静かな確信。
「だって見る目が……悪意じゃなかったから。興味……」
それはかんなが意図したほど安心できるものじゃなかったが、分析する時間はなかった。選択をしなければならなかった。
りんを探す。それともひめかを救う。
両方が危険にさらされている。両方が助けを必要としている。でも一つの道しか辿れない。
「分かれよう」
奇妙に落ち着いた声で言った。
「一つのグループはひめかを救いに。もう一つは僕と一緒にりんを探しに」
アヤが首を振った。
「違う。全員あんたと。りんは強い。自分で何とかできる。でもひめか……ひめかは今あんたが行く必要がある」
「でも――」
「彼女の言う通りです」
エリザが割り込んだ。
「りんさんは武蔵会長を倒しました。審判委員会の委員長です。ヨルムさんを相手にできるなら、彼女です。でもひめか……そのスキルを持っていません」
全員を見た。すべての顔に同じ決意を見た。
ついに頷いた。
「分かった。全員一緒。ひめかを救う。それからりんを見つける」
でもアカデミーから5iの拠点へ向かいながら、僕の一部が正しい選択をしているか疑問に思った。一方に進むことで、もう一方を見捨てているのか。
時間だけが教えてくれる。そして時間が、最も希少な資源だと分かっていた。
次回――
真実の裏側へ。
明かされるヨルムの正体。
彼はただの副会長ではない。
この学園そのものに関わる、特別な存在だった。
そして語られる、エーテリアルの起源。
それは偶然ではなく、
人の感情によって引き寄せられる“必然”。
さらに――ひめかの存在が持つ意味。
彼女はただの被害者ではない。
すべての中心にいる存在。
だが状況はさらに複雑化する。
企業「5i」の内部で起きている“亀裂”。
そしてリリスの立場の変化。
敵か、それとも――。
やがて、選択は分かたれる。
アレンはひめかを救うために進み、
救うべきは、一人ではない。
物語は、分岐する。




