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第69話 恵みの島③

本日もよろしくお願いします。


 再び目覚めた異世界生活二十四日目の朝。

 夜行便の乗合馬車は、無事にクータマウまでの行路を消化していた。


「あらぁ、サクちゃん、今度こそ、お早う」


「ねえさん……ドアップは止めてくださいよ。心臓止まるかと思いましたよ?」


「あらぁ、失礼ねぇ。それに、こぉんな美女の顔で気絶するなんて情けないわよぉ? いくら刺激が強かったからってぇ」


「ねえさん、男じゃん! 美()じゃないじゃん! 確かに刺激は最強だったけど!」


「おほほほほっ、それだけ元気なら大丈夫よ。さぁて、そろそろ到着だから、準備して頂戴ね?」


 そう言われて辺りを見回してみると、馬車の左翼には徐々に森が広がってきていた。

 “森の恵みの村”と称されるだけあって、森に隣接する形で拓かれた村であるクータマウ。

 鬱蒼とした森が身近にありながらも、魔法の力で森の獣などによる被害も少なく、その恵みを謳歌出来ているのだそうだ。ねえさん情報。

 森の続く先、はるか遠くに、村の影が見えてきた。


「ところでねえさん。さっき、なんでドアップだったの? 操車は?」


「やあねぇ、あたしだって()()()()くらい行くわよぉ。それで停車したついでに、と思ってね?」


「お花摘み……? ああ、立ちショ……」


「あ゛ア゛!?」


 ドスの利いた声はマジ止めてください。

 危うくチビるとこだった……。()()がキュッとなる。


「もう、レデエに失礼よ? それより、無事到着よ。短い間だったけど、楽しかったわぁ」


「俺もです。お世話になりました」


「次に機会があっても、ご贔屓にね」


 町へと入り、馬車から降りてから改めて挨拶を交わして別れを告げる。

 ついでに馬車の馬にもお別れをしようと手を振るが、こちらは眠そうに明後日の方向を見ていた。そもそも馬ではなく、夜間活動するタイプの馬に似た動物らしいのだが。

 ねえさんから教えてもらった話では、夜行便のために訓練された上で強化魔法により寝ずの行進が可能になっており、代わりに日中は殆ど寝て過ごしているのだそうだ。お疲れ様です。


 以上、ねえさんの豆知識でした。



 馬車が遠ざかり、それを見送ってクルリと振り返ると、俺の目の前には大柄な男が立って俺を睨んでいた。

 は? 新手のジャイ〇ン!? なんで?

 安全策を取ったのに、先回りされた?

 一瞬そう思ったのだが、流石にそれはないだろう。となると、普通にカツアゲとかなのか?

 そんなことを思案していると、男は俺の両肩をガシリと掴み、その顔を俺に近付け、こう言った。


「お前……あの馬車に乗って無事だったのか!? 何もされなかったのか!? 勇気あり過ぎだろ! 凄いな!!」


「え?」


 その男の後ろからもぞろぞろと強面の男たちが近付いてきて、俺を取り囲んだ。

 気分はスポーツのヒーローインタビューのようだ。


 なんでも、夜行便の中でも()()は、オネエの凄腕御者がやっているので女性子供にはこれ以上無く安全安心、だが男が乗ったらどこで何されるか分からない、以前度胸試しで乗った力自慢の男が後日「ごめんなさいごめんなさいあなたさまはさいこうのびのめがみですごめんなさいごめんなさい……」とブツブツ呟きながら路地裏にいるところを発見された、などという噂が流れているそうなのだ。


 そんなのに乗って、しかも仲良さげに降りてきた俺に、目撃した男たち全員が驚愕したんだとか。

 嫌なヒーローだが、暫し一躍時の人って感じだった。


 そういえばねえさん、昨日の夜に「前にこういう失礼な客がいて、ちょっと懲らしめてやったのよぉ」なんて話を聞かせてくれたっけ。その男のことだったのかな?

 けど、噂が本当なら、絶対「ちょっと」じゃ済まなかったようだ。

 その男は相手が悪かったね。気の毒に。ご愁傷様。

 怒らせさえしなければ、楽しい旅路だったろうに。


 ねえさんの汚名返上のためにも、彼の人となりを含めて説明をし、快適で楽しい旅だったと話して聞かせる。怒らせたら駄目だとも念を押して。

 それを聞いて満足したのか、漸く男祭りから解放される。

 少なくとも、これでねえさんの名誉は守られたはずだ。さっきの噂が何処まで本当かは分からないが、彼に対する偏見が少しでも改善するといいなあ。


 ――――この一件がきっかけとなり彼の夜行便は徐々に客が増え、これから数ヶ月後には、彼のキャラ見たさも手伝って、安心安全な上に面白いと評判のこの島の新たな名物となるのだが……それはまた別のお話――――




 気を取り直して、フリーになったところで早速町を練り歩き、森の恵みとやらを堪能させてもらう。

 村では朝市や夕市が連日のように開かれているらしく、小規模ながら食材や民芸品のような物が並べられていた。

 木の実や山菜、茸の他に、肉類や虫のようなものまで多種多彩な品揃えだ。昆虫食文化もあるみたいだ。

 変わったものだと、野性味溢れる毛皮や、民族衣装っぽい獣の牙などが施された帽子なども目を引いた。

 森で狩った動物の素材を余すことなく利用しているのだろう。素晴らしい。

 面白かったが、使うことは無さそうなので食材関係のみ購入して市をあとにした。

 他に目立ったものも無い村なので、その日のうちに次を目指して発つことにする。


 こちらの世界にしては綺麗に整備された街道が続く先、そびえ立つ山の麓にあるのが、次なる目的地“山郷の村、ナンキャン”であった。

 この二つの村は人も物も行き来が盛んなため、村同士の協力で街道も整備され、距離もそう遠くないので簡単に行くことが出来るのだそうだ。

 ただし、クータマウに連なる森と、山に連なる森との境目のように一部拓けた場所があるが、決して踏み込んではならないと村の門番さんに注意された。

 そこに踏み込んだ者は、生きて帰っては来れない……というくらいの危険地帯らしい。二つの森を束ねる獣の王の(ねぐら)があると噂されているのだが、真相は定かではないのだとか。

 とにかく、そこにさえ行かなければ道中危険はないというので、久々に徒歩で向かうことにした。

 マップで見てみても一駅歩くぐらいの距離のようなので、わざわざ乗合馬車を待つ必要も無い。街道には俺の他にも歩行者がチラホラいるし、本当に安全なのだろう。


 ……余計なことを考えるとフラグが立つ恐れがあるので、頭を空っぽにしてナンキャンへと向かって歩を進めた。

 考えてない、何も考えてないんだからねっ!



なお、彼はキリンの獣人設定。


時間未定ですが、本日中にまた投稿します。

よろしくお願いします。

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