第68話 恵みの島②
遅くなり、申し訳ございません。
本日もよろしくお願いします。
衛兵さんに解放されてから、すぐに役場へと向かい、島内情報を教えてもらうことが出来た。
単純だが、これが手っ取り早い。今度からもこうしよう。
調子に乗って、次の島の情報も聞いてみたのだが、流石にそれは煙たがられた。
島の名前“ヨヅナ”は教えてもらえたが、詳細はそちらの島の役場等で聞くように、だそうだ。
さてさて、今回からはそういうわけで、楽に移動出来るかもしれないぞ。
ここから向かうは“森の恵みの村、クータマウ”
その次に行くのが東の“山郷の村、ナンキャン”
続いて北上して“漁業の町、スレウトラ”へと向かい、
そこから西へ行って“中心都市イミオミイ”へと入る。
峡谷で分断されるため、その後に向かうのは“リオネイル”か“ハピネイル”という双璧をなす町のどちらかになるそうなのだが、どちらからでも最終目的地の“港町、サロ”へは行けるということなので、中心都市に着いてからでもゆっくりと決めればいいか。
さて、皆。覚えられたかな?
俺? 俺は無理だよ。
もう忘れた。次に行くのは双璧村のサロスレマウ、だっけ?
一気に教わるとこういう弊害があるんだね。記憶力が試されるよ。
久々に日本産のノートとペンを取り出してメモを取った。
珍しいのかジロジロ見られてたけど、やむを得まい。
……全知全能の図鑑のマップに全て表示されるようになっていると気付いたのは、役場を出た後になってからだった。
「おう、兄ちゃん。珍しい物持ってんだな。ちょっと見せてくれよ。すぐに返すからよ?」
異世界版ジャイ〇ンに初遭遇したのも、その直後だった。迂闊にもほどがあるだろ、俺。
咄嗟に使い慣れた筆記用具を出してしまったのもマズかったのだが、そもそもこのノートは「異世界の上質紙の束」と表示される代物だった。
上質紙を束で持ち、見たことも無いような道具を使って、それに惜しげもなく何か書き込む若い旅人。
襲われないでか。
幸い、さっきの衛兵さんが近くを通りかかったため難を逃れることが出来たが、いつ第二、第三のジャイ〇ンがやって来るとも限らない。
魔法鞄にはアルル様の認識阻害がかけられているので、この中に入れておく限りは安全だ。ついでにノートとかにもかけてもらえたら楽なのだが。
だが、それは魔法鞄が安全というだけの話。持ち主の安全までは保障していない。
つまり何が言いたいかというと……すぐに町を出よう、ということだ。
この逃げ出すような感じ、懐かしいな。シュリに出会う前は、よくあったっけ?
急いで乗合馬車を調べる。
▷夜行便 (危険度:大)
夜に出発して、翌朝にはクータマウに到着します。
▷早朝便 (危険度:小)
早朝に出発して、夕方前にはクータマウに到着します。
▷昼夜便 (危険度:並)
昼過ぎに出発して、夜にクータマウに到着します。
▷絶望便 (危険度:不明)
目隠しを取るまで、何処に着くのかはお楽しみ。
終わった……。
今からだと夜行便しかないが、例えジャイ〇ンから逃れられても、旅の危険度が高いのでは意味が無い。
かといって早朝便にするとなると、この町で一晩、身を守らねばならない。怖い。
いっそ、絶望便にでも乗ろうかしら、うふふ。
……なんだ、この絶望便って。ジョーク……だよな?
現実的には、早朝便にして明日の朝まで宿に引きこもるしかないのだろうが、異世界物で定番の宿屋襲撃が無いとも限らないので。
さっきの第一ジャイ〇ンが仲間を引き連れて……なんてパターンね。
マップを見る限りこれまでで最長の距離のようだし、今のうちに距離を取ってしまうのが一番の安全策に思える。
と、なると……やっぱり、夜行便しかないか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「く、暗! こここ、怖!」
「お客さん、勇気があるじゃなぁい? あたし、惚れちゃいそうだわ!」
「こ、こっちも怖!」
勇気を出して、夜行便に挑戦してみた結果。
乗合馬車なのに、御者さんと一対一になってしまった。つまり、客は俺だけ。
旅の危険度は高いが、御者さんが王族の親衛隊副隊長をやっていたことのある猛者なので安心だと聞き、即決で乗り込んだのだが――――
「ボクゥ? どんなのがタイプなのぅ? あたしみたいな年上もイケるぅ?」
「年上年下とか以前の問題です! ごめんなさい!」
「あらぁ? 照れなくてもいいのよぅ? なんなら、その辺の茂みにでも停車するぅ? 夜は長いんだし、一発ぐらいならぁ……」
「何が一発!? 一切止まらなくていいので、急いで進んでください! お願いします! てゆーか、誰か助けてーー!?」
「うふふ、冗談よぉ」
――――御者さんに言い寄られて、貞操の危機を迎えていた。
もちろん、御者さんは同姓だ。男だ。
そもそも筋骨隆々な姿に安心感を覚えて即決したのに、出発して暫く経ち、初めて口を開いた途端にオネエ言葉が飛び出してきた時のショックといったら、ない。
乗車案内は別の人だったから分からなかったし、普通に詐欺だ。
逆に筋骨隆々な姿に恐怖を覚えることになろうとは、思いもしなかった。
日が暮れると、辺りは真っ暗。
荷台の俺の視界に入るのは、馬車の簡易照明の灯の明かりと、それに照らされて薄っすら浮かび上がるオネエな豪傑の広大な背中だけ。
どちらにも恐怖を感じる。そしてもう逃げられない。
父さん、母さん。俺、出来れば初体験は女性が良かったです。
それと、出来れば真なる闇の中とかじゃなく、普通に薄明りの中とかが良かったです。
もし俺の「アッーー!」が聞こえて来たら、そのことには触れずに優しくしてもらえたら嬉しいです。
それでは、旅立ちます。さようなら、また逢う日まで。
「ヤダぁ、大丈夫よ。そんなに怯えなくても、獲って喰ったりはしないからぁ!」
御者さんは、不吉な……もとい、素敵な笑顔で俺にウインクをしながら、そう言ってくれた。
そのウインクに、俺は人生で初めて、鳥肌が立ちすぎて漏らしかけるという感覚を味わった。お尻の穴も、キュッと引き締まった。
獲って喰わないと言われたのに、むしろ不安が増したのは何故だろう?
「それにぃ、あたしには心に決めた相手がいるんだからぁ!」
「今年度、最も聞きたくなかった余計な情報」大賞を取れるくらい、要らん情報だ。
マジで聞きたくなかったし、その先も聞きたくない。
……
だが、この御者さん、話してみると意外と話しやすい人だった。
オネエキャラもそうなのだが、気さくだしノリも軽いし、話してて楽しい。
気付けばいつの間にか、話に夢中で暗闇への恐怖感など忘れてしまっていた。
恐るべし、オネエのパワー。
彼が何故、親衛隊を辞めて御者をしているのかという身の上話などを面白おかしくオネエチックに話して聞かせてくれたので、道中は全く退屈しなかった。
自らのセクシャルマイノリティを認めてくれない他の隊員との軋轢、そんな中で訪れた運命の出会い。恋に生きるため、親衛隊を辞めた彼を襲った悲劇、そして別れ。新たな人生への決断。
そんな激動の半生が、まるで映画でも見ているのかと錯覚するほど鮮明に、俺の頭の中に映し出された。
これはハリ〇ッドで扱ったら、ヒット作になること間違いない。
どこまで本当かは知らんけど。
いつの間にか「ねえさん」「サクちゃん」とお互いを呼び合う仲になり、気を許し切ったせいか、睡魔に襲われた。
……
そして翌朝。
「お・は・よ! サクちゃん!」
眼前三センチメートルの距離に佇むオネエの顔面に、目覚めてすぐ気絶することになった。
仲良くなったとはいえ、覚醒直後に見る朝日に照らされたドアップには、耐えられなかったよ……。
梅雨入りで急に冷え込む地域も多いことでしょう。作者の地元も寒々してます。
皆様、体調崩さぬよう、お気を付けください。
次話は6月15日午前に投稿予定で、同日にもう一・二本投稿すると思います。
どうぞ、よろしくお願いします。




