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青い世界と、きみが  作者: ひろい
なぜ青く、なぜキミなのか?
60/61

#59

 動揺するぼくとは対照的に、未由の言葉はハッキリとしていた。

 この最後の場面に、まるで愚痴を零すかのように。

「悪くなかったです。でも、手遅れですね。ここにまで、来ちゃいました。私には、変えようとする気持ちも、力もなかったんです」

 かふ、ときみは小さく堰をした。赤い血が、抱えているぼくの右腕を濡らした。緑じゃなく、本当に赤い、血。霞む瞳が、ぼくを映し出していた。

「……ありうることは、望みません。今を、受け止めます」

 言っている意味が、わからない。嘘だ。欺瞞だ。わかっている。きみが、終わりを、受け止めてしまったということは。

「キス……してみてくださいよ」

 奇跡のようなこの状況を、冷静に把握なんて、出来なかった。

「このまま死んじゃうのは、勿体無いです」

 きみの言い種には、驚きを通り越して感心してしまう。尋ねる。

「死にたくなく、ないの?」

「死にたくなく、なくはないです」

 ひどく遠回しな言い種。自分で笑ってしまう。なぜ素直に言えないのか。

 生きたくは、ないのかと。

「世界は、青いなぁ」

 きみはぼくの向こう側を見て、ただぼんやりと呟いた。それを、振り返ることで、同じものを見た。

「……うん、青い」

 そこに広がる世界は、ただの宵闇だった。

 目が――見えないのか。

「先輩の顔なんか、霞んじゃうくらい、青いです」

「未由は……可愛いな」

 最後の最後で、本心が言えた。光を映さない瞳が、ぼく映していた。

「世界で一番、可愛いよ」

 その言葉に、きみはその小さい口を曲げる。

「なに言ってんですか、先輩はもぉ……」

 それにぼくも、笑みを浮かべる。

「世界で一番、好きだよ」

「世界で七番目くらいには好きでしたよ」

 くす、とぼくは笑ってしまう。

 未由、らしいなぁ。

「潔子先輩、好きでした。死んで欲しく、なかったです」

「うん」

「優ちゃんと亜美ちゃんには友情を感じてました。今どうしてるのか気にならなくもないです」

「そうか」

「そうです」

 即座の断定。こんなことになったけど、こういう関係になれたことは、素直に嬉しい。

「あと、家族。まぁその次くらいになら、先輩でも入らないこともないです」

「光栄だね」

「光栄ですよ」


 キスした。


 唇を離すと、きみは片眉を下げて呆れたような顔をした。

「……先輩、話聞いてましたか?」

「もちろん」

「……なんですか、もう。雰囲気もなにもないんですね」

 ニッコリ笑うと、

「ゴメンね」

 もう一方の眉も下げて、きみは不満そうな顔を作った。

「誠意がないです」

 もう一度。今度は、舌を絡めた。体の芯まで、痺れるような心地だった。

 きみは抵抗する素振りすら見せず、人形のようにされるがままだった。

 世界は、崩れた。ずっと続くと思っていた世界は、もうない。こないだろうと信じていた瞬間は訪れ、ぼくは人間じゃ、なかった。もう後にも先にも進めない。どん詰まりだ。ここで終わりだ。どこにもいけない。みんないなくなってしまった。そして今、きみもぼくの目の前でいなくなろうとしている。助けたかった。だけど助けられなかった。頑張った。努力した。ぼくは無力だった。死んで欲しくない。ぼくを一人残して欲しくなかった。ひとりになりたくない。いや、そうじゃない。

 そうじゃない。

「…………はっ」

 唇を、離した。二人の口の間で、涎が糸を引いた。息が荒れていた。鼓動が脈打っていた。頭が茹っていた。

 まるで、獣。少し前の刀耶を思い出した。

 欲しい。

 もっと欲しい。きみが欲しい。ずっとぼくは欲しかった。好きだった。愛していた。だからすべてをぼくのものにしたかった。一つになりたかった。いいじゃないか。最後だ。もう時間は幾ばくもない。だったら最後にぼくの望みを叶えることだって――だってぼくは、最初からきみ一人が

 そうじゃない。

「あ……」

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