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青い世界と、きみが  作者: ひろい
なぜ青く、なぜキミなのか?
61/61

#60

 ぼくはきみから手を離して、立ち上がり、そして頭を抱えて、

「あ……アアアアああアアアアアアアアアああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 違う! 違う違う違う違う違う違う違う違う!

 違うッ!

「ぼくは……そうじゃない! そのためにきみを……違う! そういうことなんじゃ、ない!」

「……なにが、ですか? どうしたんですか、先輩?」

 きみは力ない言葉を、ぼくに投げかける。

 どこか諦めたような、蔑んだような、視線で。

 どごん、と心臓が撥ねた。今までみたいな衝撃とか感動とかそういうのん気な感情のうごきじゃない。

 動揺だ。

「ち……がう。ぼくはきみを、そんな風になんか……」

 きみは――嗤った。

「ナニガチガウンデスカ?」

「!?」

 まともに、動揺した。

「あ……」

 ぼくは後ずさり、そして頭を抱えて、その場に跪いた。

 まるで懊悩し、天使に許しを請う子羊のように。

「あ……あ…………!」

 ――考えろ。

 ぼくは額を床に擦り付け、思考を回転させた。考えろ。要は言っていた。考えることがなにより大事だと。思考を止めるな。ぼくはなにがしたいか。ぼくになにが出来るか。

 諦めるな。

「う……うぅ!」

 ぼくは、何がしたかったのか? そんな風に彼女を見たかったわけじゃない。そんな風に彼女を――奪いたかったわけじゃない。

 助けたい。

「!」

 顔を、跳ね上げた。なにかないか!? 視線を巡らせる。世界は崩れた? 違う。まだ、ここにある。ぼくたちは、生きてる。それなのにそんなに浸りたいわけじゃない。そうじゃない。終わらせちゃいけない。顔を仰け反らせた。

 夜空の中に、何かが見えた。

 思い出す。そうか。最初の歩いた道。要の言っていることが、ようやくわかった。ここまであいつは思ってくれていたのだ。

 動け。

「うわあああああああああああああああ!」

 右手の指を五本伸ばして、それを壁にぶち当てた。それは硬い音を立てて金属の壁に突き刺さった。同じ要領で、左足の爪先も蹴り、突き刺す。さらに左足も。それを支えに右手を抜き、さらに上の方へ刺した。それを繰り返し、上方に登っていく。まるでロッククライミング。要の言うとおりだった。いざという時のため、運動に適した体にしておく必要がある。息を切らしながら、汗を飛び散らせながら、ぼくは天井を目指して突き刺し、引き抜き、登っていった。

「ハァ……ハァ……ハァ……アァ!」

 広がる夜空の真下まで辿り着き、両腕と右足で体を支えて、残る左足でそれを、殴りつけた。

 パリン、と硝子が砕け散るような音がした。

 それはパラパラと光の粒のように降り注いでいく。ぼくは今の自分の目的も忘れ、それに見入っていた。降り注ぐ先には――横たわる未由の、胸元がはだけた姿。

 それはぐったりと、憔悴しきっていた。

「!」

 それに事態を思い出し、視線を再び上へ向ける。夜空を覆っていた膜は、既になくなっている。足を一歩上に這い上がると、左手が外気に、触れた。

 外気。

 外だ。思い出す。あの時事件現場に行ったとき、要は穴が空いた地面を注意深く見ていた。同じく覗き込んだけどその時のぼくには理解できなかったが、あれはこの地下トンネルを見ていたのだ。そこからきっと、この青い世界からの脱出方法を、画策していたんだ。

「……違うか、要」

 今はいない相棒に静かに呟き、ぼくは自分が作った穴の階段を降りていった。再び未由の容態を見ると、出血は絶え間なく続いていた。今さらだが、止血を考え自分が着ている青い制服のジャケットを脱ぎ、それを足の付け根に巻きつけ、

「……どうしたんですか、先輩?」

 息を荒げながら潤む瞳を向けるきみに、先ほどまでの自分の羞恥に顔が火のように熱くなる。出来るだけその白い肌や柔らかい感触を頭から追い出し、止血作業に専念した。同じように左肩にも。そのあと、その小さく華奢な体を背負った。

「? ……なんですか? どこ、かに……行くん、ですか?」

 力なく無邪気な言葉に、

「……一緒に、逃げよう」

 一歩一歩、出来るだけ振動を与えないように上がっていく。右手で体を支え、足だけで足場を保った。その間、きみは何も語らなかった。ただキツそうに細い息を続けていた。それがぼくの首筋を撫でていた。体温を、背中に感じた。きみの匂いが鼻をくすぐった。生きているんだと、思った。

「……先輩」

 時おり囁かれる言葉が、力になった。

「……大丈夫だよ、未由」

 最後の一歩。息を吸う。ここを出るときは、二人一緒だと思った。

 そしてぼくらは、青い世界を、抜け出した。その光景に、ぼくらは言葉を、失くした。


 見渡す限り、何もなかった。


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