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青い世界と、きみが  作者: ひろい
なぜ青く、なぜキミなのか?
56/61

#55

 思い、ぼくは仰け反りながらも踏みとどまり、突進した。その先には、呆気にとられた白衣の男の表情。そこへ右手で、殴りつけた。白衣は吹き飛び、それきり動かない。体を右へ、そこに白衣の2が。殴る。吹き飛ぶ。そこで事態に追いついた白衣の3が、こちらへ銃口を向けた。だけど距離が近い。振り返りざま銃身の横腹を殴りつけた。弾丸はぼくから見て右90度の方向へ跳び、何かを打ち抜いたようだった。

 殴りつける。それでこの場に立っているのは、ぼくと岸辺だけになった。

 岸辺は腕を組み、余裕綽々の態度でこちらを見ていた。

「強いわねぇ。さすがは鈎束くん」

 動揺のかけらもない。対して脅威をすべて排除して優位に立っているはずのぼくは、胸中激しく揺らいでいた。

 なんだ、これは?

 ぼくは――どうしてこんなことが、出来るんだ?

はじめは、お嬢様のお気に入りを監視する執事だった。そしてあんた自身は、ありとあらゆる状況に対応できるよう設計された汎用型万能ヒューマノイド、ってところね」

 なにを言ってるんだ……この女は?

 違和感。右手に、喪失感。何かが足りない。そう思って、顔の前に持ってくる。

 ――アレ?

 なんだ? この手。

 持ってきた右腕は、穴が空いていた。ぽっかりと、指で輪っかを作ったくらいの。そこで思い出した。そういえば、銃で撃たれていた。これはその時のものか。だけど――血は、どうしたんだ?

 そしてその穴からは――見覚えのある青白い火花と、白黒の配線が、走っていた。

 世界が崩壊する。今日だけで何度目だろう。

「う……そ、だろ?」

 呆然とぼくは呟いた。パチパチとぼくの右腕は、不良を訴えている。不調じゃない。機能不良だ。だけど、動く。支障が生じるレベルじゃないからだ。痛みなんてものもない。この状況下において、不必要だからだ。

 なぜそんなことが可能か。

「なんだよ、これ……」

 ぼくは――人間じゃ、ないからだ。

 刀耶を思い出す。凶器をまとったその体は、既に戦闘用の兵器へと変えられていた。鶫を思い出す。刀耶と動きを対応できる彼女は、神経野と筋肉に手を加えられていた。要を思い出す。あいつは、ぼくを守るためのロボットだった。

 要は言った。ぼくとほか数人以外は、人間じゃないと。その時、ぼくは違うんだと思っていた。ぼくは人間だと思っていた。思考が停止する。要は言った。

 ――ロボットだ。

「ぼくは……ニンゲンジャナイ」

「先輩!」

 首を回す。ギギギ、と――それこそ、錆びた鉄を動かすように。

 未由。

「先輩、お、落ち着いてくださいっ!」

 ガクガクとぼくの肩を揺さぶる未由。そう言ってる未由こそ、動揺が見て取れる。

 まるで上の世界のように、青い顔をしている。

「ボクハニンゲンジャナイ」

 じゃあ……きみは、ぼくにどう接するの?

 がん。

「きゃっ」

 発砲音。撃たれた。未由が悲鳴をあげ、身を縮ませている。視線を下げる。右腕が、もげていた。だけど痛くない。赤い血が流れない。代わりに緑のどろりとした液体が、出た。

 なんだこれ?

「先輩、そ、その……」

「ボクハニンゲンジャナイ」

 まるで一つのフレーズ。繰り返し口から紡ぎだされる。なにも感情が湧き起こらない。笑えない。怒れない。泣けない。感情が、死んだ。違う。感情なんてない。だって、

「ボクハ――機械だ」

「あなたは役に立ったわ」

 声。視線を上げる。そこには岸辺。笑ってる。左手を腰に当ててる。右手には銃を持ってる。こちらに狙いをつけてる。まとう赤いトレンチコートと相まって、その格好はよく似合っていた。

 カッコいい、と素直に思った。


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