#54
岩陰から飛び出し、声の元へ駆けつける。そこには基地のほぼ中心に位置する巨大な鉄塔の元で、白衣をまといカルテを持った三人の男と会話する、いつもの青い制服姿ではなく貴族のような赤と金のトレンチコートを身にまとい、腕組みしたゆる巻き髪の気の強そうな女――
「……あら。生きてたの、鈎束」
死んだ筈の、岸辺江梨がいた。
「どういうことだよ、これは……」
ぼくは岸辺を含めた四人の前で、仁王立ちして両手を握り締めていた。ぼくは今、核心に近づいている。今まで疑問を抱えながらも環境のせいにして、ただぼんやりと惰性の中を生きてきた。そのツケを、払うハメになったのだと思った。そういえばぼくは今までこの一連の流れが、ベヒモスの塔倒壊から始まったのだと思っていた。しかしそのインパクトには負けていたが、実際ほぼ同時期にこの目の前の女も、姿を消していたのだ。
それは果たして、ただの偶然だったのか?
「質問が、的確じゃないわね。それは果たしてどれのことについていってるの? 上の状況? それともこの場所? それとも、私が生きていたことについて?」
全部だ、といいかけて、一つに絞ることにした。
「完全に消し去るって、どういう意味だ?」
緊急的に速やかに知る必要がある情報は、これだった。
岸辺は以前施設でぼくに向けていたのと同じ、傲慢な笑みを浮かべた。
「あらら。そんな簡単な質問でいいんだ。残念。ただ、青い街を吹き飛ばして、地上から完璧に消し去る。それだけのことよ」
わかっていた事実に、心にヒビが入る心地がした。
なんで?
「なんで、だよ……?」
「それも無駄な質問ね。わかってることの再確認は、時間の無駄よ? 非効率で無駄で腹立たしい街だったけれど、あなただけは少しは生きようとしてると思ってたのだけど、それは私の勘違いだったかしら?
私はこの世界が、気に食わないのよ」
なんでだ?
「なんでだよ……?」
「鸚鵡返し? いい加減、失望させるのやめてくんない? もしくは退屈させるの。時間泥棒よ、これじゃあね」
ぼくたちがこんなやり取りを行っている間に、周りの白衣たちが動きをとっていた。警戒心。さすがに正体の知れないところに真っ向侵入したのはまずかったか。しかも状況的には、敵地に。
一歩、後ずさる。
岸辺が、嘲笑う。
「あら。もう質問は、いいのかしら?」
「それは、どうかな……?」
男たちは懐に手を入れて、こちらを警戒心が強い目で見つめていた。この展開は、映画で見たことがあった。だから尚更、嫌だった。目を、後方に向ける。未由は岩陰から顔を半分だけ出して、心配そうな視線でこちらを見つめていた。それだけで、ぼくは救われた。まだぼくは、きみにとって価値がある存在のようで。
「……聞かせてくれよ。なんでお前、死んだフリなんて、したんだよ」
岸辺はそのゆる巻きの髪をかき上げ、
「避難と、あとは演出ね。近くで見てるのも、潮時だったわ。期限は決まってたから、危険を冒すわけにもいかないしね。正直退屈すぎて死にそうだったけど。でも、さっきもいったけどあんただけは、ちょっぴり面白かったわ。だから最後に質問をしたのと、私が死んだらどんなリアクションを取るか見たかったんだけどね。あんたの頭は……そこの子で、いっぱいだったみたいだけど」
そういって岸辺は、ぼくの後方――未由が隠れる岩陰に、視線を送った。
バレている。
「未由っ、逃げろ!」
叫び、ぼくは岸辺に向かって駆け出した。それを合図とするように白衣の男が懐から――拳銃を、取り出した。そして銃口が、こちらを向く。
発砲音。
「くっ……!」
咄嗟に右手で、顔を庇った。終わったと思った。ぼくには、力がない。これで未由も、捕まってしまう。どうして発砲したんだ? 最初から、ぼくらは殺される運命だったのか? 実験ってなんなんだよ? ふざけんなよ。
殺されるために、奪われるために、生まれてきたんじゃない。
衝撃。腕がひび割れたような感覚。命中した。このまま弾丸は腕を貫通して、脳を抉りとって、それで、ぼくは――
「……未由」
それじゃあ、ダメだ。




