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青い世界と、きみが  作者: ひろい
なぜ青く、なぜキミなのか?
53/61

#52

 話したいことは、無数にあった。だけど、話すべきことがわからなかった。なんでこんなことになったんだろう。これから、ぼくらはどうすべきだろうか? 決して満足はしてなかったけれど、それでもあの日々は嫌いじゃなかったし、人生満たされることなんてないと思ってたから、それがずっと続くと思っていたし。

 もうぼくの前には、未由、きみしかいない。

「先輩、喋らないんですね」

「え」

 唐突なほどの言葉に、ぼくは間抜けな声をあげていた。足を止め、未由のほうを見る。

 さっきと違い、こっちを――無感情に、見つめていた。

「普段は無意味なほど、話しかけてくるのに」

 狼狽。

「それは……」

「さっきの私は、キモかったですか?」

 どくん、と心臓が脈打った。ほんのり忘れようとしていた先ほどのイメージが、脳裏にフラッシュバックする。

「未由……」

「忘れてください。気の迷いです」

 言って、一顧だにせず未由は正面を向きなおして、歩みを再開した。ぐいぐいと進むその背中を見つめながら歩き、ぼくは正直呆然としていた。

 きみからの……サインなのか?

 気になるが……正直恐さも、あった。未由、と話しかけることが、今は。

「ここ、抜けれますよ」

「あ、うん」

 未由はそんなぼくに構うことなく、スタスタと歩みを進めていく。洞窟に変化はない。ただ、分かれ道のようなものが現れていた。それを未由は、右に行った。ぼくに相談も何もなく。それがいつも通りといえないこともなかったが、それ以上に――でも、今は話さない方がいいのかもしれな

「喋りませんね」

 異変を、感じた。

「どうしたんですか先輩。いつもウザいくらい話しかけてくるのに」

「いや……」

 なにかを、きみは伝えようと――


「私のこと、好きなんですよね」


 核心――潔子ちゃんとの会話を。要を通して聞かれたことをきみは、知らない筈だ。

「いや……」

 言い淀む。動揺は、正直自身ですら計り知れない。

「違うんですか?」

 答えようがない。きみは振り返ることはなく、だから表情も見て取ることは、出来なかった。

「好きなんですよね?」

 これは確定事項に対する、尋問。

「…………」

「なんで黙るんですか? それってズルいですよ」

 ズルいか。

 僕はズルいか、未由――

「ハッキリしてください」

 考える。この場における的確な対応を。

「……未由はぼくが、嫌いか?」

「嫌いじゃないです」

 即答。ぼくの時のような迷いなど一切ない。だけど、その答え方こそ――

「次は先輩です。私のこと、好きなんですか?」

 …………ぼくは、

「答えてください」

 この状況下ですらきみは振り返らず歩みを進めている。自然ぼくもそれに追随する形で歩き続けている。滑稽だ。手足は震え喉は渇き、今にも止まって、この追求から逃げ出したいと思っているのに。

「……その」

 危惧。――もう、この躊躇が答えになってるのではないか?

 好きだ。

 そう答えるだけなのが、ひどく労力を要するというか、億劫というか、こんな形での、告白だなんて……

「早く答えてください。逃げないでください」

 逃げ――

 ない。

「未由、ぼくは、きみが、その……」

 好き、か?

 好きと答えるのか、ぼくは? それとも好きじゃないと答えるのか?

「す、す、すすすすす……」

 決まらない気持ちにシンクロするように、言葉は先に進まない。そんなぼくにきみは何も言わず、ただ足を前に進める。黙るなよ。また前と、同じじゃないか。

 未由。

「好きだ」

 言葉の方が、口をついて出た。名前を思った途端。好きだから、好きと言わないと嘘だと思って。

「……そう、ですか」

 沈黙。

 沈鬱。

 沈痛。

 胸が、痛む。あぁ、やっぱり以前の関係には戻れ――

 思い出した。そうだ。ぼくが望んだ、望んでいたのは、新たな関係だった。

 子供扱いではなく、男女の。

「嫌いか?」

 言葉遣いも変えて。狼狽したり顔色を窺うのではなく、正面から真摯な態度で。

「ぼくのこと、嫌いになったか?」

 足を止めて。真っ直ぐ、その背を見つめて。

「少し、黙ってて……」

「黙らない」

 三歩。先に進み、そしてきみは、立ち止まった。

「未由もぼくに、答える責任が、あると思う」

 双方動かない。三歩の距離。それで背中と目で、向き合う。これが今のぼくたちの距離なのかと唐突に思ったりして。

「答えて、欲しい」

「…………」

 念押し。それに先ほどとは反対に、未由の方が黙った。さっきはズルいといわれた。ぼくは、これ以上には押すつもりはない。再びの、沈黙。だけどさっきまでのような沈痛では――

「……昔先輩、言ってたんですよ」


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