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青い世界と、きみが  作者: ひろい
なぜ青く、なぜキミなのか?
41/61

#40

 あの人格破綻者といえる刀耶と鶫があっさり人を家に入れるのに、この面倒見がよくて最も真っ当だと思ってた彼女が人を入れないであまつさえ玄関で用件を聞くなんて。

 世の中間違ってるとさえ、思った。

「そうですか。なら、仕方ないですね」

 それに普通に対応する未由に、ぼくは自分の感覚の方を疑った。

「なら、用件です。実は先輩が施設に行ったところ誰もいなくて不安になったそうなので、なにか知ってることがあったら教えてくれますか?」

 本当にどストレートなその物言いに、ぼくは少し眩暈を感じた。

「未由……ちょっと、いくらなんでも」

「鉤束さん、そこにいるんですか?」

 こちらに話の水が向けられ、ぼくはもう一度どきっ、とした。

「う、うん……やあ、潔子ちゃん。こんにちは……」

「こんにちはー、すいません、今日は部活行けなくてー」

 いつも通りのやり取りに、少しだけホッとする。

「いや、なにか立て込んでるみたいだから、仕方ないと思うよ」

「それで、部活なんですけど……」

 再び心臓が、高鳴る。

「う、うん……それで、」

「ちょっと私、ずっと部屋にいたんでわからないんですよ。てっきりみなさんはいつも通り集まっていると思ってたんで」

「そ、そっか……」

 なんだか拍子抜けしたようなホッとしたような、そんな複雑な心地だった。

 だとすると次は、どこに向かうべきなのか? 要なら何でも知っていそうだと思うが、残念だが居場所を知らない。するとあとは鶫か、刀耶。

 鶫の家に行くのは、まだ若干の抵抗があった。最近寄った二回が二回とも、強烈なショックを伴う体験だったから。それにあの時、最初に鶫の様子がおかしくなった際最初にそれを庇ったのが、刀耶だった。最初に要に噛み付いて以来、刀耶の家にも行っていない。気になるところではあった。

「潔子先輩は、大丈夫ですか?」

 未由が心配顔で呟いた。それにぼくもドアのほうに目を向ける。

「大丈夫、いつものことだから心配しないで」

「わかりました……」

 ?

 そのやり取りに、ぼくは疑問符を浮かべることしか出来なかった。


 ぼくの考えを話し、次にぼくたちは刀耶の家に向かうことにした。

 刀耶の家は潔子ちゃんの家から、ベヒモスの塔跡から見て街の反対側にある。潔子ちゃんの家までと比べて、かなりの距離がある。それに時刻も回っていたし、ぼくたちはちょうど中間地点で、昼食をとることにした。

 ちょうどそこに、公園があったから。

「……どこで食べるんですか?」

 不審げな未由の視線にぼくは公園内を見回し、

「とりあえず……あそこの、ベンチかな?」

 青い公園内を横切り、ベンチに並んで座った。当然だが誰もいない公園の中、それはどこか間抜けに思えた。

「……なにを食べるんですか?」

 訝しむような未由の言葉にぼくは肩にかけたバッグに手を突っ込み、

「とりあえず……この、乾パンかな?」

 ひざの上に出し、袋を開けて、その中から二枚の乾パンを取り出し、そのうちの一枚を未由に差し出した。

「乾パン、ですか?」

 露骨に嫌そうな顔。それにぼくは苦笑いを浮かべ、

「悪かったな……仕方ないだろ、今は配給品しか手に入らないような状況なんだから」

「シケてますね」

 そう笑って、未由は乾パンを受け取りその端を齧った。その光景を見て、なんかリスみたいだと思った。

 ぼくも一口、乾パンを齧る。パサパサとしていて何の味もしなくて、それはまさに未由がいうようにシケたものに感じられた。

 なんとなく、空を見上げた。濃い青の空に、薄い青の雲が流れていっていた。

 ふと思って隣を見ると、未由も空を見上げていた。

「……なんで空を、見てるの?」

 ふと疑問が、口をついて出ていた。

 ぼくがいない時、一人の時、空を見上げる未由。

 二度、今まで見た。そしてこうして一緒に長い時間いて、さらに何度か見る機会にあった。

 理由を聞こうとそういえば、考えていた。

 未由がゆっくりと、こちらに振り返る。

「……知りたいんですか?」

 その瞳はぼくが知っているそれじゃなかった。

 澄んでいて、感情の欠片もなく、それはこの子の歳を感じさせない――酷く年老いた、疲れたものに見えた。

「…………」

 なにを言えばいいのか、わからない。

「……冗談ですよ。別にそんな深刻そうな顔、しないでくださいよ」

 微かに笑うそれも、どこか自嘲気味で。

「そうですね……私は、この空の向こうにあるものを見てるんですよ

 色々な感情が混ざり合った結果のように、

「世界の、果てをですね」

 きみの姿がぼくには、思えた。

「……なんて」

 フッ、と焦点を合わせて、

「冗談ですよ。ただ明日の天気はなにかなー、なんて考えてただけですよ」

 ぼくには冗談とは、とても思えなかった。

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