第26話 決意の温度 side.Peko
暖かい光が目を閉じている私の顔を包み込んでいた。
私はその光の元を直視しないように顔を背けながら目を開けた。
暖かい。
私が森で棲んでいた巣穴は岩で囲まれていたので光に包まれて目を覚ます事なんてなかった。
しかしここに来てからは毎朝同じようにこの太陽の光で起きる。
暖かい。
私の前足の間にもぞもぞと動く物がいる。
恐らくミーニャだろう。
今日も懲りずに私の毛をもふもふしている。
私は少し後ろに下がり、ごろついているミーニャを自分の体の下から引っ張り出した。
「ミーニャ。また潜り込んでたの? 寝てる間に踏みつぶしちゃったら危ないからダメっていってるのに」
「ん~。ん~」
私がミーニャに説教しようとしたら、私をもふもふしている間に寝てしまったのだろうか目を手で擦りながら声にならないうめき声を出している。
「おーきーなーさーい」
「ん~~。あっ。ぺこちゃんおはおー」
「おはおーじゃないでしょう。寝ている間は近づいちゃダメっていってるでしょう?」
「ん~。ごめんなさい。でもペコちゃん温かいんだもん」
そういってミーニャは立ち上がった私の前足に抱き着いてくる。
そして顔を擦りよせて再びもふもふを開始するのだった。
「こーら。今はダメよ。ご飯を食べにいくわ」
「うん。わかった」
そういって、ミーニャは両手を上にあげてうーーん、うーーんと背伸びをした。
私はミーニャの首を弱い力で噛み、首を後ろへ降ってミーニャを背中に放り投げる。
ミーニャは上手く着地できたのか、私の背中にへばりつき両手で私のお腹を満喫している。
くすぐったいが、嫌な感じではない。むしろ背中の温かさが心地よかった。
ミーニャは私とロニが助けたグレッドチース族の三人の子供のうちの一人だ。
あれから色々あってキンドル砦で生活させてもらっているうちに懐かれてしまった。
一緒に助けた女の子のララもミーニャと一緒に私について回る事が多い。
私は背中のミーニャが落ちないように少し気を使いながら家の中を見渡した。
「ロニはもうご飯食べてるの?」
「うん。ロニ兄はぺズさんとむずかしー話してたよ」
「そう。じゃあ私達も行こうか」
「うん!!」
そうして私達はロニと一緒に住んでいる家を出た。
ロニはここで生活するようになって、かなり変わった。
最近のロニはまるでチロ兄みたいな感じでグレッドチース族の男と色々な話をしている。
ミーニャもララもそんなロニの姿を見て、ロニ兄と慕っている。
そんなロニの姿は私にはとても眩しく見えた。
ロニはチロ兄の事を一番近くで長く見てきたのだ。それに追いつこうと必死でいろんな事に取り組んでいるロニが羨ましい。
私はロニよりも一歩遅れていると言わざるをえない。
グレッドチース族の男と一緒に見回りに出かけたりもするが、チロ兄のように色んな作戦が思いつくわけではない。戦い方はチロ兄に教わっていたので体が覚えているがそれをロニのように口で説明したりできないのだ。
だから、現状私はロニほどこの砦で役に立っているわけではない。
だが、実際の戦力としては私はこの砦で二番目だ。
一番はアクライハムで私なんか足元にも及ばない程の強さをしているが、アクライハムがわざわざ人間を殺しに出て行くことはない。実際に戦う戦力としては実質トップということになっている。
実際ロニと訓練をしてもロニが私を捉えることは一度も出来ていない。ロニは悔しそうにしながらも、戦いはお姉ちゃんに任せるよといって、私を認めてくれている。
それがあるから私はロニに嫌な感情を持たずに生活できているのかもと今更ながらに思ってみる。
そんな事を考えていたらご飯を食べる場所に到着した。
この砦では大きく分けて二つのグループに分かれている。
北側と南側で大体で分けられたそのグループごとに生活を行うのだ。
ちなみに私とロニは北側のグループで生活している。
その北側のグループの真ん中では大きな鍋でスープが煮込まれていた。
そしてそのスープをかき混ぜているリムさんが私に気づいた。
「あら。ぺこちゃんおはよう」
「リムさんおはよう」
「ちょっと待っててね。直ぐにご飯の用意するわね」
そういって、リムさんは私とロニ用のお肉を取りに倉庫へ歩いて行った。
リムさんは北側のグループの女のリーダーだ。ご飯の準備や色んな儀式を取りまとめている。
いわば族長の次に北グループでは偉い人だ。
一応北側の副族長はリムさんの夫のぺズなのだが、ぺズはリムさんには頭が上がらないので実質副族長はリムさんだと言っていい。
ちなみに私の背中に乗っているミーニャはぺズとリムさんの子供だったりするのだが、ここでは自分の子供というのに大きな意味は無いらしく、ララやカイルより特別に扱ったりはしない。
「あーーーっ!! またミーニャだけペコちゃんの背中にのせてもらってる~~~~っ!!」
「ふふーん」
「ずるーーーい。ミーニャだけずるーーーっい!!」
そう言って私の後ろ側からララが声をかけてきた。
「おはよー。ララ」
「あっ。おはようペコちゃん」
ララはミーニャより少しだけ大きい。実際二ヵ月だけお姉さんなのだそうだ。
だが、まだまだ子供だ。私を見ればミーニャ同様に近づいてきて甘えてくる。
私もここのしきたりに乗っ取って一人だけを贔屓にしないようにする。
「ほら、ララもおいで」
「……うん」
ララも背中に乗せてあげようと声をかけたが反応が悪い。
だが、トボトボとゆっくりとした足取りでこっちに近づいて来る。
これは別に嫌がっているのではない事を私は知っている。
恥ずかしいのだ。
私がチロ兄にもふもふを要求した時の私に似ている気がする。
今はそれが凄く微笑ましく思えた。
「ほら」
「うん」
ララは頷くのを見て首の後ろを口で加えて背中へ放り投げた。
「わっ」
「ほいっ」
背中でララとミーニャがぶつかったような音がしたがそこまで気にしない。
いつものことだ。
いつもみたいにミーニャがララを受け止めたのだろう。私の背中にもう一人分の体重がかかる。
その温かみと重さが心地よい。
私の守らないといけない物の重さと温かさが直接私の体に伝わってくる。
守らないと……。
チロ兄が守ってくれたみたいに。たとえ私の命が消えてもこの子達だけは守らないといけない。
この子たちを背中に乗せるたびに私はそれを思い出す。
意思を継ぐ。兄の生きた証をこの世に残す。
きっとそれは凄く良い事のように感じる。
だから、もっと強く賢くならないといけない。
私はもう一度そう強く決意したのだった。




