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第24話 攻撃的外交

 「ふざけるなぁああ!! この小娘が!!」

 怒りに震えた闘王が右手の拳を長机を破壊するほどの勢いで叩きつけながら吠えた。


 「領土を返せだと? 取引を禁止しろだと? この国がいつお前らの属国になった!!」

 闘王は怒りのままにまくしたてる。


 俺はその闘王の仕草に驚いてしまったが、アルテイシアは一切動じない。

 初めからこの流れになることをわかっているかのような態度で座っている。


 「領土の返還はこの同盟を結ぶのならば当然の流れだと思いますわ」

 「なんだと?」


 アルテイシアはしれっと内容の正当性を闘王に諭す。

 

 「そもそも前回の戦争はそちらの言いがかりが発端でしたわよね。

  豊かな我が領地をそちらが欲しがった故始まった戦争でしたわ」


 「だからなんだというのだ。領地の奪い合いはどこでもあるものだろう。それが戦争の正当な理由にならないとでもいうのか?」


 アルテイシアの恐ろしく落ち着いた声に闘王の怒りゲージも少しづつおさまっていくように見えた。

 

 その闘王の怒りのボルテージの下がりの速さに俺は気づいた。

 あれはポーズだ。怒ったフリをしていたにすぎない。

 あくまで外交を有利に進める為に威圧しただけなのだろう。


 闘王の口から出た言葉は理知的な部分を残している。本当に頭に血が昇ったらあんなにスラスラと言葉は出てこないだろう。


 「いいえ。その考えは間違ってはいませんわ」

 「ならば、何故だ? 同盟を結ぶためには過去全て遡って領土の返還が必要とでも?」


 確かにそうだ。同盟を結ぶためにすべての領土を返還していたら国として成り立たない。

 

 「そうですわね。分かりやすく言わせていただくと、時間と労力の短縮ですわ」

 「あん? 見えてこねえな」

 



 「こちらとしては。領土を奪い返した後での同盟でも構わないといっているのです」

 

 アルテイシアは口調を強めて言いきった。

 


 ……。



 これってもしかして宣戦布告?


 俺の頭の中はパニック状態だ。


 いや、意味はわかる。

 

 同盟を結ぶ前に戦争で奪われた領土を奪い返す。現状の戦力で考えるとレイドル帝国側が負けることは万に一つもない。ならば、同盟を結ぶタイミングで領土を取り戻せば確かに無駄な血も時間もかからないということだろう。


 だが、それをこの場で言うかと。

 あの狂暴そうな王を目の前にして……。大胆という言葉では荷が重いぞ、アルテイシア。



 そんなアルテイシアの言葉を聞いた闘王はポカンとしていた。

 全くそんな言葉が返ってくるとは思っていなかったのだろう。

 虚を突かれたというの言葉がピッタリの顔をしている。


 そして笑った。


 「フハハハハ。面白い。この条件を呑まなければ戦争を仕掛けてくると?」

 「ええ。その通りです。こちらのタイミングで仕掛けさせて頂きますわ」

 「フハハハハハハハ。成程これは食わせ者だ。噂通りということか。あの愚鈍な王の子とは思えんな」


 闘王は心の底から面白そうに笑った。

 

 闘王はアルテイシアを試していたような口ぶりだった。

 

 「私は現王の父からすべての権限を任されております。もう以前のレイドル帝国と思わないで頂きたいですわね」


 「うむ。認めよう。アルテイシア姫。あのちびっこい姫がこう成長するとは思わなんだ。我が息子にも見習ってほしいのう」


 闘王は快活に笑いながらすぐ近くにいる、息子へ目をやった。


 王子は顔を赤らめながら少し困ったような顔をしている。

 確かにこの王子とアルテイシアを比べたらアルテイシアの方が優れた王になりそうではある。


 このやり取りのおかげで先ほどの一触即発の雰囲気は消え去っていた。

 

 椅子に座った闘王からは先ほどの気だるそうな態度も消えていた。


 このまま丸く収まってくれればいいんだけどな。


 

 



 だが、そんな俺の願望は残念ながら叶えられなかった。


 「わかった。二つ目の領土の返還は呑もう。俺も無駄な血は流したくないからな。

  だが、三つ目の取引の取り締まりはダメだ。シューリアは魔物排他に加えて取引の自由が売りだからな。そこは引かん」


 「いいえ。なりません。同盟を結ぶならば全て呑んで頂きます」

 

 アルテイシアの頑として妥協しない言葉に闘王が顔をしかめる。


 「こちらは一歩妥協したつもりなのだがなあ?」

 闘王の声が先ほどまでの友好的な声ではなくなった。


 「先ほどの事でしたら、あれは妥協ではありませんわ。当然の流れと私は思いますが?」

 アルテイシアは終始変わらず冷たく突き放すようなそんな声だ。


 「貴様……小娘風情が」

 「私を愚弄するのはお好きになされば構いませんが、私は条件を緩和させるつもりはございません」


 また剣呑とした空気になってきた。


 確かに二つ目の条件はシューリア側に抗うほどの戦力が無いのだから、妥協というのには少し難しい気がする。だが、あの王が自分の国が不利になる条件を一つ呑むという事については一歩引いたと考えれなくもないか……。


 まあ、二つ目の条件を呑むから三つ目の条件はレイドル側が引くという事で闘王側は考えたのだろうがアルテイシアは一切引く気はないようだ。

 外交上有利なのはこちらだから引く意味はないという事か。


 だが、今のこの部屋の状況だと俺達の命の方が危なくない? 大丈夫なのか?


 「では、交渉決裂だ。失せろ小娘」

 「そうさせて頂きますわ。ですが、我が国の盟友アクライハムの一族が命を狙われる現状にあるのは変わりませんわ。

 ですので私が国へ帰り次第、宣戦布告を致します。

 そして、キンドル砦付近のシューリアの領土を我が領土とさせて頂きますわ」


 もはや宣戦布告だった。


 アルテイシアはそれだけ言うと椅子から立ち上がった。

 「では、ごきげんよう王様」


 闘王は先ほどのポーズで怒っていた時よりも明らかに顔を赤くしていた。

 間違いなく本気で怒っている。

 当然だろう。目の前で若き姫に宣戦布告をされたのだ。

 要求を聞かないなら力で叩き潰すと。

 昔お前らがしたように力でねじ伏せてやるとアルテイシアは闘王に言ったのだ。

 

 「図にのるなよ小娘が。その宣戦布告受け取った。いいだろう。のってやるわ。今直ぐにな!!」


 そういって闘王は背面の壁に飾ってあった巨大な斧を手に持つ。


 嘘だろ……おい……。


 あの巨大な斧を片手で軽々と持ち上げた闘王が怒り隠そうともせずに言い放つ。

 

 「この国から帰れると思うなよ! 小娘。ここで死んでもらう」


 そして大きく息を吸って雄たけびを上げた。


 「うおああああああああああああああああああああああああ」

 図太く低い雄たけびは城内に轟いた。


 そして、その雄たけびに呼応したように城内の各所の詰め所から人が飛び出てくるのがわかる。

 明らかにここに向かっている。足音の数も十や二十ではない。明らかに百を超えている。

 待ってましたと言わんばかりに走ってきている。


 やべぇ。最悪だ。


 こちらには武器がない。リードの盾だけだ。

 リードの盾も闘王を抑えるので精一杯だろう。

 すぐそこにはセイルだってその他の猛者だっている可能性がある。圧倒的に不利だ。

 いやもはや絶対絶命だ。


 「やばいぞ。アルテイシア。城内の兵がここに集まってきてる」

 「そうですか……」

 こちらを向いたアルテイシアの声は少し悲しそうな声音に聞こえたが表情は違った。


 薄く笑っていた。


 戦慄が走った。

 恐怖の感情が俺の体を駆け回る。


 理解不能だった。


 アルテイシアは今の状況を楽しんでいるように見えた。

 完全に勝利を確信したかのようなアルテイシアの表情に恐怖した。


 そして、アルテイシアはそのまま闘王に向き直った。


 「フフフ。いいですわ」

 闘王がアルテイシアの表情を見て明らかに怯んだ。


 あの表情は明らかに勝利を確信している顔だ。

 何か隠し玉を持っているに違いないと闘王は思っただろう。

 闘王の先ほどまでの威勢が削がれる。


 そこにアルテイシアはどんどん言葉で攻め込んでいく。


 「では戦争の協定に従って戦場の範囲を制定しましょう。

  この国内にしても私は構いませんが、流石に国民が可哀想ですわね。

  そうですわね……ではこの城内にしましょう。

  こちらの戦力は私たち6人、そちらの戦力はお好きにどうぞ必要なだけお呼びなさい。

  どちらか生きのった方が勝者。これでいかが?」


 もはやアルテイシアの声は先ほどとは別人だった。

 楽しそうに今回の戦争のルールを決めていく。

 闘王に対しても先程までの敬語ではなく、まるで臣下に話すような命令口調になっている。

 

 明らかな挑発。

 そんな戦闘狂にも見えるアルテイシアの豹変ぶりに闘王はたじろいでいた。


 そして恐らく悩んでいるに違いない。


 アルテイシアが隠し玉を持っている可能性。

 隠し玉なんか無くてただのブラフ。はったりの可能性。

 どちらに賭けるか悩んでいるだろう。

 

 俺もアルテイシアの隠し玉については知らされていない。リードは知っているのかもしれないが、さっきから無表情一辺倒だ。

 何故話してくれない?

 どうなんだ? はったりなのか? なにかあるのか? 何にもないのか?


 俺はおどおどするしかなかった。

 わからない。

 どっちなんだ? 本当に勝算があるのか?


 俺はここで死ぬのか?



 俺の思考はそこで途切れさせられた。


 「フハハハハ。甘いな小娘。その演技は見事だ。度肝をぬかれたわ。

  だが、その犬は所詮犬。先ほどを見るに人語を喋る事はできるようだが、明らかに今の現状に戸惑っておるのがわかる。

  つまり、お前に隠し玉はない。その犬が証明しておるわ」


 「っ……」


 闘王の言葉にアルテイシアの表情が一変する。

 先ほどの笑みは無い。顔面蒼白。真っ白の肌が薄く青く染まって見える程だ。


 やっちまった……。

 

 俺の動揺が闘王に見抜かれてしまった。


 そして、あのアルテイシアの表情を見るに本当にブラフだったということだろう。

 もう、手の打ちようがないのか……。


 「いいだろう。その戦争受けようではないか。そちらから言い出した事だ。もう取り下げても遅いぞ」


 闘王はこちらの戦争に乗った。


 始まる。俺達六人をなぶり殺す戦争が……。



 ちくしょう……。


 また俺のせいで誰かを危険に晒すのか……。


 何回目だ。



 小さかった弟達や、母さん、ツー、スリー。


 結局俺はどこに行っても一緒だと言うのか。



 索敵が役に立つと言われて嬉しかった。


 だが、それもこうなっては意味がない。


 もう終わりだ。


 この状況では……。


 ああ……。


 




 ちくしょう……。


 

 

 


 

 

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