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第23話 闘王

 扉の向こうには豪奢な会議室が広がっていた。


 人よりも太い柱が何本も天井に突き刺さり、一本づつにきめ細やかな模様が彫り込まれている。

 天井には見たことも無いような大きさのシャンデリアのようなものが吊るされている。

 まさに、大国としての威厳をここに招く客人に示すようなそんな威圧感すら覚える部屋だった。 


 アルテイシアはこんな部屋にも動じることなくスタスタと歩いていく。

 それに従いその従者一行も部屋に踏み込んだ。



 俺の視界には立派な金色の脚をもつかなり長い長机が入ってきていた。その先の短辺のところにある特別豪華な椅子に一人の男が気だるそうに座っている。


 あれが恐らくシューリアの国王アグスタス・ロイス・シューリアだろう。

 見た目からは年齢はよくわからない。リードの話によれば四十そこそこだという話だが、もっと若くも年老いても見える。

 金色のライオンみたいな髪と髭を生やしたその姿は俺が人間だったらすぐに跪いているに違いないと思わせる程の王としての威厳となってこの空間を支配していた。


 あいつも強い。間違いなく強い。

 セイルなんか目じゃない。次元が違う。

 服の上からでも筋骨隆々の腕や胸板が尋常ではない発達をしていることを主張している。

 そして、リードにも似たこのプレッシャー。

 俺がどうあがいても勝ち目が無いという事実だけが俺に突き付けられている。


 シューリアの最高戦力、闘王アグスタス。武器は何でも使う。素手でも戦うという話だ。

 性格はいたって獰猛で気に食わなければ叩き潰す。そんな男だそうだ。

 だが、この闘王が一番厄介なのは切れ者だということ。

 

 圧倒的な武力と狡猾さを持つこの王がいるからこそシューリアは大国になれたのだ。

 

 リード曰く、一対一の戦闘であれば、相性的にはリードが不利だと言っていた。

 だが、エメリアとリードがコンビを組めば間違いなく封殺できると断言している。

 

 でも今はエメリアはいない……。 


 やばいな。

 

 こっちは武器を持っていない。この状況であれが暴れ出したらこっちはアルテイシアを守れるのか?

 とりあえずリードが受け止めたとして、反撃できない。

 本当にどうすんだこれ?


 しかも、闘王の後ろの壁には鉄塊の様な斧が飾られている。

 装飾用の物なのかもしれないが、見るからに刃がついている。


 それはズルくないか? 俺達に武装解除させておいて自分は背面に武器飾ってるって……。


 まずい。どうしよう。


 

 「うちの若えのがすまなかったな。取り敢えず座れ。レイドルの姫よ」

 俺の思考を打ち砕いて、低い重厚な声で闘王が声をかけた。


 俺は内心ビクッと震えるような感覚に襲われるも死ぬ気で我慢する。

 堂々としてろ!! 俺!!


 「では失礼致しますわ」

 アルテイシアは全く動じずにその言葉に従う。その言葉を聞いたリードがアルテイシアの椅子を引きアルテイシアを座らせた。

 そしてリードはアルテイシアのすぐ左側に直立する。 

 アルテイシアの右側にはゴードンがすぐ移動した。

 俺はリードのさらに左後ろに移動し、そして俺を隠すように目の前にエーチが立った。

 ゲイルはゴードンの後ろにいる。これが俺たちの現状のフォーメーションだ。

 

 対して相手側の陣営はアルテイシアの反対側に闘王、その右側の椅子に老人とその反対側には青年が座っている。

 老人はこの国の細かい政治をしているものだろうか。戦闘になっての脅威は然程も感じない。

 青年は恐らく闘王の子供だろう。王子になるのかな? 闘王と同じ色の髪色をしている。

 前情報ではセイルよりやや弱いくらいだそうだ。それでも俺にしてみれば完全に格上なわけだが……。


 取り敢えず何かあれば闘王さえおさえればどうにかなりそうだ。王子も素手だ。素手同士ならゴードンが遅れはとらないだろう。


 恐らく勝てないが負けない。そんな絶妙な戦力差だった。

 

 

 

 「本当に失礼いたしますわ。たかが武官風情に我が国の守護獣を貶されるとは思いませんでした」

 アルテイシアが椅子に座って第一声を放った。


 俺はその言葉にぎょっとする。

 この微妙な戦力差でいきなり相手を刺激するような物言い。

 主張としては間違っていないのだろうが挑発にしか見えない。


 「ほう。小娘いいよるな」

 「お褒めに預かり光栄でございますわ。国王」

 

 闘王はアルテイシアの言葉を聞いて先ほどの気だるそうな雰囲気を取り払いにやりと笑っていた。

 それに対してアルテイシアも顔は見えないが、言葉からは怖気づいているような気配は感じない。

 恐らく顔には笑顔が張り付いているだろう。


 これが王女の貫禄というやつだろうか……。


 「で、その子供の後ろに隠れているようなものが守護獣なのか?」

 唐突に闘王と目が合った。


 同時に体を貫くような衝撃が走ったような気がした。

 瞬間的に足がぐらつく。力が入らない。


 なんだこれなんだこれなんだこれ…………。


 俺が地面に倒れそうになる瞬間に俺の前方で音がした。

 ガシンと何かが壊れるような音が鼓膜をうつ。


 その大きな音で目が覚めたように俺の脚にも力が戻った。

 ふと前を見ると、目の前には粉砕された椅子が転がっていた。


 んお?

 

 なにがどうなった?


 「あんまりチロっち苛めないで欲しいっすね~」

 今まで一言も喋らなかったエーチが口を開いた。

 そして目の前には粉砕された椅子。


 これってエーチがやったのか?


 「ほう。ガキの分際でワシに歯向かうのか?」

 「ご希望ならやってやるっすよ」

 

 闘王は楽しそうにエーチを見ていた。対してエーチもやんのかコラッ!? という態度である。

 まさに一触即発の雰囲気をアルテイシアが打ち砕いた。


 「エーチ」

 低いアルテイシアの声。

 短い名前を呼んだだけの言葉だったが、エーチはすぐさに佇まいを直した。

 その言葉で先ほどの雰囲気は完全に破壊され沈黙だけがこの場を満たした。


 「国王もお戯れがすぎますわ。これ以上続くのであれば帰らせて頂きます」

 「ふん」


 闘王は先ほどまでの楽しそうな顔からまた元の気だるそうな表情に戻った。

 

 こいつは本当に戦いとか争いとかが好きなんだな。見ている分にはわかりやすいが、心の中では何を考えているのだろうか……。


 「本日来ていただいたのは、レイドル帝国とシューリアの同盟についての話し合いでございます。王様」

 「わかっておるわ。お前が後は進めろ」

 「はい。かしこまりました」

 

 闘王は興味を失ったのか椅子の背もたれに背中を預けて傍観の姿勢に入った。

 代わりに、こちらに話をしてきたのは老人だった。

 

 「お初にお目にかかります。アルテイシア姫。私はこの国の宰相をしております。デイルと申します。王に代わりましてこの場の進行をさせていただきます」

 「ええ。ではデイルよろしくお願いいたしますわ」


 老人――デイルはこちらを向いて優しそうな笑みをこちらに見せた。

 俺達はここに和平を結びにきたのだ。これが普通の対応だろう。


 宰相ってなんだっけか? 総理大臣みたいなものなのかな?

 よくわからんがそういう事にしておこう。


 「では、早速ではございますが、レイドル帝国側の和平案をお聞かせ願いますでしょうか?」

 デイルはこちらの反応を見ながら話を進めた。


 「わかりましたわ。こちらからの要求は三つです。

  一つは今後十年間の領土不可侵。

  二つめは前戦争で父が明け渡したケイネス領の返還。

  三つめは我が領土にのみ住むグレッドチース族の皮やその他諸々の固有部族に関する取引の禁止の徹底。

 以上の三つですわ。これを施行していただけるならば私たちはシューリアに刃を向けません」


 これが俺達からの和平の条件だ。

 十年間の領土不可侵はまあ普通のよくあるやつだが、その次の二つに関しては結構難しいのでは? とは俺は思っている。


 レイドル帝国の現国王は超が付くほどの平和主義者として有名らしい。

 襲い掛かってきても基本的には反撃はせずに、物事が綺麗に片付くなら領土すらも明け渡すこともあったのだそうだ。

 前戦争と言うのは騎士団が出来る前にあったらしいのだが、シューリアからの宣戦布告に対して金銭と領土を渡して即時終結したというものがあったのだそうだ。

 そんな事をしていたらすぐに滅ぼされそうなものだが、レイドル帝国の周辺四か国が均衡していたというのもあり、にらみ合いが続いていたそうだ。

 その前戦争で明け渡したケイネス領の返還するという行為は、前戦争でレイドル帝国がしたように和平を結んでやるから無条件で差し出せと言っているのも同義だ。

 この国王が頭を縦に振るとは思えないな。


 そして、三つ目に関しては、キンドル砦の獣王アクライハムとの繋がりを強固なものにするためだろう。

 俺が守護獣と呼ばれているが、実情本当の意味で守護獣は獣王アクライハムだ。

 他国がキンドル砦の任務を発行することはできないシステムになっているらしいが、グレッドチース族の皮や爪などはシューリアでは高値で取引されている。グレッドチース族は世界中でキンドル砦にしか生息していない固有部族らしく非常に希少価値が高いらしい。レイドル帝国では取引は禁止されているが、シューリアに持ち込めば高値で売れる。一攫千金を狙う冒険者がキンドル砦へ向かうことを止められない現状だ。

 そのシューリアでの取引を禁止させればキンドル砦は少しは平和になるという算段だ。

 

 俺としては是非これは通してもらいたい。ペコもロニもキンドル砦に居るんだしな。


 だが、ここシューリアは魔物排他を掲げている国だ。この国の方針を捻じ曲げてまでこの案に従ってしまえば、和平条約という名目ではあるが、シューリアがレイドルに屈服したように見える。

 それをこの王は恐らく許さないだろう。


 厳しいはずだ。

 このプライドの高そうな王が頷くとは思えない。

 現に闘王は難しそうな顔をしている……違うな明らかに怒っているような表情をしている。


 まずい。あれがぶち切れたらもう戦争突入待ったなしだ。

 なんだったらここで開戦もあるぞ……。


 どうすんだよ。


 アルテイシアはそのためにわざわざここに来たと言っていた。

 言い方は悪いがエーチの魔法でここの国民を人質に取って、無理やり頷かせるという予定だったのだろう。

 だが、今のエーチは杖を持っていない。

 取り返すにしても時間はかかる。

 どうするんだ?


 どうするんだよ!!

 


 

  


  

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