第99話
烈はぶつぶつ言いながらも、箱の前へしゃがみ込んだ。
「開けるぞ!」
箱の蓋へ手をかけ、一気に持ち上げる。
罠が作動する様子はなかった。
「何か袋みたいなものが入ってるぜ」
烈が箱の中から、手のひらより少し大きな布袋を一つ取り出した。
静も箱の中をのぞき込む。
「同じものが四つあります」
「ちょうど俺たちの人数分か」
烈は手にした袋を眺めていたが、突然目を見開いた。
「おっ?」
「どうした?」
「手に取ったら、装備するかって聞かれたから、装備したぜ」
「また確認せずに選んだのか?」
静が呆れた顔をする。
「烈。危険なものだったらどうするのですか?」
「その時は、透様が何とかしてくれるだろ」
静は額へ手を当て、首を横に振った。
「透様を便利な解決役だと思わないでください」
「で、烈。その袋は何だったんだ?」
「アイテム袋っていうらしいぜ」
烈は頭の中に表示された説明を読み取るように、少し考え込む。
「説明だと、十メートルの右上に小さい三がついた分だけ荷物が入って、重さも軽くなるらしい」
「十メートルの右上に小さい三?」
「そうだぜ。十メートルの上に、ちっちゃい三がある」
「それは十立方メートルだな」
「りっぽうメートル?」
「体積を表す単位だよ」
俺は分かりやすい形を考える。
「例えば、幅二メートル、奥行き二メートル、高さ二・五メートルの空間があったとするだろ?」
「おう」
「二掛ける二掛ける二・五で、十立方メートルになる。そのくらいの空間に収まる荷物を、袋の中へ入れられるということだと思う」
「そんなに入るのか!」
「しかも、持っている時の重さも軽くなるみたいだな」
「すごい袋ですね」
静が残りの三つを確認する。
「四つあるということは、やはり僕たち一人ずつの分でしょうか」
「たぶんそうだろうな」
俺は腰につけたポーチを見る。
「せっかく、みんなでおそろいのポーチを買ったばかりなのにな」
「この袋を、ポーチの中へ入れておけばよいのではありませんか?」
いなりが俺の腕の中から提案する。
「そうすれば、ポーチごとアイテム袋のように使えるかもしれません」
「それ、いいかもな」
「じゃあ、一人一つずつ取ろうぜ!」
烈の言葉に、静といなりもうなずいた。
俺はいなりをいったん床へ下ろし、箱の中に残っている袋を一つ手に取った。
その瞬間、頭の中に声が響く。
【《アイテム袋》を入手しました。装備しますか?】
俺は慎重に内容を確認してから、《はい》を選んだ。
【《アイテム袋》を装備しました】
【このアイテム袋は、個体名・小森透の所有物として登録されました】
【所有者による解除指示が行われない限り、他者が奪取または使用することはできません】
【収納できるものは、個体名・小森透の所有物、または所有者の存在しない物品に限られます】
「所有者登録まであるのか」
これなら、袋そのものを盗まれても、中身を奪われる心配はなさそうだ。
試しに、背負っていたリュックへ意識を向ける。
【リュックを収納しますか?】
すぐに確認が表示された。
俺が《はい》を選ぶと、リュックが目の前から消える。
同時に、頭の中へ収納物の一覧が表示された。
【収納物】
・リュック×一
「本当に入った……」
「透様、どうした?」
「リュックを袋の中へ入れてみた」
「取り出せるのですか?」
「やってみるよ」
収納物の一覧を思い浮かべ、リュックを選択する。
【リュックを取り出しますか?】
《はい》を選ぶと、目の前にリュックが現れた。
「便利だな、これ」
入れた物は一覧で確認できる。
取り出したい物を選べば、すぐに出すこともできる。
さらに、所有者登録があるため、盗まれる可能性も低い。
「透様。ポーチに入れてみたらどうだ?」
「そうだな」
俺は腰につけた緑色のポーチを開き、《アイテム袋》を中へ入れようとした。
すると、新しい確認が表示された。
【このポーチへ《アイテム袋》の機能を移しますか?】
「機能を移せるのか?」
思わず声が漏れる。
俺は少し迷ったものの、《はい》を選択した。
【《アイテム袋》の機能をポーチへ移しました】
手に持っていた布袋が光となって消え、腰につけていた緑色のポーチが淡く光った。
「ポーチ自体が、アイテム袋になったみたいだ」
「本当ですか?」
いなりが目を輝かせる。
「白いポーチもできますか?」
「たぶんできると思う。みんなも試してみよう」
いなり、烈、静もそれぞれ袋を装備し、ポーチへ機能を移していく。
白。
赤。
青。
四人のおそろいのポーチが、そのまま《アイテム袋》になった。
「これなら、せっかく買ったポーチも無駄にならないな」
「はい。あるじとおそろいのままです」
いなりは嬉しそうに白いポーチを抱えた。
「外でも使えるなら、すごく便利だぜ!」
「そうだな。ダンジョンの外でも使えるか、帰ったら確認しよう」
水や食料だけでなく、武器や防具、採掘した鉱石まで収納できるかもしれない。
探索の方法が大きく変わりそうだ。
「ほかに何かないか、部屋を確認しよう」
俺たちは宝箱の周辺と、広い部屋の中を見回した。
すると、入ってきた大扉とは反対側の壁に、もう一つ扉があることに気づいた。
「あそこにも扉があるな」
第五層は、この部屋で終わりではないらしい。
部屋の奥にある扉を開けると、その先には下へ続く階段があった。
おそらく、第六層へ続いているのだろう。
そして、階段の手前には、見覚えのある白い球体が浮かんでいた。
ダンジョンの入口にある、帰還用の球体とよく似ている。
「おっ。ダンジョンの出口じゃん!」
烈が迷うことなく白い球体へ近づく。
「烈、不用意に触るな――」
止めるよりも早く、烈の手が球体へ触れた。
白い光が烈の身体を包み、次の瞬間には姿が消えていた。
「……遅かったか」
静が額へ手を当て、首を横に振る。
「烈は、どうして確認する前に触ってしまうのでしょう」
「まあ、烈だからな」
「あるじ。戻ってこられるでしょうか?」
いなりが心配そうに白い球体を見る。
「入口へ戻るだけならいいけど……」
しばらく待っていると、球体が再び光った。
その中から、消えたはずの烈が姿を現す。
「透様!」
「烈、無事か?」
「おう! これ、やっぱりダンジョンの出口だぜ!」
「出口なのは分かったけど、どこへ出たんだ?」
「ダンジョンの入口です」
「それは、いつもの出口と同じじゃないのか?」
「でも、入口が増えてたぜ!」
「入口が増えた?」
烈の説明だけでは、いまひとつ状況が理解できない。
「透様も行けば分かるって!」
「説明を諦めたな」
「実際に見た方が早いぜ」
確かに、ここで考えていても仕方がない。
下へ続く階段は気になるが、今日はボスとの戦闘で装備も壊れている。
これ以上進むつもりはなかった。
「じゃあ、全員で戻ってみよう」
「はい、あるじ」
俺たちは順番に白い球体へ触れた。




