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第98話

 いなりの一撃だけでは、リーダーを倒しきれなかった。

 けれど、間違いなく致命傷だった。

 炎の太刀に盾ごと切り裂かれたリーダーは、先ほどまでの勢いを完全に失っている。

 動きが鈍り、剣を振るう速度も目に見えて落ちていた。

「今だぜ!」

 烈が大太刀を振り下ろす。

 リーダーは盾で受けようとしたが、いなりの一撃で傷ついた盾では防ぎきれない。

 大太刀が盾を弾き飛ばした。

「こちらです!」

 静も側面から太刀を振るい、リーダーの脚を切りつける。

 体勢を崩したリーダーが片膝をついた。

 それでも剣を持ち上げようとするが、もう最初のような力は残っていない。

「あるじを傷つけたこと、後悔してください!」

 いなりが右手を突き出した。

「《狐火》!」

 放たれた炎が、リーダーの身体を包み込む。

「グオオオオッ!」

 断末魔のような声が部屋に響く。

 やがてリーダーの身体は光の粒となり、跡形もなく消えた。

 戦闘が終わった。

 そう思った次の瞬間、いなりが俺へ向かって駆けてきた。

「あるじ!」

 勢いを緩めることなく、そのまま胸元へ飛び込んでくる。

「あるじ、あるじ! 死なないでください! あるじぃ!」

「いなり、落ち着け。ステイ、ステイだ」

「あるじ……?」

 いなりが涙で濡れた顔を上げる。

「俺は平気だよ。自分に《ヒール》を使ったから、肩の傷も治ってる」

 血で汚れた服を少しずらし、傷が消えていることを見せる。

「ほら。もう痛くない」

「本当に……?」

「ああ。本当だ」

 いなりは俺の肩を何度も確認し、ようやく少しだけ力を抜いた。

「それより、みんなは無事か?」

「おう! 俺様は平気だぜ!」

 烈が大太刀を肩へ担ぎながら答える。

「僕も問題ありません」

 静は壊れた盾へ一度視線を落としてから、俺を見た。

「透様が守ってくださったので、怪我はありません」

「そうか。よかった」

 いなりは、まだ俺の胸へ顔を押しつけたまま泣いている。

「いなりも、ありがとうな」

「……はい」

「いなりのおかげで、あいつを倒せた」

「あい……」

 涙声の返事を聞きながら、いなりの頭を撫でる。

 しばらくは、このままにしておいた方がよさそうだ。

「透様!」

 部屋の奥から、烈の声が聞こえた。

「何か箱が出てきたぞ!」

 小鬼とリーダーが落とした魔石を拾っていた烈が、床の一角を指差している。

「箱?」

 俺も確認しようとしたが、いなりはまだ俺にしがみついたままだ。

「いなり。ちょっと離れてくれるか?」

「やです」

 即答だった。

「でも、あっちを確認したいんだけど」

「離れません」

「しょうがないな」

 俺はいなりの身体を抱き上げた。

 いなりは俺の首へ腕を回し、しっかりとしがみついてくる。

 そのまま烈たちのところへ向かった。

「これです」

 静が床に現れた箱を示す。

 木製の箱で、金属の帯によって補強されている。

 いかにも宝箱と呼びたくなる見た目だった。

「開けてみるか」

 俺が近づこうとすると、静が前へ出た。

「透様。罠などがあるかもしれません。少し離れていてください」

「確かに、その可能性はあるな」

 俺はいなりを抱いたまま、少し後ろへ下がる。

 静は箱を確認したあと、烈の方を向いた。

「では烈、開けてください」

「俺なのかよ!」

「烈ですから、大丈夫でしょう」

「どういう意味だよ!」

「丈夫ですから」

「なんか理不尽だぜ……」

 烈はぶつぶつ言いながらも、箱の前へしゃがみ込んだ。

「開けるぞ!」

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