第96話
七月三十日、火曜日。
今日は、第五層へ進むつもりだ。
いつものように午前中の勉強を終え、昼食を食べてから尾張ダンジョンへ向かった。
第一層から第四層までは、特に問題なく進むことができた。
魔物との戦闘も安定している。
採掘地点も、第三層と第四層でそれぞれ見つけられた。
ここまでの収穫は、昨日と同じように宝石が一個。
魔石や鉄鉱石も、順調に集まっている。
第四層を回り終えたところで、俺は三人の様子を確認した。
「疲れてないか?」
「問題ありません、あるじ」
「俺様はまだまだいけるぜ!」
「僕も大丈夫です」
動きが鈍っている者はいない。
魔力にも余裕がある。
俺は、第五層へ続く階段を見た。
「じゃあ、第五層へ行くぞ」
「はい!」
「任せろ!」
「承知しました」
三人の返事を聞き、俺たちは階段を下り始めた。
◇
第五層へ続く階段を下りきると、そこにはこれまでの階層にはなかったものがあった。
大きな両開きの扉だ。
岩壁の中へはめ込まれるようにして、重そうな扉が通路を塞いでいる。
「今までとは、ずいぶん作りが違うな」
第一層から第四層までは、階段を下りればそのまま通路へ続いていた。
けれど、今回は扉の向こう側が見えない。
ゲームで考えるなら、いかにもボス部屋といった雰囲気だ。
扉の前で足を止めると、いなりが目を閉じた。
耳を立て、扉の向こうへ意識を集中させる。
「いなり。中の様子は分かるか?」
「少し待ってください」
しばらくして、いなりが目を開いた。
「あるじ。中には四体います」
「四体か」
「三体は、これまでの小鬼と同じです」
「残りの一体は?」
「小鬼よりも大きな個体です。魔力も、ほかの三体より強いです」
扉の向こうにいる敵を、入る前に確認できるのは大きい。
「助かるよ」
俺はいなりの頭を撫でた。
「えへへ」
いなりは嬉しそうに目を細める。
俺は改めて三人を見る。
「作戦を決めよう」
「はい」
「烈。普通の小鬼三体を任せられるか?」
「おう! 俺様に任せておけ!」
「一人で全部倒そうとしなくていい。まずは三体を引きつけてくれ」
「分かったぜ!」
「いなりは、烈の援護を頼む」
「はい。烈が囲まれないように動きます」
「静は、大きい個体に対峙してくれ」
「承知しました」
「ただし、無理に攻めなくていい。相手の攻撃を受け止めて、動きを抑えることを優先してくれ」
「守りを重視します」
「ああ。俺は静の近くで援護しながら、全体を見る」
大きい個体を早く倒せそうなら攻撃に加わる。
烈やいなりが危なくなれば、そちらへ移動する。
回復が必要になれば、すぐに魔法を使う。
「敵の強さが分からない。危険だと思ったら、すぐに扉の外へ撤退するぞ」
「はい、あるじ」
「了解だぜ!」
「承知しました」
全員の返事を確認し、俺は杖を構えた。
戦闘が始まる前に、まずは防御を固める。
「《プロテクション》」
魔法を唱えると、四人の身体を薄い光の膜が包んだ。
「これで少しは攻撃を防げるはずだ」
俺は大きく息を吸う。
「それじゃあ、行こう」
「おう!」
烈が大扉の前へ進み、両手をかけた。
力を込めると、重い音を立てながら扉がゆっくりと開いていく。
扉の向こうには、広い石造りの部屋があった。
部屋の中央に、小鬼が三体。
そして、その奥に一体。
いなりが言っていたとおり、普通の小鬼より一回り大きな個体が立っている。
体格だけではない。
身につけている装備も、これまでの小鬼とは明らかに違った。
手には、錆びていない立派な剣。
反対の手には、金属で補強された盾。
身体には、簡素ながらも革製の防具をまとっている。
普通の小鬼たちを従える立場なのかもしれない。
「大きい個体を、リーダーと呼ぶ」
俺は三人に聞こえるように告げる。
「作戦どおりにいくぞ」
「はい!」
その声に反応したかのように、リーダーが大きく吠えた。
「グオオオオッ!」
部屋の中に、低い咆哮が響く。
続けて、三体の小鬼も武器を振り上げた。
「ギャアアアッ!」
「ギギャアッ!」
叫び声を上げながら、一斉にこちらへ向かってくる。
「お前たちの相手は、俺様だ!」
烈が前へ飛び出した。
迫ってきた三体の先頭へ向け、大太刀を横薙ぎに振るう。
魔力を纏った刃が、小鬼の身体へ食い込んだ。
同時に、静が盾を構えてリーダーの前へ進み出る。
いなりは烈の側面へ回り込み、俺は杖を握り直した。
さあ、第五層の戦闘開始だ。




