第94話
ダンジョンを出た俺たちは、そのまま入口横の買い取り所へ向かった。
いつもなら、カウンターに置かれたトレーへ魔石と鉄鉱石を並べるだけだ。
けれど、今日は宝石と正体不明の液体が入った瓶もある。
「綾部さん。今日の成果はこれです」
「はーい。確認するね」
俺は魔石と鉄鉱石をトレーへ並べたあと、宝石と布で包んだ小瓶を取り出した。
「それと、今日はいつもと違うものが二つ出ました」
「宝石と……瓶?」
綾部さんは、まず宝石を確認する。
続いて小瓶を手に取り、光へ透かすようにして中をのぞき込んだ。
「何か赤い液体が入ってるわね。これ、開けた?」
「いえ。何が入っているのか分からなくて、怖かったので開けていません」
「うん。それで正解」
綾部さんは真面目な表情でうなずいた。
「正体不明のものは、むやみに開けたり、飲んだりしない方がいいわ。匂いを確認しようとして、直接嗅ぐのも駄目だからね」
「はい」
「烈も、勝手に飲んだりするなよ」
「飲まないって!」
烈が抗議する。
「さっき、飲み物かって聞いてただろ」
「あれは聞いただけだぜ!」
「烈なら飲みかねません」
「静まで!」
綾部さんが、俺たちのやり取りを見て笑う。
「とにかく、この瓶はすぐに買い取り金額を出せないわね」
「やっぱり、そうですか」
「中身を調べないと、何なのか分からないもの。こちらで預かって、専門機関へ調査を依頼したいんだけど、いい?」
「はい。俺たちでは調べられないので、お願いします」
「了解。破損しないように保管して、調査に回すわね」
綾部さんは瓶を透明な袋へ入れ、発見階層や魔物の種類を書いたラベルを貼った。
「この瓶は、第四層の小鬼が落としたもので間違いない?」
「はい。小鬼を倒したあと、魔石の代わりに残っていました」
「分かった。そこも記録しておくね」
続いて宝石を手に取る。
「こっちは、前に出た宝石と同じ種類に見えるわね」
「ダンゴムシが落としました」
「見た目はトパーズっぽいけど、念のため鑑定してもらってから金額を出すわ」
「はい。それでお願いします」
「それじゃあ、宝石と瓶は預かり品として、今日の明細に記載しておくね」
綾部さんは端末へ情報を入力していく。
俺たちが発見した階層。
落とした魔物。
拾った日時。
瓶を開封していないことも記録しているようだ。
「今日の時点で買い取り金額が決まるのは、魔石五十二個と鉄鉱石六個ね」
綾部さんが計算結果を確認する。
「魔石が一個二千円で、十万四千円。鉄鉱石は一個千円だから、六千円」
端末の画面をこちらへ向ける。
「合わせて十一万円です。振込先は、いつもの透くんの口座でいいのよね?」
「はい。お願いします」
「了解。次の振込処理に回しておくね」
綾部さんは買い取り明細と預かり証を印刷した。
「はい。これが今日の買い取り明細。それから、こっちが宝石と瓶の預かり証ね」
渡された書類には、買い取り対象となった魔石と鉄鉱石だけでなく、宝石一個と液体入りの瓶一個を預けたことも記載されている。
「宝石は鑑定結果が出たら、買い取り価格を連絡するわ。瓶については、中身や用途が分かった段階で知らせるね」
「瓶の方は、何か分かったら教えてください」
「もちろん。透くんたちが最初に見つけたものだから、結果が出たらきちんと説明するわ」
「よろしくお願いします」
「はい。お疲れさまでした」
綾部さんが、いつもの調子で手を振る。
「綾部さん、ばいばーい!」
いなりも負けないくらい大きく手を振り返した。
「いなりちゃん、また明日ねー」
「はい。また明日です!」
ほとんど毎日のように買い取り所へ通っているため、いつの間にか二人はすっかり仲良くなったようだ。
いなりは買い取り所を離れてからも、何度か振り返って手を振っていた。
「いなり。綾部さんと仲よくなったな」
「はい。綾部さんは、いつもいなりたちが持ってきたものを褒めてくれます」
「そうだな」
「瓶の中身も、早く分かるといいです」
「ああ。回復薬みたいなものなら助かるけどな」
ただし、見た目だけで決めつけることはできない。
毒かもしれないし、まったく別の用途に使う液体かもしれない。
調査結果が出るまでは、余計な想像をしすぎない方がよさそうだ。
俺は明細と預かり証をリュックへしまい、三人と一緒に家へ向かった。




