第88話
翌日。
空は朝から気持ちよく晴れていた。
風もそれほど強くなく、キャンプ用品を洗って干すには、ちょうどいい天気だ。
朝食を終えると、俺たちはすぐに作業へ取りかかった。
全体の指示を出すのは親父だ。
俺と静は、庭にテントとタープを広げ、水洗いをしながら破れや傷みがないか確認する。
「静。そっちの縫い目はどう?」
「問題ありません。こちらも破れているところはないようです」
「じゃあ、次は裏側を見よう」
「はい」
いなりはバケツに水を張り、ペグやロープなどの小物を一つずつ洗っている。
土がこびりついているものは、たわしを使って丁寧にこすっていた。
「いなり。手を切らないようにな」
「はい、あるじ。気をつけます」
烈は親父と一緒に、倉庫からキャンプ用品を運び出していた。
「父上、次はこれか?」
「ああ。その箱を庭まで頼む」
「任せろ!」
運び出した道具は、その場で親父が点検する。
汚れているものが見つかると、烈がいなりのところまで持っていった。
「いなり様、これも汚れてるぜ!」
「はい。こちらへ置いてください」
「次も持ってくるぜ!」
「烈。走ると道具を落としますよ」
静が注意すると、烈は少しだけ速度を落とした。
「分かってるって!」
それぞれの作業を黙々と進めていく。
人数が増えたこともあり、思っていたよりも早く終わった。
時間を確認すると、まだ午前十時を少し過ぎたところだった。
洗ったテントやタープは、庭いっぱいに広げて干してある。
ペグやロープなどの小物も、種類ごとに並べられていた。
「みんな、ご苦労さま」
親父が全体を見回しながら言った。
「あとは乾くのを待って、午後三時頃に取り込んで片づければ終わりだ。三時から、またよろしくな」
「はい、父様」
「分かった、父上!」
「承知しました、父上」
予定よりかなり早く終わった。
俺は昼までの時間を考える。
「まだ時間があるから、昼まで勉強しようか」
「えー」
烈が分かりやすく嫌そうな声を出す。
「その代わり、昼ご飯を食べたあとは、三時まで昼寝にしよう」
「昼寝!」
烈の顔が一気に明るくなった。
「透様、それでいこう!」
「静といなりは?」
「僕も異存ありません」
「はい。わたしも大丈夫です」
「じゃあ、今日の分をさっさと終わらせよう」
「はい!」
烈の返事だけ、さっきよりもずいぶん元気だった。
透たちが家の中へ戻っていく姿を見ながら、一が小さく笑った。
「透のやつ、いなりちゃんや烈くん、静くんが来てから、少し明るくなったと思わないか?」
隣で洗った道具を確認していた恵も、家の方へ目を向ける。
「そうね。前よりも、よく話すようになったわ」
「三人の面倒を見るのも、嫌がっていないみたいだな」
「少なくとも、あの子たちの前では、しっかりした兄でいようとしているんじゃないかしら」
「いい傾向だな」
「ええ」
以前の透は、一人で何でもやろうとするところがあった。
家族との関係が悪いわけではない。
けれど、高校生になってからは、自分のことを自分の中だけで片づけようとすることが増えていた。
それが今は、いなりたちの予定を考え、勉強を見て、ダンジョンでは全員をまとめている。
「最初に、神様から三人を預かってほしいと頼まれた時は、正直ためらったけどな」
「そうね。いきなり子どもが三人増えるなんて言われたら、普通は驚くわよ」
「だが、結果としては受け入れてよかった」
「ええ。本当に」
恵は、家の中から聞こえてくる烈の大きな声に、楽しそうに笑った。
以前よりも、家の中がずっと賑やかになった。
一も、つられるように笑う。
「このまま、みんな仲良く暮らしてくれればいいな」
「大丈夫よ」
恵は迷うことなく答えた。
「もう、ちゃんと家族になっているもの」




