第86話
四人で服やポーチを見せ合っていると、ふと今日の買い物で話したことを思い出した。
「いなり、烈、静。少し相談してもいいか?」
「はい、あるじ」
「何だ、透様?」
「はい」
俺は三人の顔を順番に見る。
「ダンジョンで稼いだお金の使い方についてなんだけど」
三人が少し真剣な顔になる。
「今のところ、買い取り代金は全部、俺の口座に入ることになってる。でも、あれは四人で稼いだお金だ」
「はい」
「だから、そのまま俺一人で管理するのは違うと思う」
今日、親父に言われるまで、深く考えていなかった。
口座が俺名義だからといって、俺の金になるわけではない。
「それで考えたんだけど、ダンジョンで稼いだお金の半分は、母さんに預けたいと思ってる」
「私に?」
母さんが少し驚いた顔をする。
「ああ。いなりたちの生活費や、これから必要になるお金として管理してほしいんだ」
服や学校用品。
いずれ学校へ通うようになれば、小遣いや交通費も必要になるだろう。
「残りの半分は、四人の共同資金にする」
「共同資金ですか?」
静が尋ねる。
「今日買ったポーチみたいに、ダンジョンで使う道具を買うためのお金だ。武器や防具を作ったり、修理したりする費用にも使いたい」
これから先へ進めば、今の装備では足りなくなる。
新しい武器。
防具。
回復用品。
探索に必要な道具。
どれも安いものではないはずだ。
「みんなは、どう思う?」
「僕は、それで構いません」
静が最初に答えた。
「透様が一人で管理するより、母上にも預けた方が安心だと思います」
「俺様もいいぞ!」
「わたしも賛成です」
いなりもうなずく。
「あるじとみんなで使うお金が残るなら、問題ありません」
「ありがとう」
三人が納得してくれて、少し安心した。
母さんは腕を組み、少し考えてから口を開く。
「分かったわ。半分は私が預かって、三人のためのお金として管理する」
「お願いしてもいい?」
「もちろんよ」
母さんは、いなりたちへ視線を向ける。
「今はまだ学校へ通っていないけれど、学校へ行くようになったら、お小遣いも必要になるでしょう?」
「お小遣いですか?」
いなりが首をかしげる。
「自分で好きなものを買うためのお金よ。お友達と出かけたり、お菓子を買ったりすることもあるでしょうから」
「なるほどです」
「そのお金は、私がそれぞれの分を分けて管理しておくわ」
「ありがとう、母さん。俺だと、たぶんうまく管理できないと思ってたんだ」
「透もこれから覚えていけばいいのよ」
親父も、話を聞きながらうなずいた。
「今のところは、その方法でいいだろう」
「親父もいいの?」
「ああ。ただし、共同資金を使う時は、四人で相談して決めること」
「分かった」
「金があるからといって、何でも買えばいいわけじゃない。必要なものと欲しいものを分けて考えろ」
「はい」
俺が答えると、親父は烈たちの方を見る。
「三人も、これから人の世界で暮らしていくなら、お金の使い方を覚えないといけない」
「はい、父上!」
「承知しました、父上」
「はい、父様」
三人の返事が重なった。
呼び方は少し違うけれど、親父は特に気にする様子もなくうなずいた。
「とりあえず、今までの分も含めて、あとで金額を整理しよう」
「分かった」
これで、ダンジョン収入の大まかな使い方は決まった。
半分は、いなりたちの生活や将来のために母さんへ預ける。
残り半分は、俺たち四人の共同資金。
まだ細かいルールは必要かもしれない。
けれど、最初の一歩としてはこれでいいと思う。
いなりが白いポーチを大切そうに撫でている。
烈と静も、それぞれの色のポーチを嬉しそうに身につけていた。
四人で初めて共同資金から買ったもの。
これから先も、みんなで相談しながら必要なものをそろえていこう。
俺は三人を見ながら、改めてそう思った。




