第85話
家に着くと、車から買ってきた荷物を降ろした。
紙袋やキャンプ用品を居間へ運び終えたところで、母さんが満足そうに手を叩く。
「せっかくだから、みんな、今日買った服に着替えてきて」
「今から?」
「もちろんよ。ちゃんと似合っているところを見たいもの」
母さんに押し切られ、それぞれ自分の服を持って部屋へ向かう。
まあ、いなりがどんな服を選んだのかは気になっていた。
自分の服へ着替え、居間へ戻る。
俺が先にソファへ座って待っていると、ほどなくして扉が開いた。
最初に入ってきたのは、いなりだった。
白い長袖のTシャツ。
えんじ色のキュロットパンツ。
足には、ベージュのタイツを履いている。
「おおっ」
思わず声が漏れた。
白とえんじ色の組み合わせは、普段の巫女姿に少し近い。
けれど、こちらの方がずっとカジュアルで、普通の女の子らしい服装だった。
「あるじ。どうですか?」
いなりは両手を広げると、その場でくるりと一回転した。
えんじ色のキュロットがふわりと揺れる。
そして、期待するような目で俺を見上げてきた。
「うん。いなり、よく似合ってるよ」
「本当ですか?」
「ああ。すごくかわいいと思う」
その言葉を聞いた瞬間、いなりは両手を上げた。
「母様! よかったです! あるじに褒めてもらえました!」
「いなりちゃん、よかったわね」
「はい!」
いなりは満面の笑みを浮かべている。
どうやら、昨日母さんと内緒話をしていたのは、この服のことだったらしい。
「じゃあ、いなりには白いポーチだな」
「あっ、はい」
俺は買ってきた白いポーチを手渡した。
「つけてみて」
「こんな感じですか?」
いなりはポーチのベルトを腰へ回し、キュロットの横へ取りつける。
白い服の上に白いポーチなので、全体の色にも自然に馴染んでいた。
「そうそう。そのまま少し動いてみて」
「はい」
いなりは歩いたり、その場で身体をひねったりして確認する。
最後に軽く飛び跳ねてみたが、ポーチが大きくずれる様子もない。
「問題ありません」
「よかった。服にも合っていて、いい感じだよ」
「はい♪」
いなりは自分の名前が刺繍されたポーチを撫でながら、嬉しそうに尻尾を揺らした。
「烈くんと静くんは、どうかな?」
母さんが廊下へ声をかける。
すると、烈と静が並んで居間へ入ってきた。
「俺は赤だぜ!」
烈は赤いTシャツに、黒いパンツ。
腰には赤いポーチをつけている。
「僕は、こちらです」
静は青いTシャツに、グレーのパンツ。
腰につけているのは青いポーチだ。
顔はよく似ているが、色が違うだけで印象はかなり変わる。
烈は明るく活発に見え、静は落ち着いた雰囲気になっていた。
「二人とも、よく似合っているわ」
母さんが笑顔で言う。
「母上、ありがとうございます!」
「ありがとうございます、母上」
二人とも嬉しそうだ。
そういえば、いなりは母さんを母様と呼び、烈と静は母上と呼ぶようになったらしい。
神使によって呼び方にも違いがあるのだろうか。




