第84話
キャンプ用品売り場へ向かう。
売り場には、テントや寝袋、ランタン、調理器具などが並んでいた。
普通の鞄売り場とは違い、丈夫そうな生地を使った商品が多い。
壁際には、
『キャンプだけでなく、ダンジョン探索にもおすすめ』
と書かれたPOPまで掲げられていた。
「ダンジョンに入ることも、少しずつ日常の一部になってきてるんだな」
神託があった頃には、こんな売り文句が店に並ぶとは思っていなかった。
いなりたちは、腰や脚に取りつけられるポーチを一つずつ試していく。
しばらくして、いなりが小さなポーチを持ってきた。
「あるじ。これなんか、どうでしょう?」
「おっ。いなりは、もうつけてみたのか?」
「はい。こんな感じです」
いなりは、その場でくるりと身体を回してみせた。
腰の横に白いポーチがついている。
大きすぎず、小さすぎず。
巫女服の上からつけても、動きの邪魔にはならなそうだ。
「おお。かわいいな」
「えへへ」
いなりの尻尾が嬉しそうに揺れる。
「それに、このポーチは色も多いんだな」
「はい。いなりは白にしました」
いなりが隣を見る。
「烈は赤で、静は青です」
烈は赤いポーチを腰につけ、静は青いものを試していた。
二人とも、今日買った服の色ともよく合っている。
「じゃあ、俺はこの緑にするか」
棚から深緑色のものを取って、腰につけてみる。
普段使っているカーキ色に近い気もするが、親父は何も言わなかった。
たぶん、今日はすでに服の色を変えさせたことで満足しているのだろう。
「透様。これなら、つけたまま動いても邪魔にならなさそうです」
静が軽く身体をひねり、動きを確かめる。
「五百ミリリットルの水筒も入りそうだな」
ポーチの中を確認すると、ほかにもタオルや小型ライト、簡単な非常食くらいなら入りそうだった。
「これにするか」
「はい!」
「いいと思います」
「おそろいです、あるじ」
四人分のポーチを持って、レジへ向かう。
「じゃあ、これをダンジョンの共同資金で初めて買ったものにしよう」
店員さんが商品を確認していると、ポーチの内側にある小さな札を指した。
「こちらの商品ですが、追加料金で名前を刺繍することもできます。いかがなさいますか?」
「名前を入れられるんですか?」
「はい。平仮名、片仮名、漢字、アルファベットから選べます」
いなりが、期待するように俺を見る。
烈と静も、少し興味がありそうだ。
「それじゃあ、お願いします」
「かしこまりました。お名前はこちらへご記入ください」
俺は申込用紙へ、四人の名前を書く。
透。
いなり。
烈。
静。
「完成まで一時間ほどかかります」
「その間、ほかの店を見ていても大丈夫ですか?」
「はい。一時間後に、こちらの伝票をお持ちください。商品をお渡しします」
「分かりました。よろしくお願いします」
◇
ポーチの刺繍を待つ間、俺たちは売り場を回り、必要な小物をいくつか選んだ。
小型の水筒。
タオル。
携帯できる非常食。
小さなライト。
簡易的な救急用品。
すべてをポーチへ詰め込む必要はないが、必要なものを整理する参考にはなった。
一時間ほど経ったところで、再びキャンプ用品売り場へ戻る。
伝票を店員さんへ渡すと、奥から四つのポーチを持ってきてくれた。
「お待たせしました。刺繍の内容をご確認ください」
それぞれのポーチには、選んだ色の糸で名前が刺繍されていた。
「いなりの名前が入っています!」
いなりは白いポーチを両手で抱きしめる。
「ちゃんと俺様の名前もあるぞ!」
「僕のものにも、入っています」
烈と静は、すぐに身につけようとした。
けれど、まだ値札がついたままだ。
「そのままではつけられませんよ」
店員さんが笑いながら、値札や商品タグを切ってくれる。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
二人は早速ポーチを腰につけ、互いの姿を確認していた。
俺も、自分の名前が入った緑のポーチを手に取る。
同じ形で、色だけが違う四つのポーチ。
みんなとおそろいのものを持つというのは、思っていた以上にいいものだった。
「透。よかったな」
親父が、隣から声をかけてくる。
「ああ」
素直にうなずいた。
これは単なる道具ではない。
俺たちが四人で初めて選び、初めて共同のお金で買ったものだ。
次にダンジョンへ入る時から、四人ともこのポーチを身につけることになる。
「なくさないようにしないとな」
「はい。大切にします」
「俺様も絶対になくさないぜ!」
「烈は、置き忘れに気をつけてください」
「静こそ!」
いつもの言い合いを始める二人を見て、いなりがくすくすと笑う。
必要な買い物も終わった。
俺たちはそれぞれ荷物を持ち、ショッピングモールをあとにする。
帰りの車内は、行きよりも荷物が増えていた。
けれど、それ以上に家族が増えたことを実感できる一日だった。




