第83話
服を買い終えた俺たちは、待ち合わせ場所のフードコートへ向かった。
まだ母さんといなりの姿は見えない。
「先に席を取っておくか」
「はい」
「腹減った!」
空いているテーブルを見つけて確保すると、俺は烈と静を連れて、食べたいものを探しに行った。
フードコートには、ラーメン、うどん、丼、カレー、ハンバーガーと、いろいろな店が並んでいる。
烈は目を輝かせながら、店の看板を順番に見ていた。
「透様、あの肉がたくさん乗っているやつは何だ?」
「丼物だな」
「俺様、あれにする!」
「静は?」
「僕は、こちらのうどん定食にします」
「じゃあ、俺はラーメンかな」
それぞれ注文を済ませ、料理を持って席へ戻る。
すると、母さんといなりもすでに到着していた。
いなりの足元には、服の入った紙袋がいくつか置かれている。
「いなり。いい服は買えたか?」
俺が尋ねると、いなりは一瞬だけ身体を固くした。
頬がうっすらと赤くなり、視線が下へ落ちる。
代わりに母さんが、楽しそうに笑った。
「いなりちゃんが、あとで見せてくれるわよ」
「そうなのか?」
「はい……あるじ」
いなりは小さな声で答えた。
何を買ったのか気になるけれど、昨日、女の子の秘密には気づかないふりをするように言われたばかりだ。
ここは深く聞かない方がよさそうだ。
「とりあえず、昼ご飯を買っておいで」
「はい、あるじ」
「私も一緒に行ってくるわ」
母さんといなりが料理を買いに行っている間、烈は早くも丼を食べ始めていた。
「うまい!」
「烈。母様といなりが戻るまで、少し待った方がよかったのでは?」
「えっ」
烈の箸が止まる。
「もう食べてるし、今さらいいんじゃないか」
「透様がそう言うなら……」
静も箸を取り、うどんを食べ始めた。
しばらくして、母さんといなりも料理を持って戻ってくる。
全員そろったところで、改めて昼食となった。
◇
食事が終わる頃、俺はみんなへ声をかけた。
「このあとのことなんだけど、キャンプ用品売り場へ行きたい」
「旅行に必要なものもあるから、ちょうどいいな」
親父がうなずく。
「それと、ダンジョンで使うものも見ておきたいんだ」
「何を買うつもりなの?」
母さんが尋ねる。
「いなりと烈、静が身につけられる、小さなポーチを考えてる」
「ポーチですか?」
静が首をかしげる。
「戦闘の邪魔にならないくらいの大きさで、水筒やタオル、簡単な非常用品を入れられるものがいい」
今は、ほとんどの荷物を俺のリュックへ入れている。
けれど、ダンジョンの中で絶対にはぐれないとは言い切れない。
万が一、別行動になった時でも、水や最低限の道具を持っていた方がいい。
「なるほどな」
親父が腕を組む。
「それなら、四人分買えばいいんじゃないか?」
「俺はリュックを背負っているから、なくてもいいと思うけど」
「そう言うと、三人も受け取りにくくなるだろう」
「そうか?」
「せっかくだから、同じ種類のものにすればいいんじゃない?」
母さんが、いなりへ笑いかける。
「ねえ、いなりちゃん」
「はい。あるじとおそろい……」
いなりの声が、途中からだんだん小さくなる。
目を細め、何かを想像するように頬を緩ませていた。
「い、いなり?」
「……」
「いなりさーん?」
「はっ」
いなりが我に返る。
「すみません。みんなで同じものを持つところを想像したら、いいなあと思ってしまって」
「そうか」
そこまで喜んでもらえるなら、俺の分も買った方がよさそうだ。
「じゃあ、四人で使えるものを探してみよう」
「はい!」
烈がすぐに返事をする。
「俺様も、水筒やタオルが手元にあった方が動きやすいぜ」
「僕も、動きの邪魔にならないのであれば、多少の荷物を持てる方が助かります」
「分かった。それじゃあ、使いやすそうなものを探そう」
「はい、あるじ」
そこで俺は、もう一つ確認する。
「このポーチはダンジョンで使うものだから、ダンジョンで稼いだお金から買いたいと思ってる。みんな、それでいいか?」
「俺様はいいぞ!」
「僕も賛成です」
「はい。あるじとみんなで使うものですから」
三人の返事を聞き、俺は親父を見る。
「今度は、ちゃんとみんなに確認したぞ」
「ああ。それなら問題ない」
「家に帰ったら、お金をどう使うか、詳しいルールも決めましょうね」
母さんが言う。
「共同で使うお金と、それぞれの分を分けた方がいいと思うわ」
「分かった。帰ったら相談しよう」
まずは、四人で初めて買うダンジョン用品を探すことになった。




