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第81話

 七月二十六日、金曜日の夜。

 仕事から帰ってきた親父を交え、家族そろって晩ご飯を食べていると、親父が箸を置いて言った。

「明日は、夏休みの旅行に必要なものを買いに行くか」

「キャンプ道具を買いに行くの?」

「ああ。家族が増えたからな。今ある道具だけじゃ足りないものもあるし、旅行に着ていく服も欲しいだろ?」

「そうね。いなりちゃんや烈くん、静くんの服も必要だわ」

 母さんが、いなりたちの方を見る。

「常滑のショッピングモールへ朝から出かけて、向こうで昼飯を食べるという感じでどうだ?」

「いいわね」

 母さんの顔が、ぱっと明るくなる。

「いなりちゃんの服も、かわいいものをたくさん買いましょうね」

「えっと、母様……」

 いなりは少し迷うような顔をすると、母さんのそばへ身を寄せた。

 そして、俺たちには聞こえないくらいの声で、何かを耳打ちし始める。

 女同士の内緒話らしい。

「烈くんと静くんも、自分の好きな服を選びなさいね」

「はい。ありがとうございます!」

「ありがとうございます、母様」

 二人がそろって頭を下げる。

 しばらくすると、いなりと母さんの内緒話が終わった。

「ふふっ。いなりちゃん、いいわよ」

「ありがとうございます、母様」

 いなりが嬉しそうに笑う。

「いなり。何かおねだりしたのか?」

 何気なく尋ねると、母さんがすぐに俺を見た。

「透。女の子の秘密は、気づかないふりをするものよ」

「あー……分かった」

 そういうものらしい。

「いなりも、ごめんな」

「いえ。大丈夫です。ただ……あの、あるじ」

 いなりが不安そうに俺を見る。

「いなりちゃん。透は、そんなことで怒ったりしないわ。ね? と・お・る」

 母さんが、一音ずつ区切って俺の名前を呼んだ。

 目が笑っていない。

「はい。怒りません」

 俺は姿勢を正して答えた。

「本当に大丈夫だからな、いなり」

「はい、あるじ」

 いなりは安心したように笑うと、隣に座っていた俺の腕へ抱きついてきた。

 柔らかい尻尾が、椅子の横で嬉しそうに揺れている。

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