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第80話

「あるじ! まだ倒れていません!」

 いなりの声が、俺の意識を現実へ引き戻す。

 小鬼はまだ動いていた。

 錆びた剣を手放しながらも、こちらへ腕を伸ばしてくる。

 いなりは、俺の様子が変わったことに気づいている。

 烈と静も、こちらへ駆けつけようとしていた。

 ここで俺が動けなくなれば、三人に心配をかける。

 いなりを。

 烈を。

 静を。

 悲しませるわけにはいかない。

「おおおっ!」

 俺は腹の底から声を出し、小鬼の腹へ蹴りを叩き込んだ。

 小鬼が後ろへ倒れ込み、ピッケルが引き抜かれる。

 一度距離を取り、両手でピッケルを握り直す。

 人型だからといって、ためらうな。

 これはダンジョンの魔物だ。

 仲間を守るために、倒さなくてはいけない。

 起き上がろうとした小鬼へ、俺はもう一度踏み込んだ。

「これで、終わりだ!」

 今度は、途中で手を止めなかった。

 魔力を込めたピッケルを最後まで振り抜く。

 小鬼は光の粒となり、跡形もなく消えた。

 床に、小さな魔石だけが転がる。

「ふううう……」

 俺は大きく息を吐いた。

 手に残る感触が、なかなか消えてくれない。

 何とか倒せた。

 けれど、本来なら、もっと簡単に倒せた相手だったはずだ。

 人型であることに戸惑い、途中で動きを止めてしまった。

 実戦では、それだけで命取りになる。

「あるじ……ごめんなさい」

 いなりが俺のそばへ駆け寄ってきた。

「私が、もっと早く見つけていれば……」

「いや。いなりのせいじゃない」

 俺は首を横に振る。

「採掘場所を見つけたからって、周囲の確認を怠った俺のミスだ。次からは、採掘を始める前に、もう一度きちんと索敵を頼むよ」

「はい……」

「それに、警告してくれたから助かった。ありがとう」

 いなりの頭を撫でる。

 まだ心配そうな顔をしていたけれど、少しだけ表情が和らいだ。

 俺は烈と静へ向き直る。

「それから、烈と静」

「何だ、透様?」

「はい」

「二人には、結構大変な役目を任せていたんだな」

 烈と静が、不思議そうに俺を見る。

「人型の魔物を前で相手にするのは、思っていたよりきつかった。二人はずっと、何も言わずに戦ってくれていたんだな」

「俺様は平気だぜ!」

「透様を守ることが、僕たちの役目ですから」

「それでもだ」

 俺は二人の頭へ手を伸ばした。

「いつもありがとう。これからも、よろしくな」

「任せてくれ、透様!」

 烈が力強く答える。

「僕たちが、必ず透様をお守りします」

 静も真剣な表情でうなずいた。

 その言葉は嬉しい。

 けれど、少しだけ違う。

「俺たちは四人のパーティーだ」

 三人の顔を順番に見る。

「俺だけが守られるんじゃなくて、一緒に戦って、一緒に進んでいきたい」

 いなりが小さく笑う。

「はい、あるじ」

「分かったぜ!」

「承知しました。ともに参りましょう、透様」

 三人の返事が重なった。

 俺は改めて周囲を確認し、今度こそピッケルを構えた。

「それじゃあ、採掘を再開するか」

「はい」

 第四層の採掘地点から出てきたのは、これまでと同じ鉄鉱石が三個だった。

 第三層でも三個採れているため、今日の採掘結果は鉄鉱石六個。

 第四層を一通り回った結果、本日の成果は魔石五十四個と鉄鉱石六個になった。

 買い取り額は、魔石が十万八千円。

 鉄鉱石が六千円。

 合計十一万四千円。

 金額だけを見れば、昨日よりさらに増えている。

 けれど、今日の探索で得たものは、魔石や鉄鉱石だけではなかった。

 仲間に前衛を任せるということ。

 人型の魔物を倒すということ。

 そして、四人で一緒に進んでいくということ。

 十一万四千円よりも、そちらの方がずっと大きな意味を持っているように思えた。

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