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第79話

 第三層までの探索も安定してきた。

 予定より早く回り終えられるようになったこともあり、今日は第四層へ進んでみることにした。

「危険だと思ったら、すぐに戻るぞ」

「はい、あるじ」

「任せてくれ、透様!」

「慎重に進みましょう」

 階段を下りて第四層へ入る。

 洞窟の見た目は、第三層までと大きく変わらない。

 けれど、出現する魔物には変化があった。

 第四層には、土偶が出てこない。

 代わりに現れたのは、これまでより数の増えたダンゴムシと、小柄な人型の魔物だった。

 緑がかった皮膚。

 尖った耳。

 粗末な革の腰巻き。

 手には、錆びた剣や棍棒を持っている。

 いわゆる、ゴブリンと呼ばれるような魔物だ。

「小鬼、って感じだな」

 土偶やダンゴムシとは違い、人間に近い姿をしている。

 烈と静も、生きた人型の相手には戸惑うかもしれない。

 そう思っていたのだが。

「静、右を頼む!」

「承知しました」

 烈が正面から大太刀を振るい、静が盾で別の小鬼の攻撃を受け止める。

 静が盾で小鬼を押し返したところへ、烈が踏み込んだ。

 大太刀が横薙ぎに振るわれ、小鬼が光の粒となって消える。

 もう一体も、静が動きを封じたところを太刀で仕留めた。

 俺が心配するまでもなく、二人は小鬼の群れを蹴散らしていく。

「強いな、あの二人」

「烈と静は、もともと神域を守っていた神使ですから」

「そういえば、そうだったな」

 見た目が少年になったせいで忘れそうになるが、二人は普通の子どもではない。

 俺は、消えていく小鬼を見ながら、いなりへ尋ねた。

「いなり。あの小鬼は、会話できたりするのか?」

「あるじ」

 いなりが、少し呆れたような顔でこちらを見る。

「あれは、ダンジョンが生み出した魔物です。会話できるはずがないでしょう」

「やっぱり、そういうものなのか」

「倒せば、ほかの魔物と同じように消えて、魔石を残します。普通の生き物とは違いますよ」

「分かった」

 人間に近い姿をしているから、つい気になってしまった。

 けれど、土偶やダンゴムシと同じく、倒せば光となって消える。

 このダンジョンの中で生み出された魔物。

 ひとまず、そういう存在なのだと考えることにした。

 第二層で初めてダンゴムシと戦った時ほど、第四層の敵に苦戦することはなかった。

 第二層の壁だったダンゴムシを安定して倒せるなら、第四層も十分に探索できそうだ。

 しばらく進んだところで、いなりが足を止めた。

「あるじ。あそこです」

 いなりが通路の壁を指差す。

 俺は、すぐに周囲を確認してから、指差された場所へ目を向けた。

 目の周辺へ魔力を集める。

 最初は普通の岩壁にしか見えなかったが、集中を続けるうちに、くぼんだ部分が淡く光って見えてきた。

「おっ。掘れる場所だな」

「はい。あるじも、ずいぶん早く見つけられるようになりましたね」

「いなり先生のおかげです」

「先生だなんて……」

 いなりは頬へ両手を当て、照れたように身体をくねらせる。

 尻尾も嬉しそうに揺れていた。

「いつもありがとうな」

 頭を撫でてから、俺はリュックに取り付けていたピッケルを外した。

 採掘地点へ近づこうと、一歩踏み出した。

 その時だった。

「あるじ!」

 いなりの鋭い声が響く。

 横へ延びる通路から、小鬼が一体飛び出してきた。

 小鬼は錆びた剣を振り上げ、真っすぐ俺へ向かってくる。

 俺は反射的にピッケルを構えた。

「ピッケルを持っていても襲ってくるってことは、武器だとは認識していないのか?」

 そんなことを口にしながら、身体へ魔力を巡らせる。

 手にしているピッケルにも、魔力を流し込んだ。

 小鬼が錆びた剣を振り下ろす。

 俺は一歩踏み込み、ピッケルを横から叩きつけた。

 金属同士がぶつかる音が、洞窟に響く。

 魔力を纏ったピッケルの勢いを、錆びた剣では受け止めきれなかった。

 剣が大きく弾かれ、そのままピッケルの先端が小鬼の顔へ突き刺さる。

「っ……!」

 硬いものを砕く嫌な感触が、柄を通して手へ伝わってきた。

 土偶を割った時とは違う。

 ダンゴムシの甲羅を砕いた時とも違う。

 あまりにも人間に近い感触だった。

 俺の手が、ほんの一瞬止まる。

 烈と静は、ずっとこれをやっていたのか。

 俺が後ろから見ている間、二人は人の姿をした魔物を相手に、迷わず戦っていた。

 そんな考えが頭をよぎった。

「あるじ! まだ倒れていません!」

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