第77話
ダンジョンの入口へ到着すると、藤堂さんと辻元さんの姿があった。
二人は入口付近に置かれた机の上で、書類を確認している。
「こんにちは」
俺が声をかけると、藤堂さんが顔を上げた。
「小森くんか。今からダンジョンへ入るのか?」
「いえ。今日は銀行口座を作ってきたので、正式な探索者カードを作ってもらいに来ました」
「おっ、もう作ってきたのか」
藤堂さんは嬉しそうにうなずくと、買い取り窓口へ顔を向けた。
「綾部さん。小森くんたちの探索者カードを作ってもらえるか?」
「はーい」
窓口の奥から、昨日魔石と鉄鉱石を買い取ってくれた女性が出てきた。
「あっ、昨日の鉄鉱石の子だ」
女性は俺たちを見ると、軽く手を振った。
「改めまして。尾張ダンジョンの受付と買い取りを担当している、綾部です。昨日は名乗りもしないまま対応しちゃって、ごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「これからも顔を合わせることが多いと思うから、よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
藤堂さんが、少し呆れたように綾部さんを見る。
「こんな調子だが、一応、尾張ダンジョンの正式なスタッフだ。小森くんもよろしく頼む」
「一応って何ですか、一応って」
綾部さんが頬を膨らませる。
俺は思わず苦笑しながら、改めて頭を下げた。
「小森透です。こちらから、いなり、烈、静です」
「いなりです。よろしくお願いします」
「烈だ。よろしくな!」
「静と申します。よろしくお願いいたします」
「はい。こちらこそよろしくね」
綾部さんは三人の顔を順番に確認すると、受付の椅子を勧めてくれた。
「じゃあ、早速カードを作っちゃいましょう。登録用紙は書いてきた?」
「はい。家で作成してきました。ただ、銀行口座の欄だけは空欄なので、今から記入します」
「分かったわ。それじゃあ、小森くんが口座情報を書いている間に、ほかの三人分を確認するね」
俺は鞄から四枚の登録用紙を取り出した。
「こちらが、いなり、烈、静の分です。俺の分は、口座情報を書いたあとで提出します」
「はい。預かります」
綾部さんは三枚の登録用紙を順番に確認していく。
いなりたちには銀行口座がないため、買い取り代金の振込先は、保護者となる小森家の管理口座として、俺の口座を登録することになっていた。
俺は自分の申請書だけでなく、三人の申請書にも、今日作った口座情報を書き込んでいく。
「三人の分は、ほかに問題ないわね」
綾部さんが確認を終え、用紙をこちらへ返す。
「口座情報は、ここの欄だけで大丈夫。名義は小森くんで統一するのね?」
「はい。いなりたちの分も、しばらくは俺の口座で管理することになっています」
「了解。それなら、その内容で登録するわ」
四枚すべてに口座情報を記入し、綾部さんへ提出した。
「それじゃあ、少し待っててね」
「はい」
俺たちは受付の近くに置かれた椅子へ座って待つ。
烈は落ち着かない様子で何度も奥をのぞき込み、静に袖を引かれていた。
「烈。あまりうろうろしてはいけません」
「だって、どんなカードになるのか気になるだろ?」
「待っていれば、すぐに分かります」
「静は気にならないのか?」
「気にはなりますが、待つことはできます」
そんなやり取りをしているうちに、綾部さんが四枚のカードを持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが正式な探索者カードです」
透明なケースに入ったカードが、一人ずつ手渡される。
「小森透さん」
「はい」
「いなりさん」
「はいです」
「烈さん」
「おう!」
「静さん」
「はい」
カードには、名前と登録番号、それから顔写真が印刷されていた。
烈は自分のカードを両手で持ち、嬉しそうに眺めている。
「これが俺様の探索者カードか!」
「なくすなよ」
「分かってるって!」
静もカードを丁寧に確認し、帽子の下で小さくうなずいた。
「大切に保管します」
「いなりも、落とさないようにな」
「はい。あるじとおそろいです」
いなりは俺のカードと自分のカードを見比べ、嬉しそうに笑った。
「それでは、仮の探索者カードを返却してください」
「あっ、はい」
俺は財布に入れていた仮カードを取り出し、綾部さんへ返した。
綾部さんは返却を確認すると、端末へ何かを入力する。
「これで登録は完了です。次回からは、それぞれ自分のカードを入口で読み取らせてください」
「分かりました」
「買い取り代金も、次回分から今日登録した口座へ振り込まれます。振り込みまで数日かかる場合があるから、明細はきちんと取っておいてね」
「はい。ありがとうございます」
これで、俺たち四人の正式な探索者登録が完了した。
明日からは、仮のカードではなく、自分たちの探索者カードでダンジョンへ入ることができる。
烈はまだカードを眺めている。
静も表情こそ落ち着いているが、カードを大切そうに両手で持っていた。
いなりはカードを胸元へ抱え、尻尾を嬉しそうに揺らしている。
ただの登録証のはずなのに、三人にとっては、人の社会で認められた証のように感じられるのかもしれない。
「それじゃあ、今日は帰るか」
「はい、あるじ」
「明日はダンジョンに入るんだろ?」
「午前中の勉強が終わってからな」
「分かった!」
「明日に備えて、今日は早めに休みましょう」
俺たちは綾部さんたちに挨拶し、それぞれの探索者カードを持って家へ戻ることにした。




