第69話
式が終わると、藤堂さんは報道陣の取材対応に追われていた。
その様子を少し離れた場所から眺めていると、いなりが袖を引っ張ってくる。
「あるじ、いなりの舞、よかったですか?」
「もちろん。すごくよかったよ。いつものかわいらしいいなりとは違って、今日は本当に凛々しかった。烈も静も神使らしくて格好よかったぞ」
「えへへ……よかったです」
ほっとしたように笑う。
やっぱり緊張していたんだな。
ぶっつけ本番であれだけの神楽舞を披露できるなんて、本当にすごい。
そこへ辻元さんが笑顔で近づいてきた。
「お疲れさまでした。いなりちゃんの神楽舞、見事だったね。思わず息を止めて見入っちゃったよ」
「ありがとうございます」
「今日は買取金額のお知らせもあるんだ」
辻元さんは書類を一枚取り出した。
「前回預かっていた魔石は全部で四十六個。買取価格は一個二千円だから、九万二千円になる」
「はい」
「それと、あの黄色い宝石だけど、鑑定の結果トパーズだったよ。こちらは一個一万円で買い取ることになった」
明細を受け取る。
魔石九万二千円。
トパーズ一万円。
合計十万二千円。
初めて自分で稼いだお金だと思うと、少し感慨深い。
「今回は現金で渡すけど、今後は探索者カードを作るときに登録する銀行口座へ振り込む形になるよ」
「翌銀行営業日に振り込むって書いてありますけど……銀行営業日って何ですか?」
親父が苦笑した。
「透はまだ銀行を使う機会が少ないからな。
銀行は基本的に平日しか振込処理をしないんだ。だから土日に手続きをしても、実際に振り込まれるのは次の平日になる。それを『翌銀行営業日』って言うんだ」
「なるほど」
「ということは、透用の口座も必要だな。夏休みに入ったんだから、母さんと一緒に作りに行ってこい」
「了解」
俺が頷くと、辻元さんが続けた。
「口座ができるまでは七月中だけ現金渡しでも大丈夫だよ」
「じゃあ月曜日に銀行へ行こう」
親父の一言で予定が決まった。
辻元さんは今度は申請書を取り出す。
「これが探索者カードの申込書ね。本来はカードがないと入場できないんだけど、今は一般利用者が透君だけだから、今日は特別ってことで」
「ありがとうございます」
「それじゃ、実際の入場方法を説明するね」
辻元さんはダンジョン入口前のゲートを指差した。
「あの門で探索者カードをタッチするとゲートが開く。帰る時も反対側でタッチして出る仕組みだ」
「出た後は管理棟の買取カウンターへ行けばいいんですね」
「そう。売る物をトレーへ載せて、探索者カードと一緒に提出する。査定が終わったら明細とカードを返却するから、それで手続き終了」
俺はふと気になったことを尋ねた。
「いなりたちも探索者カードを作るんですか?」
辻元さんは少し考える。
「いなりちゃんたちだけで入ることはあるのかな?」
「分かりません。でも、いなりたちは一人ひとり意思があります。必要なら自分たちだけで行動することもあると思います」
「それなら作っておいた方がいいね。ただ銀行口座は難しいだろうから、買取代金は透君の口座へまとめて振り込む運用になるかな」
「それで問題ありません」
「じゃあ、試しにゲートを通ってみよう。今日は仮カードを使ってね」
全員がカードを一枚ずつ受け取り、ゲートへ向かう。
近付くと、駅の自動改札によく似た機械が設置されていた。
「これ……改札ですね」
辻元さんが笑う。
「説明しなくても使い方が分かる形が一番だからね」
カードをタッチすると、電子音とともに門が開く。
「ダンジョンブレイクが起きた時はどうするんですか?」
「夜間は内側の防護扉を閉める。毎月一日は監視カメラで安全を確認してから開場する手順になっているよ」
全員で中へ入る。
その先には巨大な鋼鉄製の門が設置されていた。
思わず見上げる。
「これ、毎日開け閉めするの大変そうですね」
辻元さんが笑った。
「さすがに人力じゃないよ。電動だから安心して」
さらに奥では警察隊がダンジョン入口前へ整列していた。
しばらくすると入口全体が白く輝き始める。
光が消えると、一人目の警察官が中へ入る。
すると再び入口が白く光り、今度は後続の警察官たちが次々と吸い込まれるように入っていった。
「あれ……ダンジョンの入口って光るんですね」
辻元さんが少し驚いたように俺を見る。
「透君、見たことなかった?」
「ありません」
その横でいなりが答えた。
「あるじが入る時は、いつも光っていたですよ」
「そうだったのか」
辻元さんは入口を見ながら説明を始めた。
「この尾張ダンジョンは『インスタンス型』なんだ」
「インスタンス型?」
「今、日本で確認されているダンジョンには二種類ある。
一つはオープン型。同じダンジョンをみんなで共有するタイプ。
もう一つがインスタンス型。入場した人ごとに別々のダンジョンが生成されるタイプだ」
「じゃあ、一人でしか探索できないんですか?」
「そこを解決するために、入口が光っている間だけは同じダンジョンへ入れるようになっている。パーティはそのタイミングでまとめて入る仕組みなんだ」
なるほど。
だから入口までの通路が遊園地のアトラクションみたいに仕切られていたのか。
「係員がパーティごとに案内しているのも、そのためなんですね」
「その通り」
辻元さんは笑って頷いた。
「今日はこのまま入っていく?」
俺は首を横に振る。
「今日は式が終わったら帰るって母さんと約束してるので」
「了解。それじゃ今日はここまでだね」
俺たちはゲートを出て、管理棟へ戻った。




