第68話
「それでは、尾張ダンジョン開所式を執り行います。
まず、国旗掲揚を行います。皆様、国旗へご注目ください」
管理事務所の横には新しく国旗掲揚台が設置されていた。
二人の警察官がゆっくりと日の丸を掲げる。
俺たちは国旗へ向き直る。
警察官たちは一斉に敬礼を行い、静かな空気がその場を包んだ。
国旗掲揚が終わると、司会が続ける。
「続きまして、安全祈願を執り行います。
祭主は尾張一之宮真清田神社、橘宮司です」
橘宮司がゆっくりと前へ進み出る。
その後ろには、いなり、烈、静の三人が続いた。
烈と静は橘宮司の少し後方、左右に分かれて立つ。
いなりだけが橘宮司の隣へ進み出ると、橘宮司は小さくうなずきながら何事かを告げた。
いなりも真剣な表情で深くうなずく。
そして一歩、また一歩と前へ出た。
手に持った神楽鈴を胸の前へ掲げる。
――シャン。
澄み切った鈴の音が会場へ響いた。
静寂の中、いなりはゆっくりと神楽舞を舞い始める。
最初は風に揺れる木の葉のように静かな舞。
しかし、一つ一つの所作はどこまでも美しく、見る者の視線を自然と引き寄せていた。
鈴を振るたびに、小さな狐火がふわりと舞い上がる。
青白い炎は宙を漂い、鈴の音に合わせるようにゆっくりと回り始めた。
幻想的な光景に、その場にいた誰もが息を呑む。
いつも家で見せる幼い笑顔のいなりとはまるで別人だった。
そこにいるのは、間違いなく神に仕える神使。
神々しいまでの神聖さに、自然と背筋が伸びる。
やがて舞は終盤を迎える。
鈴の音が少しずつ静まり、舞もゆるやかに収束していく。
最後の一振り。
澄んだ音色が辺りへ響くと、舞っていた狐火は雪が溶けるように静かに消えていった。
いなりは静かに橘宮司のもとへ戻り、一礼する。
橘宮司は前へ進み出ると、祝詞を奏上し始めた。
厳かな祝詞が会場へ響き渡る。
誰一人として言葉を発する者はいない。
祝詞が終わると、橘宮司といなりたちは元の位置へ戻った。
司会が再びマイクを取る。
「続きまして、知多市副市長、高橋よりご挨拶申し上げます」
神楽舞の余韻が残る中での挨拶は、さすがにやりづらそうだな。
そんなことを思いながら話を聞く。
高橋副市長は、尾張ダンジョンを知多市の新たな地域資源として育てていくこと、八月一日の一般公開に向けて今回は必要最低限の施設整備としたこと、そして今後は周辺施設を順次整備し、市の新たなシンボルとなる場所を目指していくことを力強く語った。
続いて登壇した黒崎さんは、魔石が将来のエネルギー政策に大きな影響を与える可能性に触れた。
さらに、ダンジョンはまだ未知の部分が多く、国としても重要な研究対象であること、この尾張ダンジョンについても継続的に支援していく方針であることを説明した。
最後に壇上へ上がった藤堂さんが、実務的な説明を行う。
魔石や素材の買い取り方法。
探索者カードの作成手続き。
ダンジョンへの入場方法。
一般公開日である八月一日からの運営体制などが順に説明され、最後にこう締めくくられた。
「以上をもちまして、尾張ダンジョン開所式を終了いたします」
拍手が会場に響き渡り、尾張ダンジョンは正式に運用を開始した。




