第66話
7月20日――裏山ダンジョンの開所式の日だ。
この一週間は開所準備のため立ち入り禁止になっていた。ようやく今日から、またダンジョンへ入れる。
開所式は午前九時からだから、朝食を食べてからゆっくり準備しても十分間に合う。
目を開けて部屋を見渡すと、いつものようにいなりが布団の横で待っていた。
「あるじ、起きましたね。おはようございます」
「おはよう、いなり。相変わらず早いな」
「またダンジョンに入れると思うと、朝が待ちきれなかったです。それに、烈と静の訓練の成果もやっと確かめられるですよ」
期待に満ちた笑顔を向けられると、こちらまで楽しみになってくる。
「そうだな。今日からまた四人で頑張っていこう」
「はい!」
元気よく返事をするいなりに笑みを返す。
「じゃあ着替えるから、外で待っててくれ」
「はい。烈と静も起こしてきます」
「よろしくな」
いなりが部屋を出ていくのを見送ってから着替えを済ませ、居間へ向かう。
親父と母さんはすでに席についていて、俺たちを待っていた。
「おはよう」
「おはよう、透」
挨拶を交わして席に着くと、いなりたちも居間へ入ってきた。
「おはようございます」
「「「おはようございます」」」
母さんがにっこり笑う。
「さあ、みんな席について。いただきましょう」
「「「「いただきます!」」」」
◇
朝食を食べながら、親父が口を開いた。
「今日はダンジョンの開所式だな」
「ああ。九時開始だから、少し早めに出たほうがいいね」
「キャンプ場の駐車場はダンジョン利用者用に貸し出したからな。今日は歩いて行くぞ。三十分くらい見て、八時には出よう」
「わかった。開所式は俺と親父だけでいいよな」
親父はうなずいた。
「まだ一般公開前だ。いなりちゃんたちまで目立たせる必要はない。それでいこう」
「じゃあ、私たちは特訓の続きをやるですよ」
「了解だ」
「わかりました」
「それじゃあ、出発まではゆっくりしているか」
そう話したところで、玄関のチャイムが鳴った。
母さんが玄関へ向かい、しばらくすると声が聞こえてくる。
「お父さん、市役所の藤堂さんと神社庁の柳さんがお見えよ」
親父と一緒に玄関へ向かう。
「おはようございます。今日の開所式について、何かありましたか?」
柳さんは一礼してから口を開いた。
「実はお願いがございまして。本日の式典には、いなり様、烈様、静様にもご出席いただけませんでしょうか」
「いなりたちは留守番の予定でしたが、出席させたほうがよろしいのでしょうか?」
「はい。神託により、お三方にもご参列いただきたいとのお言葉を賜りました。
式典の初めにお祓いの神事を執り行いますので、その際、橘宮司の後ろに控えていただきたいのです。つきましては、お三方には正装でお願いいたします」
親父は振り返り、いなりたちに声をかけた。
「いなりちゃん、烈くん、静くん。神事を手伝ってほしいそうだ。それぞれ正装に着替えてきてくれ」
「父様、わかったです」
「父上、了解だ」
「父上、承知しました」
「準備ができましたら、市の車で会場までお送りします」
「ありがとうございます」
柳さんたちを応接間へ案内し、しばらく待っていると、いなりたちが着替えを終えて戻ってきた。
「あるじ、準備できたです」
巫女装束に身を包んだいなりは、いつも以上に凛として見えた。烈と静も神使らしい正装に身を包み、普段とは違う引き締まった雰囲気をまとっている。
「お、今日は一段とかわいいな」
「ほんと? えへへ、うれしいな」
その一言だけで、いなりの尻尾がぶんぶんと揺れ始める。
母さんが得意げに胸を張った。
「ちゃんとお着替えを手伝って、髪も耳も尻尾も丁寧にブラッシングしたもの。かわいさ倍増でしょう?」
「間違いないな。母さん、グッジョブ」
「ふふっ、ありがとう」
いなりも照れくさそうに笑っている。
時計を見ると、予定より少し早い。
「じゃあ、少し早いけど行くか」
「「「「はい!」」」」
俺たちは市役所の車に乗り込み、裏山ダンジョンの開所式会場へ向かった。




