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第63話

 翌日。

 家具や荷物の受け取りがあるため、俺たちは自宅で待機することになった。

 せっかく家族として迎えることになったんだ。

 いなりと烈と静には、できるだけ快適に暮らしてもらいたい。

 午前中。

 烈と静は裏庭で鍛錬をしていた。

 烈は大太刀を振り、静は刀と小太刀を使って型を確かめている。

 どちらも動きは綺麗だ。

 神社で鍛えられてきたのだろう。

 けれど、それを見ていたいなりが、途中で声をかけた。

「烈、静」

 二人が動きを止める。

「なんで、魔力循環をしていないのですか?」

「魔力循環?」

 烈が首を傾げた。

「いなり姉。魔力循環って何だ?」

「鍛錬するなら、魔力循環をしながらやるべきです」

 いなりは、ちょっとだけ胸を張った。

「身体の中と表面に魔力を回して、身体と武器を強くするのです」

「そんなことができるのか?」

 烈が驚いたように言う。

 静も、自分の手のひらを見つめた。

「魔力を使うこと自体はできますが……身体へ巡らせる、というのは考えたことがありませんでした」

「あるじ」

 いなりが、俺を見上げる。

「烈と静に、お手本を見せてほしいのです」

「いいぞ」

 俺は手に持っていた六尺棒を構えた。

 腹の奥にある魔力を意識する。

 それを心臓へ。

 血が巡るように、全身へ。

 腕を通り、手のひらから六尺棒へ。

 棒の先まで、魔力を静かに流していく。

 前よりは、だいぶ慣れてきた。

 魔力を巡らせながら動くことも、少しずつできるようになっている。

「その状態で、棒を横に構えてほしいのです」

「こうか?」

 俺は六尺棒を身体の前で横に構えた。

「はい。それで、キープです」

 いなりは烈と静へ向き直る。

「烈、静。あるじの棒をよく見るです」

「ん?」

 烈が、目を細める。

「透様の棒? 何か違うのか?」

「はい。私にも、見た目の違いは分かりません」

 静も、首を傾げた。

「では、烈。その大太刀を、あるじの棒へ振り下ろしてください」

「え?」

 烈が目を丸くした。

「透様に斬りかかるのか? というか、その棒、折れちゃうだろ」

「大丈夫です」

 いなりは、俺を見る。

「あるじ。ちゃんと魔力を循環させておいてくださいね」

「了解」

 俺は棒を握り直した。

 魔力の流れが途切れないように、意識を集中させる。

「じゃあ、いきます」

 烈が、大太刀を大きく振りかぶる。

「――せいっ!」

 振り下ろされた大太刀が、六尺棒の中央へ叩きつけられた。

 鈍い衝撃音。

 腕へ強い衝撃が走る。

 けれど。

 六尺棒は、折れなかった。

 むしろ、大太刀の方が弾かれたように上へ跳ねる。

「えっ?」

 烈が驚いた顔で、自分の大太刀と俺の棒を交互に見た。

「木の棒だよな?」

「木の棒だな」

 俺も、少し驚いている。

 ただ、腕には衝撃が残っていた。

 魔力を巡らせていたから耐えられた。

 けれど、受けた瞬間、棒へ流していた魔力が少し乱れた気がする。

「まずは、烈と静が魔力循環を覚えるところから始めましょう」

 いなりは、先生みたいな口調で言った。

「あるじは……烈の太刀を受けた時に、少し魔力が漏れていました」

「分かった。俺も循環の精度を上げる」

「はいです」

 俺は庭の隅へ移動し、あぐらを組んで座った。

 目を閉じる。

 腹の奥。

 心臓。

 全身。

 そして、腕から棒へ。

 魔力を巡らせ続ける。

 慣れれば、呼吸と同じように意識せず使える技術になるらしい。

 でも、より速く。

 より多く。

 乱さずに回し続けるには、まだまだコツがいる。

 俺はそれを意識しながら、繰り返し魔力を巡らせた。

 一方で。

「まずは、自分の中の魔力を感じるです」

「うーん……分かるような、分からないような」

「烈は力みすぎです」

「静は、頭で考えすぎです」

「……難しいですね」

 いなりによる、烈と静の特訓が始まっていた。

 俺が学校へ行っている間も、三人なら退屈せずに過ごせそうだな。

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