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第52話

 そして翌日。

 午前中に来ると言われていたので、俺はいなりと裏庭で鍛錬をしていた。

 魔力を循環させながら、六尺棒を振る。

 いなりは小さな人型の姿で、俺の身体と棒の先まで魔力が通っているかを見てくれていた。

「あるじ、今のは少しだけ右手から漏れています」

「分かった。もう一回」

 そうして何度か繰り返していると、玄関のチャイムが鳴った。

「来たみたいだな」

「はい」

 俺たちは家へ戻る。

 玄関へ出ると、市役所防災安全課の藤堂さんと辻元さんが立っていた。

「おはようございます」

「おはよう、小森くん。お父さんはご在宅かな?」

「今、呼びます」

 親父を呼び、俺と親父は藤堂さんたちの車へ乗り込んだ。

 東部公民館は、歩いても帰れるくらいの距離だ。

 ほどなくして、公民館へ着いた。

 会議室へ入ると、すでに警察の伊藤さんと有村さんがいた。

 さらに、その向かい側には見知らぬ男女が二人座っている。

 全員が席に着くと、藤堂さんが口を開いた。

「では、始めましょう。まず、こちらのお二人をご紹介します」

 藤堂さんが、見知らぬ二人へ視線を向ける。

「内閣官房ダンジョン対策室から来られた、中川さんと橋本さんです」

「中川です」

「橋本です。本日はよろしくお願いします」

 二人はそろって頭を下げた。

 俺と親父も、軽く頭を下げ返す。

 最初の話題は、やはり新宿で起きたダンジョンブレイクだった。

 未発見の火属性ダンジョン。

 火をまとった魔物。

 都市部で発生した火災と、多くの死傷者。

 あの被害を重く見た政府は、発見済みダンジョンの周辺に防護柵を設ける方針を決めたらしい。

 ダンジョンブレイクを完全に防げるわけではない。

 それでも、魔物がすぐ道路や民家へ出ることを防ぎ、近隣住民が避難する時間を作れる。

 そういう意図だった。

「今回お願いしたいのは、小森さんの土地の一部を、ダンジョン管理のために使用させていただくことです」

 中川さんが、資料を親父の前へ置いた。

「防護柵、監視カメラ、そして入場管理用の小屋を設置したいと考えています」

「柵の設置は分かった」

 親父は資料をめくりながら、静かに尋ねる。

「ダンジョンへの入場については、どうするんですか? 今までどおり、俺たちが入ることは可能なんでしょうか」

「そこについても、ご相談があります」

 中川さんはうなずいた。

「小森さんは、現時点ではダンジョンを一般公開しない方針だと伺っています。その考えに変わりはありませんか?」

「特に国の方針がないのであれば、継続したいと思っていました」

 親父は少し考えてから続けた。

「ただ、キャンプ場として機能しなくなるなら、公開にこだわるつもりもありません」

「ありがとうございます」

 中川さんは資料を一枚取り出した。

「政府としては、神託で示された事情もあります。できる限り多くの人が、安全にダンジョンへ入れる環境を整えたいと考えています」

 神託。

 十年後の邪神。

 そのための職業と、ダンジョン。

 国がダンジョンを管理しようとする理由は、分からなくはなかった。

「そこで、柵と監視小屋の管理を、市を中心とした対策部門へ委託していただけないでしょうか」

「入場管理も、市が行うということですか?」

「はい」

 橋本さんが説明を引き継ぐ。

「現時点では、入場料などの正式な金額は最終決定していません。ただ、監視小屋の維持費や警備費用を考え、入場料を徴収する仕組みを検討しています」

「入場料を取るだけでは、入りたい人は増えないでしょう」

 親父の言葉に、橋本さんはすぐうなずいた。

「その通りです。そこで、ダンジョン内で得た物の買い取り窓口も、監視小屋の隣に設ける案を検討しています」

「買い取り?」

「はい。魔石などを、市が受け付け、国の基準に従って買い取る形です」

 藤堂さんが補足する。

「土地を使わせていただく対価として、入場料収入の五パーセントと、買い取り額の総額に対する五パーセントを、市から小森さんへお支払いする案です」

「土地が利益を生むのは、正直ありがたい話です」

 親父はそう言った。

 だが、すぐに表情を引き締める。

「ただ、ダンジョンブレイクが起きた場合の責任は、どうなりますか?」

「管理を市と国の対策部門が担う形になります」

 中川さんは、はっきり答えた。

「ダンジョンブレイクが発生し、近隣へ被害が出たとしても、小森さん個人に責任が及ばないよう、契約上も明確にします」

 親父は、少しだけ息を吐いた。

「それなら、柵や小屋の設置自体に反対はありません」

「ありがとうございます」

「買い取り価格は、どのくらいを想定していますか?」

 親父が聞くと、橋本さんは手元の資料へ目を落とした。

「現時点では、土偶のような魔物から得られる小型魔石を、一個二千円で買い取る案が有力です」

「魔石の大きさや、魔物の危険度によっては?」

「将来的には等級を分ける予定です。ただ、今はデータが少なすぎるため、まずは暫定的な基準になります」

「入場料は?」

「一回一千円を想定しています」

 一体の土偶を倒して、魔石を一個得られれば二千円。

 そこから入場料を払っても、千円は残る。

 もちろん、怪我をせず、魔石を得られればの話だけど。

「すみません。質問してもいいですか?」

 俺が手を上げると、藤堂さんがこちらを見た。

「透くん。何かね?」

「この間、第二層で巨大なダンゴムシみたいな魔物を倒した時、魔石じゃなくて宝石みたいな石が出たんです。あれも、買い取ってもらえるんですか?」

「透くん。あれを一人で倒したのか?」

 驚いた声を上げたのは、藤堂さんではなく伊藤さんだった。

 伊藤さんは、第二層で巨大なダンゴムシみたいな魔物と実際に対峙している。

 硬い甲羅。

 丸まっての突進。

 拳銃や警棒だけでは、簡単に倒せない相手。

 その強さを知っているからこそ、俺が一人で倒したと聞いて驚いたのだろう。

「はい。かなり大変でしたけど、何とか倒せました」

「……そうか」

 伊藤さんは、一度だけゆっくりとうなずいた。

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