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第49話

 夕食の後。

 居間のテレビでは、まだ新宿のニュースが流れていた。

 画面の右上には、赤い文字で速報が出ている。

『新宿・歌舞伎町 ダンジョン由来と見られる火属性魔物が出現』

 映し出されているのは、見覚えのある新宿の街だった。

 ただし、普段の新宿とはまるで違う。

 歌舞伎町の雑居ビルのあたりから黒煙が上がり、赤い炎が建物の壁を照らしている。

 道路には消防車と警察車両が並び、防護服姿の人たちが避難する人の流れを誘導していた。

『現在、警視庁と自衛隊が連携し、周辺住民の避難を進めています。現場には消防も入り、延焼防止のための放水が続けられています』

 ヘリからの映像に切り替わる。

 煙の向こう。

 道路を走る巨大な影が見えた。

 全身が赤黒い鱗に覆われた、四足歩行のトカゲ。

 普通のトカゲなら、せいぜい腕に乗るくらいの大きさだろう。

 だが、画面の中のそれは乗用車より大きかった。

 口を開くたび、炎が噴き出す。

「……火トカゲ」

 俺は思わずつぶやいた。

 昼に見た、炎をまとった土偶のような魔物よりも、明らかに大きい。

 あれが街中で暴れたら。

 そりゃあ、火事にもなる。

『魔物は歌舞伎町側から、新宿大ガード東交差点付近へ移動しています。警察と自衛隊は、周辺の建物が密集する区域から魔物を引き離すため、青梅街道方向へ誘導しているものと見られます』

 テレビ画面の下に、現場周辺の地図が表示された。

 歌舞伎町。

 新宿大ガード。

 そして、その向こうへ続く青梅街道。

 映像が地上カメラに切り替わる。

 大ガード東の手前では、装甲車と機動隊の盾列が道路を塞いでいた。

 後方では、何台もの消防車が放水を続けている。

 火トカゲが炎を吐くたび、映像が白く揺れた。

『危険ですので、現場周辺には絶対に近づかないでください。現在、広範囲で交通規制が行われています』

 次の瞬間、画面の端を自衛隊の戦車が横切った。

「戦車まで出てるのか」

 思わず、背筋が伸びる。

 映像は少し離れた場所から撮られているらしく、戦車は三両ほど、車体を斜めにして道路を塞ぐように並んでいた。

 砲身は歌舞伎町側ではなく、新宿大ガードを抜けた先へ向いている。

『自衛隊は、火属性魔物を青梅街道側へ誘導したうえで、周辺の安全を確保しながら対処する方針とみられます』

 その時、テレビの音声が一瞬、爆発音にかき消された。

 映像が大きく揺れる。

 火トカゲが高架下を抜け、青梅街道側へ飛び出したのだ。

 道路の両側には、すでに人影がなかった。

 上空では、ヘリが低く旋回している。

『魔物が青梅街道側へ移動しました! 自衛隊が攻撃態勢に入ったものと見られます!』

 火トカゲが炎を吐いた。

 その炎が、道路の中央を赤く染める。

 だが、戦車は動かなかった。

 しばらくして、砲塔がゆっくりと動く。

 画面の向こうで、砲身が火トカゲの胴体へ向けられた。

「……魔石を狙ってるのか」

 火トカゲの胸元。

 鱗の隙間から、赤い光が脈打っているのが見えた。

 俺が見た魔物と同じなら、あれが核だ。

『発砲――!』

 アナウンサーの声とほぼ同時に、画面が白く染まった。

 数秒遅れて、腹に響くような轟音が居間まで届く。

 テレビの映像には、煙と炎しか映っていなかった。

 母さんが、隣で息をのむ。

「透……あんなの、本当にダンジョンから出てくるの?」

「たぶん、そうだと思う」

 煙が少しずつ流れていく。

 道路の中央には、崩れ落ちた火トカゲの姿があった。

 胴体のあたりから、赤い光が消えていく。

『……魔物の活動停止を確認した模様です。繰り返します。自衛隊による攻撃で、魔物の活動停止が確認された模様です』

 居間に、短い沈黙が落ちた。

 新宿で起きた出来事なのに。

 テレビ越しに見ているだけなのに。

 それでも俺は、あの火トカゲが倒れる瞬間を見て、妙に現実味のない寒気を覚えていた。

 ダンジョンは、もう山の中だけの話じゃない。

 そう思わされた。

 都市部で火をまとった魔物があふれ出た被害は、あまりにも大きかった。

 ビル三棟が火災に巻き込まれた。

 死者、行方不明者は百名を超えると報じられた。

 消火後の調査で、火元となった雑居ビルのエレベーター下の空間に、未発見のダンジョンが存在していたことが判明した。

 そこは、火属性のダンジョンだった。

 もし、そこが事前に見つかっていれば。

 もし、誰かが一体でも魔物を倒していれば。

 その被害は、避けられたのかもしれない。

 けれど、現実は違った。

 未発見のダンジョンは、誰にも気づかれないまま一か月を迎え、そしてあふれた。

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