第48話
ダンジョンの外へ出ると、すでに藤堂さんたちは撤収した後だった。
入口周辺は静かで、さっきまで市役所や警察の人たちがいたのが嘘みたいだった。
「……戻るの、少し遅かったか」
俺はキャンプ場へ戻った。
いなりは小さな狐姿になり、俺の肩に乗っている。
周囲に人はいないが、一応、隠形は続けてもらっていた。
歩きながら、俺はさっきの戦闘を思い返す。
第二層。
巨大なダンゴムシみたいな魔物。
硬い甲羅。
丸まっての突進。
そして、俺といなりのレベルアップ。
「いなり、さっきレベル上がったよな?」
「はい。狐巫女のレベルが上がりました。久しぶりです」
「何か変わった感じはある?」
俺が尋ねると、いなりは肩の上で少し胸を張った気配がした。
「力も、速さも、それに狐火の威力も、少し上がったと思います」
「やっぱり分かるのか」
「わたしは、いつも魔力を身体に纏っています。だから、レベルが上がって魔力が増えると、身体の動きも良くなります」
俺は自分の手を見る。
俺も、さっきレベルアップした。
僧侶のレベルが、久しぶりに上がった。
これで、僧侶Lv10へ少し近づいた。
第一層だけでは、もう足りない。
そのことだけは、はっきり分かった。
◇
プロテクターを外し、家へ帰る。
玄関に入ると、小さな狐姿のいなりが床へ降り、人型の姿に戻った。
「母様、ただいまです」
「いなりちゃん、おかえり」
母さんはすぐにいなりを抱きしめた。
いなりも驚いた様子はなく、母さんの腕の中でおとなしくしている。
むしろ、まんざらでもなさそうだ。
その光景に少し安心して、俺も靴を脱いだ。
「母さん、ただいま」
「透もおかえりなさい。無事だったのね」
「ああ。第一層は、前とほとんど変わってなかったよ」
「それなら、少し安心ね」
「ただ、二層にも入ってみた」
母さんの表情が、すぐに真剣になる。
「第二層?」
「警察の人たちが先に確認しているって聞いたから、入口の近くだけ。新しい魔物がいたけど、たぶん警察も把握していると思う」
「透」
母さんの声が低くなった。
俺はすぐに両手を上げた。
「倒したけど、無茶はしてない。危ないと思ったら戻るって約束は守った」
「いなりちゃん。透は無茶をしなかった?」
「はい。あるじは、ちゃんとわたしの話を聞いてくれました」
「……なら、今回はよくできました」
母さんはそう言ってから、俺の頭へ手を伸ばした。
軽く、髪を撫でる。
「でも、無事でよかった」
「うん」
七月一日。
世界中でダンジョンの危険が明らかになった日。
俺たちの裏山のダンジョンも、静かに次の顔を見せていた。




