第44話
午前九時。
日本にも、その時が来た。
テレビでは、日本各地の監視映像が流れていた。
公開されているダンジョンの周辺には、警察や自治体職員が配置されている。
場所によっては自衛隊も待機していた。
その外側には、マスコミ関係者らしい人たちが集まっている。
現時点で国内に発見されていたダンジョンは、七十か所。
そのすべてについて、監視体制が敷かれていた。
午前九時。
画面上の時計が切り替わる。
日本各地の監視カメラは、平穏な日常を映していた。
少なくとも、発見済みのダンジョンに異常はない。
各地から次々と報告が入る。
『北海道第二区域、異常なし』
『福岡県東部、異常なし』
『愛知県西部、異常なし』
スタジオに、少しだけ安堵した空気が流れた。
親父も、テレビの前で腕を組んだまま息を吐く。
「発見済みのところは、大丈夫そうだな」
「うん」
俺はうなずいた。
俺たちの裏山のダンジョンも、前日までにきちんと報告されている。
今月の撃破確認も済んでいる。
だから、少なくともあそこからあふれることはないはずだ。
そう思った。
けれど。
午前九時四十分。
再び、速報が流れた。
『東京・新宿区の雑居ビルで火災発生』
最初は、ただの火災報道に見えた。
新宿区にある雑居ビルで火災が発生。
逃げ遅れた人が多数いる可能性。
消防が出動中。
そんな内容だった。
だが、ネットはすぐに別の情報で埋まり始める。
『火事現場に変なのがいる』
『モンスターじゃないか?』
『炎まとった魔物が暴れてる』
『あそこにダンジョンあったのかよ』
『未発見ダンジョンブレイク?』
テレビの映像が、現場へ切り替わった。
ヘリからの映像だった。
煙を上げる雑居ビル。
赤く燃える窓。
周囲に集まる消防車。
そして――。
「……いる」
俺は思わずつぶやいた。
炎をまとった土偶のような魔物が、ビルの出入口付近で暴れていた。
大きさは、俺が知っている土偶とそれほど変わらない。
けれど、全身に炎をまとっている。
動くたびに火の粉が散り、近くの看板や外壁に燃え移っていく。
裏山で見た土偶とは違う。
あれが、火属性の魔物。
映像の中で、消防士たちが必死に放水している。
魔物に水がかかるたび、白い蒸気が上がった。
だが、ただの火災とは違う。
魔物が動く。
逃げる。
暴れる。
それだけで、火の手が広がっていく。
画面が切り替わる直前、炎をまとった土偶のような魔物が、建物の陰へ消えていった。
火災は、すぐには収まらなかった。




