第43話
七月一日。
その日、日本中の学校は臨時休校となった。
理由は、ダンジョンブレイクによる登校中および校内での被害を防ぐため。
文部科学省からの通知を受け、全国の小中学校、高校、大学の多くが休校、あるいはオンライン対応へ切り替えた。
俺の通う西海南高校も例外ではない。
朝から家にいるというのに、休日のような気分にはまったくならなかった。
テレビでは、朝からずっと特別番組が流れている。
世界各地のダンジョン監視情報。
政府のダンジョン対策室による会見。
専門家たちの解説。
そして、各国の現在時刻。
最初に七月一日午前九時を迎えるのは、キリバス共和国だった。
日本時間では、七月一日の午前四時。
世界中が固唾をのんで見守る中、その時間は訪れた。
だが――何も起きなかった。
少なくとも、すぐに大きな被害情報は入ってこなかった。
ニュース番組の出演者たちは、少しだけ困惑した顔で「現地からの情報を待ちましょう」と繰り返していた。
ネットもざわつく。
『何も起きてなくね?』
『やっぱり脅しだった?』
『いや、キリバスにダンジョンがなかっただけでは?』
『時間基準が違う可能性もある』
『日本時間九時が本番説』
楽観と不安が入り混じった空気が、画面越しにも伝わってくる。
俺も、テレビの前でじっと座っていた。
隣には、いなりがいる。
いなりは小さな狐姿で、俺の膝の上に丸くなっていた。
俺はその背中を優しく撫でている。
けれど、無意識に指先へ力が入っていた。
いなりも、テレビの音を聞き逃さないようにしているのか、耳だけはぴんと立てている。
ダンジョンブレイクを警戒しているようだった。
最初の国で何も起きなかったからといって、安心できるはずがない。
神託はこれまで、すべて現実になっている。
職業も。
スキルも。
ダンジョンも。
魔物も。
なら、ダンジョンブレイクだけが嘘だとは思えなかった。
そして、日本時間の午前七時。
その不安は現実になった。
『ニュージーランドでダンジョンブレイク発生』
速報のテロップが流れた。
スタジオの空気が一気に変わる。
現地からの映像は、ひどく荒れていた。
市街地ではなかったらしい。
けれど、住宅地に近い場所で未発見のダンジョンがあふれ、複数の魔物が出現したという。
死者。
怪我人。
行方不明者。
まだ正確な数は分からない。
けれど、被害が出たことだけは間違いなかった。
その後、世界各地から次々と情報が入り始めた。
山中で土属性の魔物があふれた国。
海沿いで水属性の魔物が出現した地域。
都市部の地下施設から、風属性の魔物が飛び出したという報道。
火災を伴うダンジョンブレイクも確認された。
神託は、本当だった。
そして世界は、それを目の当たりにした。




