第4話
「……倒した?」
しばらく、その場から動けなかった。
土偶が起き上がってこないことを確認してから、ようやく息を吐く。
「はぁ……はぁ……」
たった一体。
たった一体の、五十センチくらいの土偶みたいな魔物。
それを倒すのに、石を四回。
鉈を何度も振るった。
腕は震えているし、息も苦しい。
「全然、楽勝じゃない……」
その時。
頭の中に、声が響いた。
『斥候の心得を取得しました』
『戦士の心得を取得しました』
「うおっ!?」
反射的に、周囲を見回す。
誰もいない。
声は外から聞こえたのではなく、頭の内側に直接響いた感じだった。
続けて、また声が響く。
『レベルが上がりました』
『斥候に転職可能になりました』
『戦士に転職可能になりました』
「レベル……? 斥候? 戦士?」
情報量が多い。
いや、待て。
今、何が起きた?
石を投げた。
鉈で土偶みたいな魔物を倒した。
そしたら、レベルが上がって、職業らしいものが増えた。
「……もしかして、敵を倒したら成長するってやつか?」
ゲームやラノベでは定番だ。
定番だけど。
自分の身に起きると、普通に怖い。
俺は息を整えながら、頭の中で唱えた。
「ステータス」
すると、見慣れた半透明の画面が目の前に浮かび上がる。
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小森透
個人Lv:2
現在の職業:無職 Lv2
取得済み職業
・無職 Lv2
取得済みの心得
・斥候の心得
・戦士の心得
職業スキル
・なし
転職可能
・斥候
・戦士
転職しますか?
【Yes/No】
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「……本当に上がってる」
個人Lvも、無職のLvも二になっていた。
けれど、身体が急に軽くなったとか、力が湧いてくるとか、そういう感覚はない。
腕はまだ痛い。
息も苦しい。
土偶の攻撃を避けた時の怖さも、消えていない。
「レベルが上がっただけじゃ、すぐ強くなるわけじゃないのか?」
答えてくれる人はいない。
転職という言葉には、かなり惹かれる。
でも、仕組みが分からない状態でいきなり変えるのは怖い。
俺はしばらく迷ってから、【No】を選んだ。
ダンジョンの魔物を倒せば、レベルが上がる。
職業も増える。
つまり――強くなれる。
「……Lvが上がれば、次は楽に倒せるのかな」
その時の俺は、そう思ってしまった。
この先には何があるのか。
他にも魔物はいるのか。
倒せば、もっとレベルが上がるのか。
「……もう少しだけなら」
俺は鉈を握り直し、慎重に一歩踏み出した。
今思えば、完全に調子に乗っていた。
ダンジョンは、そんなに甘い場所じゃない。
それを思い知るのは、もう少しだけ先の話だった。




