第38話
それから数日、俺は魔力循環の訓練に費やした。
座っている状態なら、うまく回る。
腹の奥から心臓へ。
心臓から全身へ。
そして、また腹の奥へ戻す。
そこまでは、だいぶ感覚が掴めてきた。
けれど、立ち上がって歩こうとすると――。
「あるじ、漏れています」
「難しいな」
すぐに、いなりから指摘が入る。
俺はまた床にあぐらをかき、座った状態で循環を整えるところからやり直した。
立つ。
漏れる。
座る。
整える。
歩く。
漏れる。
また座る。
その繰り返しだ。
地味。
かなり地味。
でも、こういう地味な練習を飛ばすと、また魔力切れで倒れる気がする。
それだけは避けたい。
◇
一週間ほど続けると、少しずつ魔力が漏れる頻度が減ってきた。
最初は立ち上がるだけで乱れていたのに、今では部屋の中を歩いても大丈夫になった。
居間を歩く。
廊下を歩く。
階段をゆっくり上り下りする。
いなりに確認してもらいながら、少しずつ動作を増やしていく。
そして庭に出て、軽くジャンプした。
着地。
身体の中を巡る魔力は、乱れていない。
「大丈夫です」
いなりがうなずいた。
「やっと、日常動作なら問題ないところまで来たな」
「はい。あるじ、次は武器を持って、武器にも魔力を通してみましょう」
「そうだな。六尺棒を持ってきて、庭でやるか」
「はい」
俺は右手を見た。
全身を巡る魔力。
その流れの一部を、指先へ集めるイメージをしてみる。
すると、右手の人差し指の先に、ほんの少しだけ何かが集まる感覚があった。
「いなり。この全身に回ってる魔力の一部を、指先に集められそうなんだけど」
「はい。少し集まっています」
「これを指先から出して、何かにぶつけたら……」
「魔力弾、ですね」
「おお」
「でも、家でやると母様に怒られますよ」
「それは間違いないな」
壁に穴でも開いたら、しゃれにならない。
いや、穴が開くほどの威力があるかは分からない。
でも、試す場所が家ではないことだけは確かだ。
「今はやめておこう」
「はい。それがいいです」
俺は台所の方を見る。
「母さん」
「何?」
「庭に出て、棒を振ってみる」
母さんは、すぐにいなりへ視線を向けた。
「いなりちゃん。ちゃんと見ててね」
「はい、母様。わたしがちゃんと見ています」
「俺は信用ないの?」
「あなたより、いなりちゃんの方がしっかりしていますからね」
「実の息子が信用されていない件について……」
「あるじ、やりに行きましょう」
「はいはい」
庭に出て、六尺棒を構える。
魔力を循環させながら、棒も身体の一部だと思うように意識した。
腹の奥。
心臓。
肩。
腕。
手のひら。
そして、握った棒へ。
「あるじ、できていますよ。棒の先まで、ちゃんと魔力が回っています」
「じゃあ、これで振ってみるか」
六尺棒を振り下ろす。
ぶんっ、と空気を切る音がした。
魔力を回す前より、明らかに速い。
棒の重さも、少し軽く感じる。
「これが、レベルアップの恩恵か」
「はい。そうです」
いなりが嬉しそうに、尻尾を揺らした。
「身体を動かしやすくなって、武器にも力が伝わっています」
「なるほどな」
今までのレベルアップは、ただ数字が増えていただけじゃなかった。
使い方を知らなかっただけで、ちゃんと俺の中に力はあった。
「週末までは、この訓練を続ける」
俺は六尺棒を持ち直した。
「今度の週末は、キャンプ地の整備を終えたら、第一層で試してみよう」
「ちゃんと母様の許可を取らないとですね」
「そうだな。さっそく言ってみるか」
「はい。そうしましょう」




