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第37話

 俺は目を開けた。

 身体が熱い。

 いや、熱いというより、内側からじんわり温かい。

 腹の奥にあったものが、胸へ、腕へ、脚へと薄く広がっているような感覚がある。

 強引に外へ出している感じはない。

 身体の中を巡っている。

 そんな気がした。

「これ……できてるのか?」

「はい。できています。前みたいに外へ出ていません。身体の中と表面を、ちゃんと回っています」

「マジか」

「はい。マジです」

 俺はゆっくり立ち上がった。

 身体が軽い。

 戦士に転職した時の、武器がしっくりくる感覚とは少し違う。

 もっと単純に、身体そのものが動かしやすい。

 試しに、その場で軽くジャンプしてみた。

「おっ」

 思ったより高く跳んだ。

 軽く跳んだだけなのに、伸ばした手が天井に届きそうになる。

 慌てて着地する。

 床が少し鳴った。

「危なっ……」

「あるじ、家の中でやると母様に怒られますよ」

 いなりが笑いながら言ってくる。

 台所から母さんの声が飛んできた。

「透? 今、何か音がしたけど?」

「大丈夫! ちょっとジャンプしただけ!」

「家の中で跳ばない!」

「はい」

「ほら、やっぱり」

 即座に叱られた。

 まあ、当然だ。

 俺は咳払いして、もう一度自分の手を見る。

 全身を巡る魔力。

 その流れは、まだ確かに感じられる。

 ただ、五分ほど続けていると、じわじわと汗が出てきた。

 呼吸も少し乱れてくる。

 なんだか、目まで回りそうだ。

「あるじ、ストップです。止めてください」

「え、もう?」

「ストップです」

 いなりの声がいつになく真剣だったので、俺は慌てて循環を止めた。

 身体の表面を巡っていた温かさが、腹の奥へ沈んでいく。

 その瞬間、どっと汗が噴き出した。

「うわ……」

 俺はそのまま居間の床に寝転がった。

 全身がだるい。

 倒れるほどではないが、かなり疲れている。

「あるじ、途中から魔力が少し漏れて、ぴかぴか光っていました」

「どのあたりからだ?」

「ジャンプした後です」

「体を動かすと駄目か。もっと慣れないと無理だな」

 座っている時は、なんとか循環できる。

 でも、立ったり跳んだりすると、魔力の流れが乱れる。

 それで外へ漏れる。

 たぶん、そういうことだ。

 俺は起き上がり、もう一度あぐらをかこうとした。

「じゃあ、座って再開――」

「あるじ」

 いなりが、じとっと俺を見た。

「今日はもう駄目です」

「え?」

「また倒れますよ。母様にまた怒られます」

「……それは困る」

「監視役を任されたわたしも、とても困ります」

 俺は素直に両手を上げた。

「分かった。今日はここまで。明日は、動いても魔力が漏れないように練習しよう」

「はい。それならいいです」

 いなりはようやく、少しだけ安心したように笑った。

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