第36話
魔力切れで倒れてから、俺は少し反省した。
いや、少しどころではない。
母さんには怒られたし、いなりには泣きそうな顔で叱られた。
あれは、かなり効いた。
だから俺は、次の練習からやり方を変えることにした。
感覚だけで突っ走るのは危ない。
なら、何か参考になるものを探せばいい。
そう思って、異世界もののアニメや漫画をいくつか見直してみた。
魔力操作。
身体強化。
気を纏う。
オーラを循環させる。
似たような表現はいろいろあった。
その中に一つ、気になるものがあった。
血液に魔力を乗せるイメージで、全身に魔力を行き渡らせる。
……これだ。
腹の奥にある魔力の塊を、無理やり外へ噴き出すから失敗する。
なら、血液みたいに全身を巡らせればいい。
たぶん。
いや、たぶんだけど。
俺はさっそく、いなりに相談することにした。
「魔力を血液に乗せて、全身に巡らせるようなイメージだとどうかな?」
俺がそう言うと、目の前に座っていたいなりは、こてんと首をかしげた。
「あるじは、血液の流れをイメージできるのですか?」
「む」
いきなり正論だった。
血液の流れ。
心臓から出て、全身を回って、また戻ってくる。
知識としては知っている。
でも、実際に自分の血液がどこをどう流れているのか、細かくイメージできるかと言われると怪しい。
「じゃあ、お腹の魔力の塊を心臓に持っていって、心臓から全身へ循環してもらう感じだとどうかな?」
「やってみますか?」
「やる」
「母様は台所で夕ご飯を作っているので、居間だったらやってもいいかもしれません」
「なんか、小学生が宿題をやる感じになってきたな」
「うふふ。母様の目が届くところでやるのです」
「約束だし、仕方ないか」
俺はいなりと一緒に、居間へ降りた。
台所では、母さんが夕飯の準備をしている。
「母さん、ちょっと居間で魔力の練習をする」
そう言うと、母さんは包丁を置き、こちらを見た。
「危なくないの?」
「前みたいに全力で出す練習じゃない。循環させる練習。いなりにも見てもらう」
「いなりちゃん」
「はい。わたしが、ちゃんと見ています」
いなりが胸を張る。
母さんは少しだけ考えてから、うなずいた。
「分かったわ。でも、少しでもおかしいと思ったらすぐやめること。いいわね?」
「「はい」」
俺といなりは同時に返事をした。
居間の床に座り、学校で使っているタブレットを開く。
検索して表示したのは、人体の血液循環モデルの画像だ。
心臓。
動脈。
全身の血管。
静脈。
そして、また心臓へ戻る流れ。
それを見ながら、俺は目を閉じた。
腹の奥にある魔力の塊。
ヒールを使う時に動く、あの感覚。
それを、いきなり外へ出すのではなく、まず心臓のあたりへ持っていく。
そこから、血液に乗せる。
心臓が脈を打つたびに、魔力が全身へ広がる。
腕へ。
脚へ。
指先へ。
足先へ。
そして、また中心へ戻る。
押し出すのではない。
巡らせる。
流す。
回す。
「……」
少しずつ、呼吸を整える。
前回みたいに叫ばない。
気合いで噴き上げない。
金色にもならない。
血液みたいに、静かに回す。
すると――。
「あっ」
いなりが声を上げた。
「あるじ、魔力が動いています」
「本当か?」
「はい。魔力が、全身に巡っています」




