第30話
『そして、透さん』
「はい」
『あなたにも、神使を導く者としての道を示しましょう』
俺の胸の奥に、温かい何かが灯った。
それはスキルを得た時とも、職業を得た時とも少し違う感覚だった。
頭の中に、静かな声が響く。
【神使導師の心得を取得しました】
【神使導師への道が開かれました】
「神使導師……」
聞き慣れない言葉。
でも、不思議と重みがあった。
俺は光の中にいるいなりを見る。
いなりも、まっすぐ俺を見上げていた。
「いなりと一緒に頑張ります」
『はい。いい答えです』
宇迦之御魂神は満足そうにうなずいた。
『ただ、この小さなお社では、できることに限りがあります』
「できることに、限りがある?」
『ええ。もう少し大きなお社に来てくれれば、もっとお話できるでしょう』
「大きなお社……」
『はい。その時を楽しみにしています』
宇迦之御魂神は、穏やかに微笑んだ。
『では、また大きなお社で』
その言葉を最後に、宇迦之御魂神の姿は光の中へ溶けるように消えていった。
次の瞬間。
周囲の音が戻ってきた。
町の音。
風の音。
遠くを走る車の音。
「いなりは?」
「あい。ここなのです」
聞き慣れた声。
でも、聞こえてきた位置が少し違った。
俺はゆっくりと視線を下ろす。
足元にいたのは、小さな女の子だった。
十歳くらいに見える。
頭には白と紅の狐耳。
背中には、ふわふわした紅白の尻尾。
白地に紅の差し色が入った巫女装束。
そして、鮮やかな紅い髪と、琥珀色の瞳。
その表情には、見慣れたいなりの面影があった。
「宇迦之御魂神様にお仕えするって言ったら、こんな姿になったです」
「……いなりなのか?」
「あい♪ いなりなのです」
いなりは嬉しそうに、両手を広げ抱き着いてきた。
「えーーーー!?」
思わず声が出た。
境内に、俺の叫びが響く。
まずい。
誰かに聞かれたかもしれない。
そう思って周囲を見るが、幸い近くに人影はなかった。
いや、問題はそこじゃない。
問題は、目の前にいるいなりだ。
さっきまで小さな子狐だったいなりが、狐耳と尻尾のある女の子になっている。
しかも、巫女服。
完全にファンタジーである。
「あるじ?」
いなりが小首をかしげる。
「わたし、変ですか?」
「いや、変じゃない。可愛いけど……」
俺は両手で顔を覆った。
ダンジョン。
職業。
神様。
神使。
そして、いなりの人化。
昨日から、情報量が多すぎる。
「……とりあえず」
「はい?」
「一回、落ち着こう」
「わかりました」
いなりは素直にうなずいた。
その仕草は、子狐の時と同じだった。
見た目は変わった。
でも、いなりはいなりだ。
そのことだけは、すぐに分かった。
やっといなりちゃんが人型になりました。
ここから、透といなりが人、神使、人ならざる者を巻き込みながら進んでいきます。
まだまだ、続きますので、これからもよろしくお願いします。




