第26話
ダンジョンの外へ出ても、話はまだ終わりそうになかった。
警察の伊藤さんと有村さん。
市役所の藤堂さんと辻元さん。
それに親父。
大人たちは、入口の位置や今後の管理、立ち入りの扱いについて、まだ確認したいことがあるようだった。
とはいえ、山道の途中で立ったまま話し続けるのも落ち着かない。
「あの、キャンプ地まで移動しませんか?」
俺は手を上げて提案した。
「タープも張ってありますし、座れます。お湯も沸かせますから」
藤堂さんが親父を見る。
「よろしいですか?」
「はい。こちらとしても、その方が助かります」
そんなわけで、全員でキャンプ地へ戻ることになった。
◇
キャンプ地に着くと、俺はすぐにバーナーとポットを出して、お湯を沸かした。
タープの下にシートを広げ、簡単に座れる場所を作る。
昨日までなら、ここは俺が一人でのんびり過ごすための場所だった。
でも今は違う。
警察官がいて、市役所の人がいて、親父がいる。
俺のキャンプ地は、いつの間にか現地確認のための仮設スペースみたいになっていた。
少しだけ変な気分だった。
大人たちが資料を確認している間に、俺はダンジョンへ入るための同意書に目を通した。
内容は、探索中の怪我や事故について、市や警察は責任を負えないこと。
危険を理解したうえで、自己責任で入ること。
未成年の場合は、保護者の同意が必要なこと。
まあ、当然といえば当然だ。
俺は必要事項を書き、最後に自分の名前を記入した。
「親父、これ」
「ああ」
親父は書類を受け取ると、内容を確認してから保護者欄に署名した。
「無茶はするなよ」
「分かってる」
「分かってる、で済ませるな。ちゃんと守れ」
「……守ります」
「よし」
親父は書類を藤堂さんに渡した。
その間に、俺は紙コップへコーヒーを注いで配っていく。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「すみません、助かります」
警察官や市役所の職員にコーヒーを配る高校生。
しかも場所は、ダンジョンの近くのキャンプ地。
……昨日までの俺に言っても、絶対に信じないだろうな。
コーヒーを配り終え、使った道具を片づけていると、親父の声がした。
「透、こっちは終わった。帰るぞ」
「了解」
俺は荷物をまとめ、リュックを背負う。
伊藤さんたちは、もう少し周辺の確認をしてから戻るらしい。
藤堂さんと辻元さんも、現場の記録と市への報告があるため、ここに残るようだった。
「それでは、お先に失礼します」
親父が頭を下げる。
俺も続いて頭を下げた。
「失礼します」
そうして俺たちは、山を下りた。
いつもの帰り道のはずなのに、妙に足が重い。
ダンジョンを見つけた。
警察と市役所に確認された。
昨日までただの裏山だった場所が、少しずつ別のものに変わっていく。
それを自分の目で見ているのに、まだどこか実感が追いつかなかった。




