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第24話

 その時、藤堂さんの視線が、崩れた土偶の中へ向いた。

「……これは、何ですか?」

 俺が尋ねると、藤堂さんは土くれの中央に落ちている小さな石を見つめた。

 爪の先ほどの大きさ。

 くすんだ茶色をしているのに、内側から淡い光がにじんでいるように見える。

 昨日から、土偶を倒すたびに拾っていたものと同じだ。

「おそらく、魔石です」

「魔石?」

「はい」

 藤堂さんは、俺にも分かるように言葉を選びながら説明してくれた。

「六月一日の神託には、ダンジョン内では食料や資源、エネルギーなどを産出すると書かれていましたよね」

「はい」

「その中に、魔石の利用方法についての記載もありました。魔石に含まれる力を取り出し、電気や熱のようなエネルギーへ変換するための原理と、必要な装置の設計情報です」

「これが、エネルギーになるんですか?」

 土偶を倒すたびに落ちる、ただの光る石だと思っていた。

「神託の内容が正しいなら、エネルギー源になります」

 藤堂さんは慎重な口調で続けた。

「ただし、記載された方法をそのまま実用化できるわけではありません。安全性や出力、長時間使った場合の影響など、確認すべきことが多すぎます」

 辻元さんがタブレットを見ながら補足する。

「現在、国は理化学研究所などの研究機関と連携して、魔石の利用方法を検証しています。発電や燃料の代替として使えるのか。どの程度の量が必要なのか。危険性はないのか。そういった確認を進めている段階です」

「じゃあ、まだ使えるかは分からない?」

「正確には、使える見込みは高い。ただし、一般へ広く扱わせるための仕組みがまだ整っていない、という状態です」

 藤堂さんは魔石へ視線を戻した。

「だからこそ、この魔石は重要です。国が検証用として集める必要がありますし、今後は個人が持ち込んだ魔石を買い取る制度も作られる可能性があります」

「買い取り……」

 土偶を倒すと落ちる、あの小さな石が。

 ただのドロップ品ではなく、国が集めるほどの資源になる。

 俺は初めて、その可能性を実感した。

「土偶を倒すと、毎回これが落ちます」

「毎回、ですか?」

 藤堂さんがすぐに反応する。

「はい。今のところ、土偶一体につき一個です」

「触れても大丈夫ですか?」

「たぶん。俺は昨日から何個か拾ってますけど、特に変なことは起きてません」

 藤堂さんは一度だけ辻元さんと目を合わせた。

「辻元さん。写真をお願いします。大きさが分かるように、スケールも一緒に」

「はい」

 辻元さんはバッグから小さな定規と透明な記録シートを取り出した。

 魔石のそばに定規を置き、何枚か角度を変えて写真を撮る。

 藤堂さんはタブレットへ記録していく。

「土属性らしい魔物から出現。大きさは約一センチ未満。色は茶褐色。内部に微弱な発光あり……」

 記録を終えると、藤堂さんは親父へ向き直った。

「調査のため、この魔石は市で一度回収させていただいてもよろしいでしょうか」

「持っていってもらって構いません」

 親父は俺の方を見た。

「透もいいか?」

「うん。正体が分かった方がいいし」

「ありがとうございます」

 藤堂さんは透明な袋を取り出し、手袋をつけてから魔石を拾い上げた。

 魔石は袋の中でも、かすかに光って見える。

 藤堂さんは袋へ管理番号を書き込んだ。

「採取場所、採取日時、撃破した魔物の特徴、討伐に使った手段。これらを紐づけて記録します」

 親父が、その記録を見ながら尋ねる。

「今後、透が個人で魔石を入手した場合も、そういう記録は必要になりますか?」

 藤堂さんは少し考えてから、うなずいた。

「できれば、残しておいてください。現時点では正式なルールではありませんが、魔石の種類や出現条件を調べるうえで重要な情報になります」

「場所と日時。それから、どんな魔物を倒したか、ですね」

 俺が確認すると、辻元さんが補足した。

「可能なら、討伐に使った道具や、何人で入っていたかも分かると助かります。魔石の大きさや色、魔物の種類によって違いがあるかもしれませんから」

「でも、毎回メモを取るのは難しくないですか?」

 親父が言うと、藤堂さんは少し困ったように笑った。

「その通りです。探索中に手書きで記録するのは危険ですし、内容に間違いがあっても困ります」

 藤堂さんはタブレットを操作し、何かを確認してから続けた。

「そのため、国では探索者向けの記録用カメラを配布する方針が検討されています。ヘルメットや胸元に取り付け、入場から退場までを記録する小型カメラです」

「カメラ、ですか」

「映像があれば、魔物の種類や討伐方法、魔石が出た状況を後から確認できます。万が一、怪我や行方不明などの事故が起きた時にも、最後にどこまで進んでいたかを確認できます」

 確かに、それなら説明しやすい。

 いつ。

 どこで。

 何を倒して。

 どうやって魔石を手に入れたか。

 映像として残っていれば、俺たちが後から細かく説明しなくても済む。

「小森さんたちのように、所有地のダンジョンへ継続して入る方には、将来的に装着を条件とすることになる可能性が高いです」

「義務になるんですか?」

「少なくとも、行政が探索を把握し、魔石の買い取りや事故対応を行うためには必要になると思います」

 藤堂さんは、はっきりと言った。

「今はまだ配布できる段階ではありません。ただ、制度が整えば、市から支給した記録用カメラを装着していただく形になるはずです」

 親父が腕を組む。

「安全確認と、魔石の出所確認のためか」

「はい。それに、探索者本人を守るためでもあります」

 藤堂さんは透明な袋に入った魔石を見た。

「今回の分は、行政側の確認作業中に出たものですので、こちらで回収して記録します。ただし、今後、小森さんたちが個人で入手した魔石については、国の制度が整い次第、映像記録とあわせて回収や買い取りの対象になる予定です」

 まだ、何もかもが決まっているわけではない。

 それでも。

 ダンジョンに入るということは、ただ魔物を倒してレベルを上げるだけじゃない。

 何を見つけて。

 何を持ち帰って。

 どうやって帰ってきたのか。

 それを、社会の中で説明できるようにする必要がある。

 俺は、藤堂さんの手の中で淡く光る魔石を見た。

 これからは、魔石を拾うだけでも記録が必要になる。

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