第20話
キャンプ地に戻ると、俺は荷物の中からバーナーとポットを取り出した。
昨日までなら、ただのキャンプ道具。
でも今日は、警察を待つための簡易休憩セットだ。
バーナーに火をつけ、ポットに水を入れて湯を沸かす。
その間に、いなり用の小皿へ牛乳を注いだ。
「いなり。人が来たら、見つからないようにな」
「あい」
いなりは素直にうなずき、皿に顔を近づける。
ぺろぺろと牛乳を飲み始めた。
……本当に、この子は順応が早い。
俺はシートを広げ、座れるスペースを作った。
ポットからは少しずつ湯気が立ち始めている。
親父は少し離れたところで、警察と会社に電話をしていた。
しばらくして、親父が電話を終えて戻ってくる。
「警察は、あと一時間くらいで来るって」
「一時間か」
「着いたら俺の携帯に連絡が来るようにした。だから、いったん家へ帰る」
「帰ってもいいけど……時間は少しあるよな」
親父が俺を見る。
「何かするつもりか?」
「もう少しダンジョンに潜るかなって」
親父は、少し目を細めた。
「駄目だ」
「……はい」
「透も本格的にダンジョンへ関わるつもりなら、それなりに準備しなさい」
「準備?」
「せめてプロテクターや盾。鉈も、山道を整備するためのものではなく、戦うことを想定したものが必要かもしれない」
親父は、さっきの土偶を思い出すように言った。
「お前は、あれを一人で何度も鉈で叩いて倒していた。今の格好で、また複数に囲まれたらどうする?」
「……何も言えない」
「無茶をするなとは言わない。もう入った以上、気になる気持ちは分かる」
親父は俺の肩を軽く叩いた。
「だが、安全に入るためのことを考えろ。入るなら、生きて帰る準備をしてからだ」
「はい」
「ということで、家に帰って使えそうなものがないか見繕うか」
「了解」
「あい。いなりも、あるじをまもるです」
小皿から顔を上げたいなりが、小さく胸を張る。
親父は少しだけ笑った。
「それでも、頼りきりにはさせないぞ」
「あい?」
「いなりちゃんにも、透にも。まずは準備だ」
俺は、黒い入口のある山道を振り返った。
ダンジョンは、そこにある。
急がなくても、逃げない。
なら今は、もう一度入るより。
ちゃんと帰ってこられるための準備をするべきだ。
「帰ろう、いなり」
「あい」
俺たちは、警察が来るまでの時間を使って、一度家へ戻ることにした。




