第109話
八月十日から親父も夏休みに入った。
……とはいえ、十日と十一日は会社のゴルフコンペ。
結局、その二日間は俺たちだけで午前は勉強、午後はダンジョンという、いつも通りの生活だった。
十一日の夕食。
親父が箸を置いて俺を見る。
「そうだ、透。」
「今日、ゴルフで堀社長と一緒に回ったんだ。」
「盾のフレームが完成したから、一度静ちゃんに合わせて微調整したいそうだ。」
「明日の午前中、行けるか?」
「もちろん。」
「午前中は家で勉強する予定だったし、大丈夫。」
いなりも元気よく頷く。
「父様、私たちの宿題もほとんど終わったのです。」
「いつでも大丈夫なのです!」
「そうか。」
親父は笑った。
「じゃあ、明日の朝行くって連絡しておく。」
「「「「はい!」」」」
◇
翌朝。
親父の車で堀工業へ向かう。
いなりが窓の外を眺めながら言う。
「どんな盾になっているのです?」
「まだフレームだけって言ってたから。」
「枠だけの状態じゃないかな。」
「でも、大きさは分かるよ。」
「静にぴったりの盾になってるか楽しみだ。」
いなりも笑顔になる。
「静、きっと格好いいのです。」
静は少し照れながら頭を下げた。
「期待に応えられるよう頑張ります。」
俺は苦笑する。
「いや、頑張るのは堀社長だから。」
車内に笑いが広がった。
母さんも微笑む。
「私も一度ご挨拶したかったの。」
「静ちゃんたちがお世話になっている方だもの。」
いなりは嬉しそうに母さんへ寄り添う。
「母様と一緒のお出かけなのです。」
十分ほどで堀工業へ到着した。
工場の前では堀社長が待っていてくれた。
「小森さん、昨日はどうも。」
親父が頭を下げる。
「昨日はお疲れさまでした。」
「休みなのに対応いただいてありがとうございます。」
「いや。」
堀社長は笑う。
「気になって仕方なかったんだ。」
「早速見てもらおう。」
「こっちだ。」
工場へ入ると、作業台の上に二つの試作品が置かれていた。
一つは六角形の盾のフレーム。
ゲームに出てくる勇者の盾を思わせる形だ。
もう一つは、両端を丸く加工した鉄パイプ。
俺の棒だ。
「これが試作品。」
「盾のフレームと透君の棒だ。」
「俺の棒もできてる!」
「まだ塗装前だから渡せないけどな。」
堀社長は笑った。
「まずは静君。」
「盾を持ってみてくれ。」
「はい。」
静は握り手を持ち、腕を通す。
「そのバンドを締めて。」
「そう。」
「手首も固定。」
「いい感じだ。」
静は何度か腕を動かしてみる。
「どうだ?」
「……持ちやすいです。」
「振ってみろ。」
静はゆっくり盾を構えた。
一歩踏み込み、
左右へ振る。
前へ突き出す。
元へ戻す。
堀社長はじっと動きを見ていた。
「どうだ。」
「何か違和感はあるか?」
静は少し考えてから答える。
「肘の辺りが少し当たります。」
「あと、手首がもう少し動くと使いやすいです。」
「なるほど。」
堀社長はすぐにメジャーを取り出した。
「そのまま動くな。」
「付けたままで測る。」
寸法を測りながら、メモを書いていく。
「分かった。」
「肘の逃げを少し作る。」
「手首の固定も少し緩めよう。」
「これでかなり変わるはずだ。」
その様子を見ながら、いなりが嬉しそうに言う。
「静、格好いいのです。」
母さんも笑った。
「本当に似合ってる。」
烈が前へ出ようとすると、
いなりが袖を引っ張る。
「烈。」
「今日は静が主役なのです。」
「むぅ。」
母さんが笑う。
「烈くんは、そのくらい元気な方が烈くんらしくていいわよ。」
「そういうものなのか?」
「そういうものです。」
烈は納得したように頷いた。
堀社長は図面を見直してから言った。
「よし。」
「十七日までに調整する。」
「十八日以降、もう一回来てくれ。」
俺は少し考えた。
「尾張横須賀駅から歩いて来られそうですね。」
「じゃあ十八日の朝に伺います。」
「それでいい。」
「じゃあ次。」
「透君の棒だ。」
俺は試作品を受け取る。
握った瞬間、自然と笑みがこぼれた。
「重さも太さも、ちょうどいいです。」
軽く構え、
ゆっくり振る。
空気を切る音が心地いい。
「そのくらいにしとけ。」
堀社長が苦笑した。
「まだ滑り止めも塗装もしてない。」
「思い切り振ると飛んでいくぞ。」
「あっ。」
俺は慌てて棒を下ろした。
「すみません。」
「でも。」
「イメージどおりです。」
「そうか。」
堀社長は満足そうに頷いた。
「じゃあ、これも塗装して仕上げよう。」
「ありがとうございます。」
いなりが俺の横で嬉しそうに笑う。
「いいものができそうなのです。」
俺も自然と笑った。
「完成が楽しみだ。」




