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第106話

8月3日

今日は親父と一緒に堀工業へ向かう。

目的は、静の新しい盾と俺の棒について相談することだ。

車を走らせながら親父が笑う。

「今日会う堀社長はな、新しいものや変わったものが大好きなんだ。」

「探索者用の盾を作れないかって相談したら、土曜日なのに工場を開けてくれた。」

「そんな人なんだ。」

「たぶん今頃、西洋の盾の資料でもネットで調べてるぞ。」

それを聞いて少し楽しみになった。

十分ほど車を走らせると、堀工業へ到着した。

工場の前では、がっしりとした体格の男性が腕を組んで待っていた。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」

親父が頭を下げる。

「小森さんにはいつも世話になってるからな。」

「それに探索者装備なんて面白そうな仕事、断る理由がない。」

堀社長は豪快に笑った。

話を聞くと、社長自ら機械を動かして加工することも珍しくないらしい。

まさに現役の職人だ。

「で。」

「盾を使うのは誰だ?」

「あ、私です。」

静が一歩前へ出る。

「……こんな若い子が?」

社長は驚いたように静を見たあと、隣のいなりへ視線を移す。

「まさか、この嬢ちゃんも探索者か?」

「はいなのです。」

俺は笑いながら答えた。

「いなりはうちのエースですよ。」

「ほぉ。」

社長は感心したように頷いた。

「今日は静の盾と、俺の棒について相談したくて来ました。」

「よし。」

「まずは盾からだ。」

社長はメジャーを取り出した。

「腕を伸ばして。」

静が従う。

「今度は盾を構えるつもりで。」

静が姿勢を変える。

社長は腕の長さや肩幅を測りながら何度も姿勢を確認していく。

「右足を少し前へ出す癖があるな。」

「はい。」

「なら、重心は少し左へ逃がした方が扱いやすい。」

静は素直に頷いた。

測定を終えると、社長はホワイトボードへ簡単な図を書き始めた。

「全部鉄じゃ重すぎる。」

そう言って外枠を丸く囲む。

「ここは高張鋼のパイプ。」

次に中央へ十字を書く。

「骨も高張鋼。」

その周りを囲む。

「面は強化FRP。」

最後に持ち手を書く。

「持ち手は硬質ゴム。」

「滑り止めにゴムを巻く。」

「これなら十キロは切れる。」

静が目を輝かせた。

「軽そうです。」

「重量だけじゃない。」

「重心も調整する。」

「扱いやすくなるぞ。」

俺は思わず聞いた。

「納期と金額はどれくらいですか?」

「盆休みに加工すれば、二十日頃には渡せる。」

「値段は十万円。」

親父が思わず口を挟む。

「堀さん、この構成なら半値くらいじゃないですか?」

社長はニヤリと笑った。

「さすが小森さん。」

「分かるようになったな。」

「ただし条件がある。」

「何でしょう?」

「一か月使ったあと、見せに来い。」

「壊れ方も傷の入り方も全部見たい。」

「探索者装備なんて前例がない。」

「データが欲しい。」

俺はすぐに頷いた。

「もちろんです。」

社長も満足そうに頷く。

「よし。」

「開発費はうちで持つ。」

「その代わり、しっかり使ってこい。」

「ありがとうございます!」

「じゃあ次。」

「透君の棒だな。」

俺はアイテム袋から折れた棒を取り出した。

社長の動きが止まる。

「……。」

「今。」

「どこから出した?」

「あ。」

「第五層の宝箱からアイテム袋が出まして。」

「十立方メートルまで入るんです。」

社長は折れた棒ではなく袋を見つめている。

「そんな便利な物があるのか……。」

「俺、その袋の方が欲しい。」

全員が笑った。

ようやく棒へ目を向ける。

「これが折れた棒か。」

「六尺棒として手に入れたんですが、少し物足りなくなって。」

「もう少し丈夫な物が欲しいんです。」

「身長は?」

「百七十七センチです。」

社長は棚から何本か鉄棒を持ってきた。

「二十ミリ。」

「二十五ミリ。」

まず二十ミリを握る。

軽い。

次に二十五ミリ。

振ってみる。

止める。

もう一度振る。

「……。」

「こっちですね。」

社長は笑った。

「最初からそう思ってた。」

「二十五ミリ、中空。」

「肉厚四ミリ。」

「長さ百五十センチ。」

「これなら三・五キロくらいだ。」

「加工、両端処理、防錆、塗装で二万円。」

「グリップはスポーツ用品店で自分に合う物を巻け。」

親父が苦笑する。

「これも半値ですね。」

社長は肩をすくめた。

「若い奴が未知の世界へ挑む。」

「応援したっていいだろ。」

「こっちも二十日頃には仕上げてやる。」

俺は財布を取り出した。

「じゃあ、十二万円払います。」

社長は首を横に振る。

「こういう物は完成してから払うもんだ。」

俺は少し考えてから言った。

「親父が紹介してくれた会社です。」

「それに。」

「俺たちみたいな高校生の話を真剣に聞いて、一緒に考えてくれました。」

「だから。」

「信用できます。」

社長は少し黙ったあと、ゆっくり笑った。

「……そうか。」

「信用されたなら応えなきゃな。」

「前金、預かっておく。」

「その代わり、いい物を作る。」

俺は頭を下げた。

「よろしくお願いします。」

社長は笑ってスマホを取り出す。

「透。」

「連絡先を交換しよう。」

「加工中でも気になったことがあれば連絡する。」

「はい。」

交換を終えると、社長は工場を見回しながら笑った。

「面白い。」

「高校生が世界初の探索者装備を作る。」

「こんな仕事、断る理由がねぇ。」

「いいもん作ってやる。」

「お願いします!」

帰りの車の中で親父が笑った。

「気に入られたな。」

「そうなの?」

「ああ。」

「堀さんが『いいもん作ってやる』って言う相手はそう多くないぞ。」

俺は少し照れくさくなりながら、完成する装備がますます楽しみになった。


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