第102話
しばらく待っていると、会議室の扉が開いた。
藤堂さんと辻元さん、それに先ほど入口から俺たちを案内してきた職員が入ってくる。
「待たせて悪かったな、透くん」
藤堂さんは俺たちの向かい側へ座ると、少し困ったような顔をした。
「それで、今度は何をやったんだ? 一般公開の直前だというのに」
まるで俺が問題を起こしたような言い方だ。
少しだけむっとしながら答える。
「別に、何かをやらかしたわけじゃありません」
「そうなのか?」
「第五層を攻略して、その先へ進んだら、ダンジョンの出口があったんです。それを使って外へ出たら、入口が一つ増えていました」
「第五層を攻略した?」
藤堂さんの表情が変わる。
隣に座った辻元さんも、慌てて鞄からメモ帳を取り出した。
「透くん。第三層以降の状況を、順番に説明してもらってもいいか?」
「分かりました」
俺は、これまでの探索を思い出しながら話し始める。
「第三層に出てくる魔物は、第二層と同じ土偶とダンゴムシです。ただ、同時に出てくる数が増えます」
「具体的には何体くらいだ?」
「一体から三体くらいです。複数の魔物が同時に襲ってくるようになります」
辻元さんが、ものすごい速さでメモを取っていく。
「第四層からは土偶が出なくなって、小鬼が現れます」
「小鬼?」
「緑色の肌をした、人型の魔物です。錆びた剣や棍棒を持っています」
「一般的な呼び方なら、ゴブリンに近いものか?」
「はい。見た目はそんな感じです」
「第四層でも複数出現するのか?」
「はい。ダンゴムシと小鬼が、複数体で一緒に出てきます」
藤堂さんは腕を組み、険しい表情になった。
「人型の魔物が出るのか……」
「倒すと、ほかの魔物と同じように光になって消えます。魔石や、たまに別の物を落とします」
「別の物?」
「前に預けた、赤い液体の入った瓶は小鬼から出ました」
「あれは第四層の魔物から出たのか」
「はい」
辻元さんがメモを取りながら、顔を上げた。
「第五層は、どのような構造でしたか?」
「階段を下りると、すぐに大きな扉がありました」
「扉の先は?」
「広い部屋になっていて、小鬼が三体と、小鬼より一回り大きな個体が一体いました」
「大型の小鬼か」
「俺たちは、小鬼リーダーと呼びました」
正式な名称は分からない。
けれど、普通の小鬼たちを従えているように見えたので、戦闘中はそう呼んでいた。
「装備も、普通の小鬼とは違いました。立派な剣と盾を持っていて、革の防具も身につけていました」
「強さは?」
「かなり強かったです」
俺は壊れた静の盾と、折れた六尺棒を思い出す。
「静の盾が、何度か攻撃を受けただけで壊れました。俺の六尺棒も、剣を受けた時に折れています」
「怪我人は?」
「俺が左肩を切られましたが、《ヒール》で治しました」
「透様が、僕をかばってくださったのです」
静が申し訳なさそうに言う。
「無事だったんだから、気にしなくていいよ」
俺は静へそう答えてから、説明を続ける。
「小鬼リーダーを倒すと、部屋の中に箱が出てきました」
「宝箱のようなものですか?」
「はい。中には、俺たちの人数と同じ四つの袋が入っていました」
「その袋が、先ほど綾部さんが話していたものか?」
「《アイテム袋》という道具です」
俺は腰につけた緑色のポーチを指した。
「もともとは普通の布袋でしたが、昨日買ったポーチへ機能を移すことができました」
「機能を移した?」
「はい。このポーチの中に、十立方メートル分の荷物を収納できます」
「十立方メートル?」
辻元さんの手が止まった。
「そんなに入るのか?」
「説明では、そうなっています。それに、収納した物の重さも軽減されるようです」
「外でも使えるのか?」
「まだ確認していません。さっき入手したばかりなので」
「所有者以外も使えるのか?」
「所有者登録がされて、本人が解除しない限り、ほかの人は奪ったり使用したりできないようです」
「なるほど……」
藤堂さんと辻元さんが顔を見合わせる。
魔石や鉄鉱石とは比べものにならないほど、影響の大きな道具なのかもしれない。
「箱のほかには?」
「部屋の奥に、もう一つ扉がありました」
「その先に第六層が?」
「はい。扉を開けると、下へ続く階段がありました。それと、ダンジョン入口にある出口と同じような、白い球が浮いていました」
「それに触れたのか?」
「烈が」
全員の視線が烈へ集まる。
「出口だと思ったから、触っただけだぜ」
「確認してから触れと言ったでしょう」
静が小さくため息をつく。
「それで、烈はダンジョンの入口へ戻りました。俺たちも同じ出口を使って外へ出たところ、入口が二つに増えていました」
「なるほど」
藤堂さんは、そこまで聞いてから腕を組み直した。
「第五層の攻略が条件で、新しい入口が解放された可能性が高いな」
「俺も、そう思います」
「ほかに第三層以降で、報告しておくことはあるか?」
「あるじ」
いなりが手を上げる。
「第三層から、ダンジョンの壁に掘れる場所があります」
「ああ、そうだった」
俺はうなずく。
「第三層と第四層には、壁の一部に魔力が集まっている場所があります。そこをピッケルで掘ると、鉄鉱石が三個ほど出てきます」
「あの鉄鉱石は、そうやって手に入れていたのか」
「はい」
「誰でも見つけられるのか?」
「最初は、いなりにしか見えていませんでした。でも、目に魔力を集める訓練をしていたら、俺は《魔力視》というスキルを覚えました」
「魔力視?」
「魔力が集まっている場所や、人が魔力を使っている様子が見えるスキルです」
辻元さんのメモを取る速度が、さらに上がった。
「第三層以降は、魔物だけでなく資源も出るということですね」
「そうなります」
説明を終えると、藤堂さんはしばらく考え込んだ。
やがて顔を上げる。
「とりあえず、新しく増えた入口を確認したい」
「はい」
「透くんたちも一緒に来てもらえるか?」
俺は壁にかかった時計を見る。
午後四時を少し過ぎたところだった。
「いいですけど、五時までには家へ帰らないといけません。四時半頃には、ここを出たいです」
「分かった」
藤堂さんはすぐにうなずいた。
「遅くなりそうなら、こちらからご両親へ連絡する。それに、帰りは車で送るから、ぜひ協力してほしい」
「そこまで言われたら、断れませんね」
俺は苦笑する。
「分かりました。一緒に行きます」
「助かる」
「あるじ、頑張ってください」
いなりが隣から、俺の袖を軽く握る。
「いなりも一緒に行くんだぞ」
「もちろんです」
「ありがとな」
俺が頭を撫でると、いなりは嬉しそうに目を細めた。
「それでは、入口へ移動しましょう」
辻元さんがメモ帳を閉じる。
俺たちは藤堂さんたちと一緒に、新しく現れたダンジョン入口を確認しに行くことになった。




