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第8話:配信衣装の下のガーターベルト

深夜一時。家族が寝静まった静寂の中で、めぐみの部屋だけがブルーライトの不気味な光に照らされていた。


画面に映る数字は、ついに「同時視聴者数:8万人」を指している。


コメント欄は、めぐみが放つ一言、一挙手一投足に飢えた男たちの言葉で埋め尽くされていた。


『Meguちゃん、今日はいつもより目がトロンとしてる』

『そのリボン、解いてみてよ』

『秘密、教えてくれるんだよね?』


「……ふふ。みんな、せっかちだね……」


めぐみは、カメラに向かって、甘く、それでいてどこか虚ろな微笑みを向けた。


今の彼女は、タカシに用意された真紅のベビードールを纏っている。透けるようなレース、そして胸元で揺れる緑の蝶ネクタイ。それは、清楚さと淫らさが同居する、計算され尽くした背徳(スパイス)の象徴だった。


だが、その衣装の下には、誰にも見せていない[#傍点]最後の秘密[#傍点終わり]があった。


めぐみは、おもむろに立ち上がり、カメラの角度を少しだけ下へ向けた。


太ももまで露わになった境界線。そこに、黒いレースのベルトが食い込んでいる。


三年前の卒業式。健人が「大人になれよ」とはにかみながら渡してくれた、あのガーターベルト。


(……ねぇ、健人くん。見てる……?)


めぐみは、脳内で健人の顔を思い浮かべた。


今日、公園で自分を掴んだあの強い手。あの真っ直ぐな瞳。


その清らかな想いを、今から自分は、八万人の欲望という泥の中に放り投げようとしている。その背信(うらぎり)の重みが、めぐみの身体を甘く焦がし、瞳を潤ませていく。


「これ……実はね、一番大切な人から貰ったものなの……」


めぐみの指先が、ガーターの金具に触れる。


『えっ、大切な人!?』

『嘘だろ、彼氏のプレゼントかよ』

『見せて、もっと近くで!』


荒れ狂うコメント欄。嫉妬と欲望が混じり合い、画面越しに熱気が伝わってくる。


めぐみは、自分の太ももをゆっくりと撫で上げた。


ガーターベルトの金具が、カチリと音を立てる。その冷たい金属音は、彼女の心の中で、健人との思い出が砕け散る音に聞こえた。


「……めぐじゃーにー」


消え入りそうな声で、呪文を唱える。


その瞬間、彼女は恥じらいを脱ぎ捨てた。


金具を外したストッキングが、ハラリと床に落ちる。


「……これで、私はみんなのものだよ? ……ねぇ、もっと褒めて……?」


画面は熱狂の渦に包まれた。投げ銭が滝のように流れ、数字が狂ったように跳ね上がる。


100万人という(ステージ)に近づくたび、めぐみの心は空洞になっていった。


自分を切り売りし、一番大切だった「純粋な恋」を道具にして稼ぐ快感。


それは、どんなシャンプーやトリートメントよりも、めぐみの肌に毒々しいまでの艶を与えていく。


配信が終わり、カメラを落とした後。


めぐみは床に落ちたストッキングを拾い上げ、顔を埋めた。


そこには、もう健人の匂いなど残っていない。あるのは、自分が纏った高い香水の匂いと、自分自身への嫌悪だけ。


その時、スマホに一通のメッセージが届いた。


タカシからではない。


【送信者:このか】

【件名:おめでとう】

【本文:さっきの配信、[#傍点]最高だったよ[#傍点終わり]。……健人くんにも、教えてあげなきゃね】


メッセージと共に添付されていたのは、先ほどの配信でめぐみがガーターベルトに触れた瞬間のスクリーンショット。そして、このかが昼間の放課後、健人とめぐみが密会していた公園で撮った、健人の苦悩に満ちた横顔の写真だった。


「……あ……っ」


めぐみの手から、スマホが滑り落ちた。


配信での成功。背信の対価。


崩れ去る日常の足音が、もうすぐそこまで迫っていた。

第8話をお読みいただきありがとうございました!


【次回予告】

第9話:コラボ相手との境界線越え

このかの脅迫に怯えるめぐみ。そんな彼女に、タカシはさらなる過激な企画を提示する。人気VTuberや実写配信者との「肉体的なコラボ」。めぐみは、止まらない数字の魔力に、完全に自分を見失っていく。

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