第9話:コラボ相手との境界線越え
第8話をお読みいただきありがとうございます。
このかからの包囲網が狭まるなか、大物配信者レオとの密室コラボが幕を開けます。
ビジネスの名目で切り売りされる恥じらいと、それを見せつけられる健人の絶望を描く第9話です。
このかからの脅迫めいたメッセージ。その恐怖を塗り潰すように、めぐみのスケジュールは過密を極めていた。
プロデューサーのタカシが次に用意したのは、登録者数300万人を超える大物配信者「レオ」との密室コラボだった。
「いいか、Megu。今日はファンに『本物の嫉妬』を売るんだ」
スタジオに向かう車内、タカシはめぐみの耳元で囁く。
「向こうは手慣れている。君はただ、翻弄されるがままの無垢な獲物を演じればいい」
めぐみの膝の上には、学校の制服によく似た、けれど極端に丈の短い「コスチューム」が用意されていた。
「……めぐじゃーにー」
震える声で呪文を唱え、彼女はスタジオの重い扉を開けた。
そこにいたのは、派手な金髪とピアス、熟れた余裕の笑みを浮かべる男、レオだった。
「へぇ、君が噂のMeguちゃん? 思ってたよりずっと『いい身体』してるね」
レオの視線が、めぐみの首筋から脚にかけてを、品定めするように親しげに這う。
配信が始まると、同時接続数は瞬く間に二十万人を超えた。画面には「地獄のコラボ」「Meguちゃん逃げて」という文字と、それ以上に「もっとやれ」という残酷な期待が渦巻く。
「……っ、やめてください……っ」
レオがめぐみの腰を引き寄せ、耳たぶに唇を寄せる。
それは台本通りの演技のはずだった。けれど、レオの手がスカートの奥、健人から貰ったあの[#傍点]ガーターベルト[#傍点終わり]に触れた瞬間、めぐみの全身に電流が走った。
脳裏に、図書室で静かに本を読んでいた自分と、それを見守っていた健人の笑顔が浮かぶ。
(健人くん……助けて……っ)
心の中では叫んでいるのに、カメラを向けられた「Megu」の唇は、快楽と羞恥に染まった、最高にそそる吐息を漏らしてしまう。
境界線を越える。
ビジネスという名目で、知らない男の指先を受け入れ、その様子を全世界に晒す。
かつては健人だけに見せたかったはずの「恥じらい」が、今は一分一秒ごとに換金され、巨大な数字へと化けていく。
「……あ、は……っ……」
めぐみの瞳が、これまでにないほど潤んでいく。それは、絶望ゆえの涙か、それとも禁忌を犯することへの異常な高揚か。
配信が終わったとき、めぐみの首筋には、タカシの時よりも深く、鮮やかな背信の痕がいくつも刻まれていた。
フラフラとスタジオを出た廊下。
タカシが満足げにめぐみの頭を撫でる。
「最高だったぞ。明日には100万人の背中が見える」
その言葉を聞きながら、めぐみはスマホを開いた。
そこには、一通の着信履歴。
三浦健人。
震える指でかけ直すことはできなかった。
今の自分は、彼が「めぐみ」と呼ぶに相応しい存在ではない。
その頃。
健人の家では、このかが健人の隣に座り、ある動画を見せていた。
先ほどの、めぐみとレオの「境界線を越えた」コラボ配信のアーカイブだ。
「……嘘だろ。これ、めぐみ、なのか……?」
健人の声は震えていた。
画面の中で、知らない男に腰を抱かれ、うっとりとした表情で「めぐじゃーにー」と呟く美少女。
それは、健人が守りたかった、あの地味な幼馴染の面影を無惨に踏みにじる姿だった。
「健人くん、これが真実だよ。めぐみちゃんは、もう私たちの住む世界の人じゃないの」
このかが健人の腕に、そっと自分の胸を押し当てる。
健人は拒まなかった。
その瞳から、幼い恋の輝きが消え、暗い背信の色が混じり始めていた。
めぐみはこの時、まだ知らない。
自分が数字の階段を登るスピード以上に速く、二人の心が自分から[#傍点]逃げて[#傍点終わり]いっていることを。
第9話をお読みいただきありがとうございました!
【次回予告】
第10話:瞳が潤む夜
100万人を目前に、めぐみの身体は限界を迎える。学校での健人の視線は、もはや「心配」ではなく「蔑み」へと変わっていた。追い詰められためぐみは、配信中に取り返しのつかない「告白」を始めてしまい……。




