第4話:最初の仕事の夜(業界の人と軽い接触)
第3話をお読みいただきありがとうございます。
初めて訪れる事務所という異世界、プロデューサー・タカシから提示される過激な条件。
めぐみが「女」としての禁忌に触れ、幼馴染二人との決定的な亀裂が生まれ始める第4話です。
放課後の喧騒が消えた街。めぐみは駅前のデパートの多目的トイレで、素早く「変身」を済ませていた。
制服の上に着たカーディガンを脱ぎ捨て、胸元を大胆に強調するオフショルダートップスに着替える。メガネを外した瞳には、潤みを持たせるための高価な目薬をさした。
「……めぐじゃーにー」
鏡の中の自分に呪文を唱え、向かったのは駅から少し離れた雑居ビルの一室。そこが、メールの主、タカシプロデューサーの事務所だった。
「……失礼します」
重い扉を開けると、タバコの煙と高級な香水が混じり合った匂いが鼻をついた。
「いらっしゃい、Meguちゃん。……いや、今はめぐみさん、と呼ぶべきかな?」
ソファに深く腰掛けていたのは、仕立ての良いスーツを着こなした三十代前半の男――タカシだった。彼は、怯える小動物のようなめぐみの姿を、品定量するように執拗に眺める。
「君の配信は素晴らしい。特に、あの『学校でのスリル』はファンを熱狂させた。……だが、100万人を目指すなら、今のままでは足りない」
タカシがテーブルに置いたのは、一枚の契約書と、豪華な衣装が詰まった紙袋だった。そこからのぞくのは、これまでのめぐみが着たこともないような、露出度の高い、けれど計算し尽くされた「大人の女」の衣装。
「視聴者が求めているのは、君の『恥じらい』が崩れる瞬間だ。清純な少女が、大人の階段を無理やり登らされている……その背徳感を売るんだよ」
「……どうすれば、いいんですか」
めぐみの声が震える。タカシはゆっくりと立ち上がり、彼女の背後に回った。大きな手が、めぐみの華奢な肩を包み込み、耳元で低く囁く。
「まずは、僕が君を『女』にしてあげよう。仕事だよ、これは」
めぐみの頭に、健人の顔が浮かんだ。
いつも優しく頭を撫でてくれる、あの大きな手。
けれど、タカシの手が首筋を這い、耳たぶに触れたとき、めぐみの脳内は真っ白なノイズで埋め尽くされた。
(健人くん、ごめんね……私、もう戻れないよ……っ)
その夜、めぐみが事務所を出たのは、終電間際だった。
夜風に吹かれる頬は、これまでのどの配信のときよりも赤く火照り、髪は艶を帯び、瞳は涙を堪えたような潤みを湛えていた。
指先がかすかに震える。スカートの下、健人からもらったガーターベルトは、タカシの手によって一度外され、再び歪に留め直されていた。
それは、彼女にとっての「初めての仕事」の証だった。
地元の駅に着くと、改札の前に見覚えのあるシルエットがあった。
「……健人くん?」
「めぐみ! お前、こんな時間までどこ行ってたんだよ!」
健人が、血相を変えて駆け寄ってくる。
その隣には、不安そうに眉を寄せたこのかもいた。
「携帯も繋がらないし、家の人も心配して……。おい、その格好……」
健人の言葉が止まる。
街灯の下、めぐみの姿はあまりにも毒々しく、そして美しかった。
乱れた髪、少しだけはみ出した口紅、そして何より――その瞳の奥に宿る、少女から「女」へと変質してしまった、生々しい色香。
「……用事があったの。もう、子供じゃないから」
「めぐみちゃん、声が……変だよ?」
このかが、めぐみの首筋に目を留める。そこには、慌てて隠したはずの、けれど隠しきれていない赤い痕があった。
めぐみはとっさに首を隠し、二人から視線を逸らした。
「……疲れたから、帰るね」
すれ違いざま、健人がめぐみの腕を掴もうとしたが、彼女はその手を冷たく振り払った。
配信での成功。100万人への階段。
そのために、めぐみは最も守るべき二人を、最大級の嘘で裏切った。
夜の闇の中、めぐみの頬を伝った涙は、悲しみゆえか、それとも禁忌を犯した快感ゆえか。
彼女の「はいしん」は、もう誰にも止められなかった。
第4話をお読みいただきありがとうございました!
【次回予告】
第5話:頬が熱くなる理由
仕事の翌日、めぐみの体からは「大人の匂い」が消えない。学校で健人とこのかが向ける心配の眼差しが、今のめぐみには刃のように突き刺さる。
そして、タカシから届く、さらに過激な指示。




